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悪役令嬢、残機3。  作者: 黒猫ている


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1/20

1:冤罪、即・処刑。──ですが、残機3です

20話までは先行公開として、1日1話ペースで投稿していきます。

(毎日19時10分予約投稿)

王城の奥まった一角。

要人以外は立ち入ることの出来ないエリア。

そこに、武装した物々しい兵士達が押しかけていた。


「何事ですか、ここをどこだと思っているのです!」


私が声を荒らげると、先頭に立つ騎士が恭しく──多少わざとらしすぎるほどに、深々と頭を下げた。


「レイチェル・ウィズダム公爵令嬢とお見受けいたします」


レイチェル・ウィズダム──それは確かに、私の名前だ。

だが、彼等にとってその名は、もっと別の意味を持つはず。


「ここが私の居室と知っての振る舞いですか」

「ええ、勿論存じておりますとも」


騎士の唇が、弧を描く。

ここが私の──王太子殿下の婚約者、未来の王太子妃の居住区であると知って、武装した兵士を率いて押し入ってきたというのか。


「一体、何事ですか」


ギロリと、騎士達を睨み据える。

しかし、彼等はこんなことで怯みもしない。


「ウィズダム公爵令嬢……貴女には第二王子と共謀し、王太子殿下を害そうとした嫌疑が掛けられております」

「私が……第二王子と!?」


第二王子アイヴァン・クレイヴン──我が婚約者であるエルトン・クレイヴン王太子殿下を謀殺しようとした大罪人。

現在余罪を追及されている真っ最中の、謀反人である。


「そんなはずはありません! 私は彼と個人的に話し合ったことすら──」

「子細は、我々がお調べします。おい、お連れしろ」

「はっ」


屈強な騎士達に前後左右を囲まれて、居室から連行される。

これでは、まるで罪人扱いではないの。


どうして、こんなことに……?

戸惑う私の耳に、信じられない一言が飛び込んできた。


「あったぞ!! 第二王子と交わした文を発見した!!」


私が振り返るより先に、バタンと音を立てて扉は閉められてしまった。


──そんなはずはない。

私は第二王子と個人的な関わりを持ったことはない。

彼と文を交わしたことも、親しく話したこともないというのに……。


「さぁ、北の塔へお連れします」


私を連行する騎士の言動は、恭しくも一方的なものだった。


北の塔とは、身分ある罪人を収監する為の施設。

王族やそれに準じた身分の囚人が投獄される場所だ。


どうしてこんなことに。

まるで訳が分からなかった。

私の部屋から、文が見付かった?

そんなもの、書いた覚えも受け取った覚えもない。


「何かの間違いです、ちゃんと調べていただければ──」


私の叫びは、鉄格子の閉まる音によって虚しく遮られた。


「勿論、調べは公正に行っております。ご安心めされよ」


公正な調べ?

