完璧な悪役令嬢の弱点 ~婚約者だけには勝てません~
「シンディ、お前の新しい継母と異母妹だ」
そう言って父から愛人を紹介されたのは、私の母であるバラデュール侯爵夫人が亡くなって数日後の事だ。
我が王国では宗教上、「三十日間は亡くなった魂のために祈る」と決められており、静かに故人を偲ぶ期間とされていた。
その期間が明ける前に後妻を迎えるなど、教会の教えに反している。再婚は“慶事”として扱われ、三十日の祈りの後でなければならないとされているのに。
そもそも、亡くなって一週間後には教会で故人に祈りを捧げるミサが行われるのだから……呼ぶのはその後じゃないかしら。
まだそれすら終わっていないにもかかわらず、後妻を入れるなんて……。
満面の笑みをたたえている二人の女性。目尻は釣り上がり、私を見下しあざ笑っていた。既に父の視線も私ではなく、隣にいる二人へと注がれている。
本当に不思議に思う。
父にはあの下品な笑みが見えていないのだろうか……きっと見えていないのよね。「やっと二人を屋敷に呼べた」と言わんばかりの満足そうな表情を浮かべているもの。
ひとつため息をつきたくなるが、貴族としての矜持がそれを許さない。
「よろしくお願いいたします」
まあ、これから一緒に暮らすのだ。良好な関係を保てるのならそれで良い。
私は二人へ頭を下げる。けれども、相手はニヤニヤと笑みをたたえるだけで、私に何を言う事もなかった。
そこから私の生活は一変した。
侯爵家にいた使用人の大部分は入れ替えられ、愛人の言う事を聞く使用人たちが屋敷を闊歩するようになる。彼らは異母妹に媚を売りたいがために、愛人や異母妹の命令を忠実に実行し始めた。
私の部屋のクローゼットにあるドレスは二着を残して全て持ち去られ、装飾品も全て愛人と異母妹が取っていく。
それどころか――。
「お前は今まで良い部屋で贅沢に暮らしてきたのだ。異母妹に譲りなさい」
と父に言われて、私は屋根裏部屋に押し込まれてしまう。
幸いだったのは、母に忠誠を誓っていた執事長と侍女長以外にも数人屋敷に残っていた事だろうか。
彼らが私のために、埃っぽい屋根裏部屋を内緒で掃除をしてくれた。だが、数日後それを知った愛人によって彼らも辞めさせられてしまったのだ。
執事長も侍女長も、今は上に立つ人がいないから続けられているが……辞めさせられるのも時間の問題だ。
だから私は二人にいくつか指示を出した。
その後からは愛人の意向を汲む使用人しか訪れなくなった。
食事は固くなったパンと野菜の切れ端しか入っていない……使用人でも食べる事のないようなスープが一日一度。
しかもそれを返すのは自分で行わなければならず、使った物を下げに行けば遠巻きに陰口を叩かれていた。
「あら、侯爵令嬢がお盆下げですって?」
「あの方の婚約者様が見たら、失望なさるのではないかしら?」
婚約者、という言葉を耳にして私は少し肩が跳ねる。その様子を見た使用人たちは、面白がってどんどん私を貶していく。
「侯爵様は公爵家に直訴して、婚約者をクロイ様にすげ替えようとしているそうよ。クロイ様が侯爵家を引き継ぐのも時間の問題ね!」
「あ……そう言えば、クロイ様が『ニコラス様、格好良かったわ』と仰っていたわ」
「あら、もうクロイ様と顔を合わせているの?」
悪口を言い合っていた二人の話が気になったのか、通りかかった使用人が声をかけた。
「ええ。先に公爵令息様とクロイ様を会わせて、入れ替えを承認させようとしているそうよ」
「確かに、公爵令息様がクロイ様の味方につけば、上手くいきそうよねぇ〜!」
「私も見ていたけど、お二人の出会いの感触は良さそうだったわ!」
「そうよねぇ! クロイ様、可愛らしいですものね!」
ケタケタと笑う使用人たち。眉間に皺がよってしまう私。
その表情の変化が面白いのか、私が降りるたびに使用人はどこからか仕入れた話を披露するようになった。
それだけではない。
特にお風呂。汚れたタオルに水バケツのみ。
流石にミサに行く時はお風呂に入れたけれど、愛人の指示なのか……使用人は私の体を痛いくらいゴシゴシと洗う。そして髪を引っ張ったり、コルセットを強く締めたりして、何も言わない私で憂さ晴らしをしているようだった。
以前より少しみすぼらしくなった私を見て、父は鼻で笑う。
そんな馬鹿にするような父を見て私は悲しげな表情を浮かべたが、父の笑みはさらに深まるばかりだった。
ミサから帰宅した私は、蔑む表情で私を見る三人の前を俯き加減で通り過ぎた。
私の震える背中を後ろで見ている三人の、下品な高笑いが廊下に響き渡る。私が屈辱に打ちひしがれている事が、愉快で仕方がないのだろう。
屋根裏部屋に向かう途中、愛人の手が伸びている使用人たちの横を通る。すると彼らも、私をくすくすと見下すように笑っている。
「あら、あのお嬢様、もう見る影もないわね」
「本当よね〜。侯爵家から除籍されるのも、時間の問題かしら?」
「あはははは! 平民になったらどうなるのかしらねぇ?」
「見ものよねぇ〜」
途中からは私をこき下ろす声が耳に入ってくる。
ここで何かを言えば、あの者たちの思う壺だ。目から溢れそうになる涙を堪え、嘲笑に耐えながら、私は足早に屋根裏部屋を目指した。
屋根裏部屋へと入ると、私はベッドへと飛び込む。
感情が落ち着かないのだ。
ある意味、予想通りの展開であったのだが……実際に受けてみると、悲しみではなく怒りが込み上げてくる。
頭の中では三人のせせら笑いや、使用人たちの蔑んだ視線が渦巻く。
そうね。
もう少し、使用人が節度を弁えてくれたら。
もう少し、父が私の母と向き合おうとしていたら。
もう少し、愛人と異母妹が自分の立場を理解しようとしていたら。
それであれば私も……。
そこまで考えて、私はベッドから立ち上がる。
いいえ、「もしも」を語る時間はもう終わりだ。考えたところで、何かが変わるわけではないのだから。
常識を弁えずに愛人と異母妹を連れてきた時点で、家族としての最後の情すらも砕け散っている。
……私は、もう何もできない子どもではない事を、あの男に教えてあげませんと、ねぇ。
私は絵本のように、王子様が迎えに来るまで待つ事はしないの。自分の足で歩くのよ!
私が決意してから数日後の、月明かりが綺麗な夜の事。
部屋の窓に何かがコン、と当たるような音が聞こえた。
私は静かに窓の鍵を開けて周囲を見回す。すると、近くに一通の封筒が置かれていた。
窓を閉めた私は、封筒を開けて文面を確認する。
そこには、見覚えのある……お祖父様の字が並んでいた。私を気遣う言葉と、反撃のための手立てがそこには書かれている。
今回連絡を取ったのは、母方のお祖父様だ。
最近は連絡を取れておらず、お祖父様の字が懐かしく感じる。だからだろうか……私の目からは涙が溢れていた。
しばらくして涙が止まった私は、窓から見える空を見つめた。
そこにはほぼ丸い形の月がぼんやりと浮かんでいる。まるで私を応援してくれているようだ。
決行は明日の夜。
私は明日の夜から、反撃の狼煙を上げるのだ。
翌日。
使用人が扉をノックする音が聞こえた。
食事を扉の前に置く合図である。私はベッドへと潜り込み、わざと咳をしながら、扉の奥にいる使用人へと声をかけた。
「今日、夜の水桶は持ってこなくて良いわ。体調が悪いの。明日までそっとしておいてくれる? 食事のお盆は元気になったら下げるから」
そう告げると、扉の前にいた使用人は「分かりました」と言って下がる。その言葉に笑いが篭っていたから、きっといい気味だ、とも思っているのかしら。
しばらくすると、廊下をドスドスと……はしたなく歩く音が聞こえる。
眉間に皺を寄せているとその音は扉の前で止まり、甲高い声が扉の外から聞こえた。
「異母姉様! 体調を崩したのですって?!」
まるで私の体調不良が嬉しいかのように楽しげに話す異母妹。
「じゃあ、明後日までは使用人を来させないようにしておくわ! ゆっくり休んでね、異母姉様。あ、そうそう。今日はニコラス様もうちに来るのよ! 異母姉様の代わりに私がお相手するわ。ニコラス様、私の事を好きって言ってくださったの! ニコラス様を取ってしまってごめんなさいねぇ、異母姉様」
私の返事を聞く事なく、決定事項のように言いたい事を言って去っていく異母妹。耳障りな音がなくなった事に胸を撫で下ろした私は、ふとニコラス様の事を思い出した。
私の婚約者であるニコラス様。
公爵家の次男で、私の幼馴染でもある一個上のお兄様。
私たちの代には王族がいないため、婿入りする婚約者としては一番の優良物件だなんて言われていたわ。最初聞いた時、ニコラス様を物件に例えるのもどうかと思ったけどね。
侯爵家で一人娘の家はいくつかあったけれど、その中でも我が家を公爵様は選んでくれて……本当に嬉しかったのを覚えている。
あのニコラス様が、まさか私の異母妹に……?