そんな物が行われているというのなら、どうして私の部屋から存在するはずのない手紙が見付かったというのか。

最初から──私を陥れるつもりだったのではないか。


全てを察した気がして、冷たい檻の中で、へたり込む。

国の為、王太子殿下の為にと、自分を殺して仕えてきたつもりだった。

その結果が、これとは……もはや、愚かな己を呪う言葉しか浮かんではこなかった。




私レイチェル・ウィズダムは、才女と評判の公爵令嬢だった。

単に前世の記憶があり、幼い頃から実年齢以上に大人びていただけなのだが、周囲はそんなこと知りもしない。

私もまた、抱えた秘密を誰にも話せずに居た。

幼い頃に家族を亡くした私は、ずっと独りぼっちだったのだ。


父と兄が亡くなってから、ウィズダム公爵家は叔父が管理していた。

叔父夫婦から酷い扱いを受けた訳ではないが、どうしても心の距離を感じてしまう。

エルトン殿下の婚約者に指名され、王城で暮らすことが決まった時は、これで公爵家を出られると、どこか安堵したものだ。


エルトン殿下は、前世で何度かプレイした乙女ゲームの攻略キャラのような人だった。

キラキラとした王子様。

聡明で誰に対しても優しく、国を統べるに相応しい人。

彼となら、きっと素敵な未来を紡いでいける……そう思っていたのに。




「やれやれ……婚約者ともあろう者が、僕を裏切るとはな」

「殿下!!」


聞き慣れた声が、冷え切った地下牢に響く。

カツン、カツンという足音と共に、目映い金糸を抱いたエルトン王太子殿下が姿を現した。


「これは何かの間違いでございます、私は第二王子と内通など──」

「あら、まだ認めておりませんの?」


殿下の背後から、場違いな声が響いてきた。

この場にそぐわぬ明るい声音は、若いご令嬢のものだ。

この声を、私はよく知っている。


「……セシリア・エフィンジャー侯爵令嬢?」


私のアカデミー時代からの友人であり、殿下とも親しい彼女ではあるが……彼女が、なぜ殿下と一緒にこの場に居るのだろうか。


「なぁに、どうせ証拠は揃っている。認めようが認めまいが、関係のないことだ」


王太子殿下は薄く笑って、セシリアの肩を抱いた。

鉄格子越しにこちらを見つめる彼女の瞳には、優越感が滲み出ている。


「馬鹿な女」


私を嘲笑うかのような、セシリアの声。


本当は、最初から分かっていた。

友人と言われて納得するには、二人の距離は、あまりに近すぎた。

殿下の心は私にはなく、最初から彼女──セシリア嬢に向いていた。


我がウィズダム公爵家は、クレイヴン王国きっての大貴族。

王太子殿下が必要としていたのは、私ではない。

ウィズダム公爵家という支持基盤だったのだ。


「ねぇ、殿下。この女の処刑は、いつになりますの?」

「そうだなぁ、遅くとも十日以内には行われるだろう」


……処刑。

公爵令嬢である私を、処刑するのか。

ゾクリと、腹の底が凍てつく。


「ウィズダム家の資産は、全て殿下の物になりますのね」

「ああ。どの程度溜め込んでいるのやら……楽しみだな」


私が罪人となったことで、叔父が溜め込んだ公爵家の資金は、全て押収されるのだろう。


私が婚約した時は、まだエルトン殿下は王太子ではなかった。

当時は貴族の支持が第一王子派と第二王子派に割れて、真っ向から対立していた。

そのバランスを崩したのが、我がウィズダム公爵家──叔父様の支持だった。


殿下は私と結婚することで政敵である第二王子派を圧倒し、謀反人となった第二王子を捕らえた後は、私とウィズダム家さえも切り捨てるおつもりなのだ。

いや、切り捨てるなどという生易しいものではない。

家を取り潰し、その財産を押収して、自らの腹を肥やそうとしている。


なんという、悍ましい計画か。

彼の為に尽力してきた、私の今までは何だったのだ。




暗く、冷たい獄中生活の後、私は久しぶりに日の光の下へと連れ出された。

王城前の広場。

多くの民衆が押しかけ、防衛線を張った騎士達と押し合いを繰り広げている。


彼等の心ない声が、波となって押し寄せる。

一つ一つの言葉は聞き取れずとも、彼等が何を口にしているかは理解出来た。


謀反人。大罪人。

国庫を浪費し、税を上げさせ、民を苦しめた悪逆非道な婚約者。

いつの間にか、増税までもが私の浪費癖のせいということになっているらしい。

国庫に手を付けたことは勿論、ウィズダム公爵家の財産でさえ、贅沢をしたことはないというのに。


民衆が囃し立てる中、騎士達に連行されて、一段、また一段と上がっていく。

向かう先に聳え立つのは、冷たい鉄の刃がセットされた処刑台だ。

処刑台の上で、一度だけ背後を振り返る。

視界に入ってくる顔、顔、顔。

そのどれもが私の死を望み、この見世物を楽しんでいた。


ああ、どこで間違ってしまったのだろう。

エルトン殿下を信じてしまった、私が愚かだったのか。

今となっては、もう……後悔さえ浮かんではこない。


騎士達に押しつけられて、処刑台の窪みに、細い首を押し嵌める。

ご丁寧に、騎士の一人が長い髪を掻き上げてくれた。

広場の歓声は、最高潮に達していた。


「──落とせ」


エルトン殿下の声が、短く響く。

長年自分の婚約者であった相手を殺すというのに、彼の声には、躊躇の欠片も見られない。


「ああ、やっと静かになるな」


どころか、私の死を最も望んでいたのが、彼だった。


ヒュッと、一瞬だけ風を切る音がした。

次いで、ゴトリ──と、何かが落ちて転がる音。

それっきり、私の意識は闇に閉ざされた──はずだった。




ふと、目の前に浮かんだ文字に、目を凝らす。

なんだろう、これ。

黒い背景に、明るめの緑色で表示された文字。

文字を覆う四角形といい、まるで前世で良く見たゲームのインターフェースみたいだ。



リセットしますか?


 ▶はい いいえ



指もないのに、自然と意識が「▶はい」に伸びていく。

その瞬間、世界が“音を失った”。

一拍の静寂の後、眩い光が視界を満たす。




気付いた時には、懐かしい天井が目に飛び込んできた。

身を起こすと、身体がやけに重い。

首元が、軋むように痛みを訴えている。


でも……間違いない。

あの時落とされたはずの首は、間違いなく付いている。

私は、まだ生きている。


べたべたと、首元を触ってみる。

その両手が、やけに小さいことに気が付いた。


ベッドから起き上がり、姿見を探す。

懐かしく感じたのも、当然のことだ。

ここは、私が幼少期を過ごした場所──ウィズダム公爵家の自室。


姿見の前に立つ姿は、幼い頃の私そのままだ。

少し癖のある、銀色の髪。

大きな青色の瞳。

一番幸せだった頃──お父様とお兄様が生きていた、あの頃の私の姿。


まるで、夢みたいだ。

夢と言えば、そうだ。

意識を失う前に見た、あの文字。

あれはまるで、ゲームのリセット確認画面みたいだった。


「まさか、ここがゲームの世界ってことは無いと思うけれど……」


半信半疑のままに、口の中で小さく「ステータス」と呟いてみる。

瞬間、目の前に緑色のあのインターフェースが表示された。


「これは……」


レイチェル・ウィズダム(10歳)

職業:公爵令嬢

称号:悪役令嬢

スキル:鑑定、加護


目の前に、半透明な画面が現れ、私の情報がズラリと並ぶ。

中には、自分でも覚えのないことまで書かれている。


本当に、ここはゲームの世界なのか。

それとも、ゲームを模して作られた世界なのだろうか。


何にせよ、やり直し(リセット)が出来たのは良かった。

もう二度と、あんな惨めな思いはしない。

私の人生、あんな奴等に踏み躙られはしない。


「それにしても……」


一つだけ、気になることがある。

右上に書かれた言葉……これって、きっとこれからの行動に大きく関わってくるわよね?


「残機3、か……」


リセットによって、蘇った私。

そのステータスには“残機3”という文字が描かれていた。

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