いや、そんなはずはないと私は思った。
私とニコラス様の婚約は早々に決定したので、幼い頃から共に過ごしてきている。
長年彼と寄り添ってきて、私は彼の優しさを、真面目さを、一番よく知っているのだ。妹の言葉など、きっと私を陥れるための嘘に違いない。
そう言い聞かせようとしても、胸の奥には拭いきれない不安がよぎった。
……だめね、今の私は悪い方向へと思考が偏ってしまっている。
異母妹の言葉も、愛人の息がかかっている使用人たちの言葉も、ニコラス様を外から見た姿にしかすぎない。ならば、ニコラス様から話を聞くまで決めつけてはならないはずよ。
……でも、落ち着いたら問い詰めてもいいわよね?
そして決行の夜。
私は屋根裏部屋に置いてあったロープを念の為ベッドの下へと置いておく。ここは二階だ。もしかしたら、ロープを使って降りるのかもしれない、そう思った私は一応準備をしておいた。
途中誰かが来るかもしれないと焦った。しかし私の体調が悪いと聞いたからか、異母妹が喚いたあとは誰もここには来ることがなかったのは幸いだった。
月が空の天辺まで登った頃、窓に何かが当たる音がした。見ると、そこにはローブで顔を隠した男性らしき人たちがいる。
私が窓を開けると、一人の男性が手を差し出してきた。私はその男性に手を差し伸べると、手をグッと掴まれ窓の外に引っ張られた。
もう一人の男性が、人差し指を口に当てる。私は無言で頷くと、彼は私に背を見せる。付いてこい、という意味だろうか?
隣の男性に視線を送ると、彼は首を縦に振った。私は足音を立てないように、屋根の上を歩く。
そして屋根の端にたどり着いた時、私の体が持ち上がった。私と手を握っていた男性が、お姫様抱っこで私を抱えたのだ!
何が起きているか分からないまま、彼は私を抱っこしたまま屋根から降りる。私が混乱しているうちに、いつの間にか外に出ていたらしく、気がつけば動く馬車の中で、一人座っていた。
屋敷が遠ざかっていく。
少し胸が痛んだけれど、私はまたバラデュール侯爵家の者としてここに戻って来るのだ。その時までに色々と壊されていないといいな、と思う。
ゆらゆらと心地よい揺れに、私の緊張の糸はプチン、と切れたらしい。いつの間にか眠っていた。
ふと目が覚める。
馬車の中は薄暗い。
窓に付いているカーテンを上げて外を見ると、丁度目の前に日の出が見えた。優雅に昇ってくる陽に私は目を奪われる。その光は私の苦境を照らすような、美しい光だ。
私はしばらく陽が昇るのを見続ける。陽が全て顔を出すと、私はカーテンを下ろす。
今回脱出に協力してくださった方々……多分お祖父様の部下の誰かなのだろうけれど、助けてくれたお礼は伝えたい。そう思って御者席に繋がる小窓へと近づき、手を掛けた時――。
御者席には二人座っていた。
その左側に座っていた男性のローブがふわりと風で揺れ……端正な顔が現れる。
非常に美しく、凛々しく、整った顔。
見覚えのある顔に私は固まった。
私が小窓の縁に手を掛けたまま呆然としていると、私がこちらを見ていることに気がついた彼は花が咲いたように顔をほころばせた。
「何故貴方がここにいるでしょうか?」
私に気がついた彼は、御者席から私の座っている座席へと入ってくる。私は彼の顔を見て、開口一番に声を上げた。
「ディーに触れるのは、この先も僕一人だからさ」
目の前には婚約者のニコラス様。
ニコニコとそう言ってのける彼に私は頭を抱えそうになる一方で、愛称で呼んでくれるニコラス様に安心する。どうやら手を握っていたのも、お姫様抱っこをしていたのも、ニコラス様だったらしい。
「だからと言ってあんな危ない事を……」
「意外と鍛えてるから大丈夫さ。 君のお祖父様にも了承を得ているから心配しないでよ」
「お祖父様まで……?」
頭の中で、グッドサインをしているお祖父様が思い浮かぶ。お祖父様、少々お茶目なところがあるのよね……。お祖父様のお墨付きなら問題ないのかもしれないけれど、嬉々として許可を出していそうだわ。
「公爵様にはお伝えしているのですか?」
「もちろん、言ってあるよ。母上からは『愛よねぇ〜! 思う存分ぶちのめしてきなさい!』って言われているし、兄上からは『骨は拾ってやろう』と言われているから問題ないさ」
「義兄様……骨は拾わないでくださいませ……そこは止めてくださいませ……」
きっと公爵様は二人に押されて、認めざるを得なかったのでしょう……落ち着いたら謝罪へ行かなくては。
それよりも、今私はニコラス様に聞きたい事がある。
「あとお聞きしたい事がありまして。屋敷にいる時、使用人が『異母妹とニコラス様の顔合わせがあった』と小耳を挟んだのですが」
私の言葉を聞いた途端、先程まで美しい笑みだったニコラス様の表情が変わる。
顔から一切の感情が消え失せ、不快感をあらわにしていた。今までお会いして、こんな表情は初めて見る。いつも微笑んでいた方だったから――。
「ああ、あの女か。自己紹介後にすぐベタベタ触れてきてさ。吐き気がしたね。貼り付けた笑みが崩れて眉間に皺が寄りそうになったよ……それを嬉しそうに愛人は見ているし、あの男もニコニコしてこっちを見ているし……全く忌々しい。あの三人は表情を読む力すらなさそうだな」
こんなに嫌悪を露わにしているニコラス様を初めて見るわ。
やはり三人は貴族としての体裁すら整っていないのね。
私はその時ふと異母妹の言葉を思い出した。
気分を悪くさせるかもしれないけれど、一応この事も聞いてみようかしら……?
悩んでいると普段のような優しい笑みを見せるニコラス様。
「ディー、もし何か聞きたい事があるなら、教えて?」
そう言った彼に、私は恐る恐る訊ねる。
きっと心配性の彼のことだ。私が頭を悩ませていたら、ずっと気を遣ってくれるだろうから。
「あ、あの……異母妹が『ニコラス様、私の事を好きって言ってくださったの』と言っていたのですが……?」
「……ああ、あれか」
私の言葉を聞いて、ニコラス様の声色が更に低くなった。
その時の事を思い出しているのか……瞳の奥には憤怒の炎が宿っているようにも見える。
「あれは向こうが『私の事好きですか?』と聞いてきたから、『まあ……(肥溜めよりは)、まあかな』って言っておいた。今となれば肥溜めの方が役に立つよね。何の役にも立たないじゃないか、あの三人は」
私はニコラス様の言葉に顔が引き攣りつつも、頷いた。
元々お腹の中で色々と溜めている人なんだろうな、と思っていたけれど……ここまで毒舌な方だとは気がつかなかったわ。まあ、でも私もニコラス様の言葉に賛同している時点で、私もこの方と同じなのでしょう。
ニコラス様は私の表情が少し変化したことに気がついたらしい。申し訳なさそうな顔で訊ねてくる。
「ごめんね、ディー。こんな話を聞かせて。幻滅したかい?」
「いいえ、毒舌っぷりに驚きはしましたが……私もニコラス様と大体同じように考えておりましたわ。それに……貴方様の素を見せてくださったのかと思うと……嬉しくて……」
言いながら頬が赤らんでしまう。私だって、ニコラス様の事を慕っているのだから。
私の言葉にニコラス様は少し目を見開いている。そして私の言葉の意味を理解したニコラス様は、今までにないほどの美しい笑みで私を魅了した。
「そう思ってくれるなんて、嬉しいよ!」
その言葉と同時に私は温かい何かに包まれる。目の前にはニコラス様の服が……あ、私……抱きしめられている……?
「駄目ですよ」と声をかけようとして、私は思い直した。今は馬車の中。誰が見ているわけでもないのよね。
それに……この温もりが私の心を安心させてくれるから。
――我儘かもしれないけれど、もう少しこのままでいたいわ。
しばらくしてたどり着いたのは、街外れにある屋敷。
侯爵家は領地内にいくつか屋敷を持っている。今回到着したのは、王都に行く際、宿泊するために建てられた屋敷のひとつ。
ここから数日かけ、宿泊専用の屋敷を渡り歩いて領地の屋敷へと行くのだけれど……今回私はお祖父様に「ここにいて欲しい」と声をかけていたの。
馬車から降りると、私の名前を呼ぶ声が聞こえる。お祖父様だ。
「お祖父様、この度は――」
「シンディ、今は挨拶などせんでいい。馬車の旅で疲れただろう? 一旦屋敷内で休憩しておいで」
「お祖父様……」
お祖父様は私の頭を撫でてから、使用人に指示を出す。私はお言葉に甘えて、ゆっくり湯浴みをさせてもらった。
全て終えた私は、執事に案内されて遊技場へと足を運んだ。
そこではお祖母様はひとり窓辺で刺繍を施していた。その横でお祖父様とニコラス様がボードゲームで遊んでいる。盤面を見る限り、お祖父様が優勢ではあるけれど……。
お祖父様は頭を抱えて盤面とニコラス様を交互に見ていた。そしてひとつため息をつくと、降参を告げる。
「盤面を見ると儂が優勢なのだが……動かす手がひとつしか取れない時点で負けじゃな。いやはや、やはりシンディの婿にはお主が相応しいのぅ……」
「そう言っていただけると、私も嬉しいですね」
「まあ、ちょーっと腹黒いところはどうにかならんか?」
お茶目な表情でそう告げるお祖父様。あれは完全に楽しんでいるだけだろう。そんなお祖父様に、私は笑いながら声をかけた。
「お祖父様、そんなニコラス様も私は大好きなのですよ」
「おお、シンディ。疲れは取れたかね? いやはや、仲睦まじくていい事じゃ」
お祖父様は使用人に片付けを命じてから、ソファーへと座る。お祖父様の対面にはニコラス様、私は席の端に腰を下ろす。お祖母様は刺繍を止めてこちらを見ているので、あの場所で話を聞くようだ。
私は場が落ち着くと、すぐに立ち上がって頭を下げた。
「この度はご協力いただき、誠にありがとうございました」
その言葉にお祖父様、お祖母様は優しく微笑み、ニコラス様は眉間に皺を寄せている。
「私にも教えてくれれば良かったのに」
どうやら、私が立てた計画をニコラス様に伝えていなかったために、少し拗ねているようだ。
「ニコラス様、これは私の家の問題でしたから、どうしても私が解決したかったのですよ」
「ふふ、まあ、ディーならそう言うと思ったよ。でも次からは私も加わってもいいだろう?」
「勿論です」
この問題が片付いたら、ニコラス様は家族になるのですから。
「じゃが、よくあそこまで調べたのう。まさか愛人が子爵家の持つタウンハウスのひとつに住んでるとは思わなんだ」
「子爵家では暗黙の了解だったようですわ。あの男と愛人は母との結婚前よりずっと繋がっていたようですね。愛人は『いつか侯爵夫人にさせてやる』というあの男の言葉を信じていたようです」
「はぁ……、あのバカモンは……」
頭を抱えるお祖父様を見て、ニコラス様が肩を竦める。
「シンディの父なのかと本当に思うほど、あの男は愚かですね。異母妹の色仕掛けで私を味方につけようとしたようですが……あの礼儀もなっていない醜悪娘に誰が惹かれるんでしょう」
「本当じゃなぁ……親の贔屓目じゃろうなぁ。シンディから『一芝居打ちたい』と頼まれたから、儂等はここに留まっているが……完全にあやつは儂等が領地に帰っていると思っているんじゃろうなぁ。『領地で緊急案件が起きた』という話なんぞ、嘘だと分かりそうなものなんじゃがなぁ」
頭を掻くお祖父様。その後ろから気高い声が聞こえた。
「あの男は思慮という言葉をご存じないのでしょうから、仕方がありません」
お祖母様だ。ニコニコと上品な笑みを浮かべているけれど……どこか圧を感じる。
お祖母様の鋭い視線を一番感じているのはお祖父様だ。居心地悪そうな表情で、ソワソワとしていた。
「ですが……私は驚きましたよ、シンディ。てっきり私は半年前に愛人の実家……子爵家が代替わりした時に愛人諸共粛清すると思っておりましたからね。まさかシンディが現当主に交渉して、愛人が住んでいる屋敷を買い取るなんて思いませんでした」
お祖母様の仰る通り、愛人と犬猿の仲である子爵様――愛人のお兄様――はあの屋敷を手放そうとしていたの。その時に私が子爵様に相談してあの屋敷は購入させてもらったわ。
先代子爵様は、娘である愛人を大層可愛がっていたようよ。淑女教育をと主張する現当主様と、一蹴する先代様と愛人で溝が深まっていたようね。
目に物見せたいと私が主張したから粛清するまで、屋敷に通っている使用人は変えないように協力をお願いしておいたの。些細な変化で私の計画に気づかれても困るから。
「まあ、そもそもの原因は貴方ですから、シンディに協力してきちんと後始末してくださいね?」
「……そうじゃな、うん」
「私は反対しましたのに、あの二人の結婚を強行させたのは、貴方ですからね」
お祖父様はお祖母様の言葉にタジタジだ。
お祖父様は両親の婚約を強行したのかもしれない。それが確かに大きな歪みとなってしまったは否定しない。
「けれど……今の私があるのは、その選択のおかげですから。私はニコラス様に出会えて幸せですわ、お祖母様」
そう告げれば、一瞬目を見開いたお祖母様だったけれど、私の表情を見て柔らかく微笑む。
「その顔を見れば分かるわ。シンディ、あなたがそう思っているのなら安心ね。ただし、あの不法滞在者たちには手心を加えてはいけないわよ。粛清は徹底的に行いなさい?」
お祖母様の言葉に私は力強く頷いた。
勿論よ。
だって、私がここまで手を回したのは……あの三人に地獄を味わって欲しかったのですもの。
貴族を舐め腐っているあの方達にね。
あなた達の未来に希望がない事を教えてあげるわ。
満面の笑みを見せていた横で
「孫娘が過激になったのは……遺伝じゃのぅ……」
「やっぱりディーはこうでなくちゃね」
肩を落とすお祖父様と、楽しそうに笑うニコラス様もいた。
「何故お前が……! 部屋にいたのではないのか?!」
悲鳴のような金切り声が耳をつんざく。目の前には血縁上の父。
彼は私が馬車から降りるところが目に入ったのか、大声を上げた。あの様子を見る限り、私が抜け出してから一度も屋根裏部屋には来ていないようね。やはり、病気で亡くなればいいとでも思っていたのかしら?
一方で愛人と異母妹は事前連絡もなしに訪れたお祖父様を見て、目をまん丸にしていた。もう既に領地に帰っていると思われたお祖父様がここに来るなんて驚くわよね。
そして後ろから私が現れると、二人も目を釣り上げて睨みつける。あ、異母妹だけは隣のニコラス様に見惚れていたようだけれどね。
「静かにせいっ!」
お祖父様の声が屋敷内に響く。その声に圧倒されたあの男は、その圧に負けたのか肩をブルッと震わせる。けれども、私の存在が気に食わなかった様子。彼は気を取り直してお祖父様に話しかける。
お祖父様は怖いのか、恐る恐るではあったけれど……。
「義父様、どうされたのです? 領地で緊急案件があったと仰っていませんでしたか?」
「そうなんじゃがのう、それ以上の問題が発生したのでな。こちらに戻ってきたというわけよ」
あの男は驚きの声を上げる。
「そうなのですか?! 何が問題だったのでしょう?」
首を傾げてお祖父様に訊ねる男を見て、私は呆れてため息が出そうになった。だって、本気で分かっていなさそうな表情をしているのよ?
後ろの愛人達もお祖父様の言葉の意味が分からないのか、ぽかんと口を開けている。貴族教育はどうしたのかしら、ねぇ……。
隣にいるニコラス様を見ると、普段のような和かな表情ではなく、顔には露骨な嫌悪の色が浮かんでいる。
「お前はそれも分からないのか?」
いつもの飄々とした雰囲気はなく、威圧感をまとったお祖父様の姿に、隠居していてもなお貫禄を感じる。お祖父様はあの男を睨みつけた後、私へと顔を向けた。
場を作るのはお祖父様にお任せしたの。あとは……私の仕事。
お祖父様よりも一歩前に進む。
私はシンディ・バラデュール。侯爵の娘……いえ、お母様の娘なのだから。
「お父様……いえ、血縁上の父であるチャーリー様。お家乗っ取り――そのような大逆を企てた貴方様の罪、決して見過ごされるものではありませんわ」
「お家乗っ取りだと?! そんなつもりは――」
きっと、「ない」と続けようとしたのだろう。けれども、私は男の言葉を全て聞かずに声を重ねた。
「我が国では爵位を引き継ぐのは『実子』である、と定められているのはご存知でしょうか?」
「そんな事! 理解している! だから実子であるクロイに……」
私は持っていた扇子で反対の手を叩く。すると意外と大きな音になったためか、男の肩が跳ね、静かになる。
「チャーリー様は矛盾に気づいておられませんのね? 先代侯爵様……お祖父様の実子は、先日亡くなられたお母様だけですわ。つまり、侯爵家を相続する資格があるのはお母様の実子である私だけ、なのですよ? 貴族教育で習いませんでしたか?」
そう告げると、男の顔から血の気が引いていく。愛人と異母妹はその事を理解できていないのか、ニコラス様をずっと見つめており……ニコラス様は鬱陶しそうにしているわね……。
「ついでに言えば、シンディはまだ十八になっていないからのう。現在は儂が侯爵代理兼シンディの後見人として、この家の実権を握っているのは知っとるか?」
お祖父様の言葉に、愛人と異母妹が目を見開く。そして男に向かって声を荒げた。
「そんなの……そんなの知らない! だって、侯爵家は貴方が引き継いだと言っていたじゃない?!」
男に詰め寄る愛人。憤怒の表情をしている愛人にオロオロする男……まるで喜劇を見ているようだわ。
「あら、どこの侯爵夫人になられるのかは知りませんが、おめでとうございます。ですが、そんな端なく喚いて、立派に務められますの?」
私の皮肉が伝わったのか、愛人は顔を真っ赤に私を睨みつける。そんな目で私を見たところで……あなた達が犯した罪は無くならないわ。
「分かりやすくお伝えしますとね。あなた方の企んだ事は、お家乗っ取り……重罪ですわ。これは国の司法で裁かれる案件となります」
「私たちは、そんなつもりは――」
「ないですか? でしたら、使用人達の話は嘘だったのかしら? 『クロイ様が侯爵家を引き継ぐのも時間の問題ね』と言っていた者がいたのですけれど?」
その言葉に二人は顔が引き攣る。異母妹は意味が分からないのか、首を傾げていた。そして中々応接間に辿り着かない私たちの様子を見に来た、野次馬という名の使用人達は真っ青な表情でこちらを見ている。
「ですが私を閉じ込めて、貧相な食事しか与えなかったではありませんか。異母妹も『ニコラス様を取ってしまってごめんなさいねぇ』と仰っていましたし、私から異母妹に婚約を変更しようと画策していたのでしょう?」
「しょ、証拠がないじゃない!」
愛人は声を上げるが……。
「証拠ですか? 私の手記がありますわ。それを使用人たちの証言と照らし合わせれば問題ありませんよ」
二人が来てからの一週間。私の手記も勿論のこと、侍女長や執事長も指示通り手記を残しておいてあるはずだ。それでより堅い証拠となるだろう。ちなみにあの人たちは知らないだろうけれど、私が屋根裏部屋で監禁されていた時の手紙のやり取りは侍女長と執事長が手引きをしてくれている。
「で、でも使用人の言葉が嘘かも――」
「あら、貴族を欺くのは重罪ですわよ? 我が家は侯爵家、王家の覚えもめでたいですから……嘘を重ねれば、より重い罪になりましてよ? 覚悟はございまして?」
そう言いながら、後ろで覗いている使用人たちを見れば、彼女たちの体は小刻みに震えている。今にも倒れそうなほど。まあ……ここまで脅しておけば問題ないでしょう。脅すと言っても、ほぼ事実なのですが。
愛人の顔色も悪くなり、それを見た異母妹はやっと自分の立場が悪くなった事に気がついたようだ。
「ねえ、お母様? 私がニコラス様と結婚して侯爵夫人になるんでしょう? お母様もそう仰っていたじゃない!」
「……」
娘の言葉に無言で視線を逸らす愛人。異母妹はそれが衝撃だったのか、口をあんぐりと開けている。自分の母の姿に何かを悟ったのだろう、異母妹は私……いえ、私の隣に立っているニコラス様に顔を向けた。
「ニコラス様! 嘘ですよね……私の事を好きって言ってくださったじゃないですか! 私があなたの妻になる――」
「口を閉じろ」
低く、冷ややかな声音で発せられたニコラス様の言葉に、異母妹はヒュッと息を吸い込む。
「お前のような下品な女に私が惹かれるとでも思っているのか? ……ふん、片腹痛い」
やはりニコラス様は素敵な方だ。
貴族としての気品と穏やかさを備えつつも、その奥に揺るぎない矜持を秘めていらっしゃる――貴族としての鏡だわ。私はこのような素敵な方と生涯を共にできるなんて……幸せね。
私が見惚れていると、ニコラス様は私の視線に気づいてくださったのか、満面の笑みを向けてくださる。異母妹では、この方の気持ちの篭った笑みなど見る事もなかったでしょうね……ふふ、最後の贈り物として胸に刻んでおきなさい。少々高価すぎるかもしれないけれど。
愕然とする異母妹と愛人。ああ、二人はもうひとつの退路も断たなくてはならないわね。
私はさも今思いついたかのように、声を上げた。
「ちなみに愛人様のお父様は、もう半年も前にご隠居されておりますの。ですからご実家に戻ったとしても、愛人様のお兄様しかおりませんので、悪しからず」
「え、でも……お父様は……」
「『当主の仕事が忙しい』――そう書かれていたでしょう?」
私の言葉で更に血の気が引いていく愛人。何故私が手紙の内容を知っているかって? だって私が依頼して書かせたのですから。
「私が現当主様……愛人様のお兄様に依頼をしたのですよ。『当主が交代した事を伏せた手紙を送るように』とね」
現当主様が文面を考えて、愛人のお父様に書かせたそうよ。
「最初、先代様は子爵家に伝わる暗号を用いて、当主交代をほのめかそうとしていたそうですの。……けれども、現当主様だってその程度の暗号は解読できますでしょう? 少し考えれば分かりそうなものですのに……しかも現当主様曰く、愛人様はその暗号を読む事ができないとお聞きしております。滑稽ですわね」
現当主様から聞いた時、呆れてしまったわ。ほら、隣でもお祖父様とニコラス様が肩をすくめているわよ。
ただ自ら情報収集をすれば、愛人も当主交代の事実を知る事はできたはず。私だって二人が改心する猶予は残しておいてあげたの。それなのに知らなかったという事は、情報収集をしていないだけでなく……愛人はよほど人望がないのね。
床に膝をつく愛人と、「お母様!」と叫び続ける異母妹。唖然としている男。
さて、二人の退路は断った。後はそこで情けない顔を晒している男だけね。
「なあ、シンディ……」
恐る恐る声をかけてくる男。今になってようやく自分の立場を思い出したらしい。もう手遅れである事に気がついていないのかしら?
男は一歩前に足を踏み出す。そして私へと手を伸ばしてくる。
私は身を引こうとしたけれど、その前にニコラス様が私を庇うように進み出る。その動きは静かでありながら、相手を全て拒絶するような……確固たる意志を感じた。
しかし私を見る表情は柔らかい。片目を瞑って微笑んでいるニコラス様。その表情に背中を押されたような気がした私は、堂々と、男の前に立った。
「お父様……いえ、あなたはもはや“血の繋がりがある他人”に過ぎませんわね。あなたが“父”であった事は、今日をもって終わりとなります。明日からはどうぞ、家督の簒奪を仕組んだ罪人として、罪を自覚しながらお過ごしくださいませ」
そう私が告げると同時に、屋敷の外から喧騒が聞こえてきた。
「あら……どうやら、お迎えが来たようですわね。それでは――ご機嫌よう」
私が笑みを見せると、男は音もなく崩れ落ちた。
その後全てを悟って黙り込んだ三人と、愛人が呼び入れた使用人達を全て衛兵に引き渡す。
最初は大声を上げてはしたなく叫んでいた使用人もいたが、私やニコラス様の視線で黙り込む。職務を全うした衛兵達が屋敷を去ると、目の前には侍女長と執事長だけが残った。
「二人とも、顔を上げて。私を支えてくれて、心から感謝しているわ」
「勿体ないお言葉です……」
「誕生日を迎える数ヶ月はお祖父様に協力頂きますが……今後は私がこの屋敷を取り仕切ります。これからもよろしく頼みますわね」
二人は深く頭を垂れ、それぞれの務めに戻っていった。
静まり返った屋敷に、やがて使用人たちが次々と戻ってくる。そう、彼らは愛人達に辞めさせられた後、お祖父様の屋敷に一時退避していたのだ。侯爵家になんら関係もない男と愛人に、我が家の使用人を辞めさせる権限はなくってよ。
お祖父様が手配してくれた馬車から荷物が下ろされる。私は見覚えのあるソレを見て、お祖父様へと声をかけた。
「お祖父様、お手間をお掛けして申し訳ございませんでした」
「いやいや、あれくらい問題ない。最初は荷物を運ぶように言われて少々驚いたがのう」
大笑いをするお祖父様。
そう、私はお母様の葬儀が始まる前に、お祖父様に協力を依頼していたの。お母様と私が大切にしている物を預かってほしい、と。だから大事な物を異母妹に奪われる事は無かったわ。特にお母様の形見と、私がニコラス様にいただいた物ね。
お母様の形見は、侍女長と協力して少しずつ私の部屋に移動させていたの。それもあって、母の部屋に残っているのは思い入れのない……特に父であったあの男から渡された安物ばかりだったわ。
それを喜んで身につけている愛人と異母妹が愚かに見えたのよ。
その後次々に現れるドレス。これも私が避難させたもの。
「これは……私が贈ったドレスかな?」
ニコラス様に言われて私は頷く。
「ええ。公爵家御用達の衣装屋にお願いいたしましたの」
ニコラス様のご実家である公爵家と我が家の御用達である衣装屋に、幾ばくかの心付けを渡したら快くお願いしてくれたわ。以前縫った作品をゆっくり見る機会がないからありがたい、との言葉もいただいて。
これで元通り。後はニコラス様との結婚を待つだけ。私が内心喜んでいると、ニコラス様が私の顔を覗いてくる。
「根回し完璧だね、ディー。私も君の婚約者として誇らしいよ」
ニコラス様の視線は、まるで愛しい者を見るように温かい。そう……ニコラス様の仰る通り、ほぼ私の立ち回りは完璧だった。けれどもひとつだけ、心残りがあるの。
「でも、ひとつだけ……完璧ではないところがありますの……それは、あなた様の愛を、ほんの一瞬でも疑ってしまったこと」
そう告げてニコラス様を見上げれば……呆然としたように、一瞬まばたきも忘れたニコラス様がいる。
「私……あなた様の事になると、冷静さを保てないみたいですの……そんな私でもよろしいですか?」
上目遣いで首を傾げると、私の言葉を理解したニコラス様が微笑む。けれども、美しい笑みとは裏腹に、瞳の奥に熱を孕んだような情熱が揺れている。ニコラス様の目に吸い込まれそうになった私は思わず、ニコラス様の胸に飛び込んでいた。
彼は私を優しく抱きしめると、額に軽い口付けを送る。そして――。
「そんな可愛らしいディーを私が離すわけないじゃないか……こんな私で幻滅するかい?」
「いいえ、むしろその手を離さないでくださいまし。離されたら寂しいですわ」
「なら今日はずっと共にいようじゃないか」
嬉しさから顔を綻ばせた私を、ニコラス様は優しく抱擁してくれた。
その後の屋敷内ーー。
「儂もいるんじゃがぅ……ニコラスよ、陽が落ちる前には帰宅するんじゃぞ?」
「義祖父様。今日は、この屋敷に泊まります」
「いやいや、かえ――」
お祖父様の言葉を遮るように現れたのはお祖母様だった。
「あら、いいじゃありませんか。ニコラス、婚約中の節度だけは守りなさいな?」
「はい、義祖母様」
「シンディー、私たちは別邸にいるわね。ほら、私たちはこっちよ、あなた」
「ああぁぁぁぁーーーーー……!」
お祖父様の叫び声が屋敷内に響いたのだった。
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実はこの侯爵家、お祖母様が物理最強。彼女が遅く来たのは、手が出る可能性が高かったため……後からの登場です。
怖い順で言えば、
お祖母様>>>超えられない壁>>>シンディ=ニコラス>お祖父様>>シンディ母 です。
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最後に悪役令嬢モノ新作を投稿しました!
「私が悪役令嬢?ーーそれは随分と面白い冗談だ」
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