悪役令嬢ですが、破滅フラグは神々への配信ネタにする事にしました ~断罪イベント? 最高のライブになる予感しかしません!~
※AIを使用しての作品となります。
連載させるか迷っている作品のプロローグ部分になります。
「イザベラ・フォン・クラインフェルト! 君という女は、実に愛想がなくてつまらんな」
陽光が降り注ぐ、薔薇の咲き誇る宮殿のテラスで、私の目の前に立つ婚約者、クラヴィス第一王子は、完璧という言葉をそのまま形にしたような人だった。陽光を浴びて絹糸のように輝く金髪。寸分の乱れもない高価な王宮服。そして、感情の色を一切映さない、まるで磨かれたサファイアのような冷たい青い瞳が、私を射抜いていた。
その薄い唇から、まるで芸術品を評価するような無機質な声で放たれた一言が引き金だった。
ズキン、と鋭い痛みがこめかみを走り、視界がぐにゃりと歪む。知らないはずの風景――アスファルトの道路、無数のビル、けたたましい電車の走行音。チープな居酒屋の喧騒と、コンビニ弁当の味気ない味。サークルの仲間とはしゃいだ、安っぽいカラオケボックスの熱気。
そう、日本の、平凡な女子大生だった『私』の二十年間の記憶が、奔流となって今の『イザベラ』の意識を飲み込んでいく。まるで質の悪い映画の早送りのように、それは濁流となって、私の頭の中をめちゃくちゃにかき乱していった。
(これ、私が死ぬほどハマってた乙女ゲーム『クリスタル・ラプソディ』のセリフじゃん…! しかも私、ヒロインをいじめ抜いた挙句、卒業パーティーで断罪される最悪の悪役令嬢だ…!)
最悪。最悪すぎる。サーッと血の気が引いていくのが自分でも分かった。ゲームで何度も見たバッドエンドの数々が、脳内で勝手に再生される。
このままでは、由緒正しきクラインフェルト公爵家は、こんな悪女を育てた罪で爵位を剥奪され、没落する。優しいお母様はきっとショックで倒れてしまうし、厳格なお父様の名誉は地に堕ちるだろう。
そして私自身は、良くて極寒の辺境への国外追放。悪ければ光の届かない薄暗い修道院に幽閉され、犯してもいない罪を悔い改めるだけの余生を強いられる。友達と笑い合うことも、好きなものを食べることも、もう二度とできない。待っているのは、屈辱と貧困にまみれた、孤独で惨めな未来だけ。
輝かしい未来なんてどこにもない。私の二度目の人生は、始まって早々にゲームオーバーが確定してしまったのだ。
絶望に全身の力が抜け、ガクンと膝が折れる。レースで縁取られた豪奢なドレスの裾が芝生に汚れるのも構わず、崩れ落ちそうになった、まさにその瞬間だった。
ピロン♪
どこか気の抜けた電子音と共に、視界の右端に半透明のウィンドウがポップアップした。そこには、見慣れた動画サイトのようなコメントが流れていた。
《【速報】悪役令嬢、転生を自覚》
《草》
《wktk》
《お、始まったか》
……はい?
幻覚? 私、ショックで頭がおかしくなっちゃった?
私が混乱していると、コメントはさらに速度を増していく。
《顔w》
《絶望しすぎで草》
《侯爵令嬢のドレス、やっぱ仕立てがいいな~》
「……だ、誰か、見てるんですか……?」
震える声で呟くと、コメントがピタリと止まり、そして一斉に流れ出した。
《喋った!》
《声かわいい》
《おお、我々の声が聞こえるのか?》
《こっちの世界の技術も大したものだな》
どうやら幻覚ではないらしい。というか、「我々」って誰よ。
「何なのよ、あなたたちは! 人の絶望を笑いものにして……! もし本当に神様がいるのなら、こんな理不尽なことってないでしょう!」
ヤケクソで叫んだら、ひとつのコメントがやけに荘厳なフォントで表示された。
《《呼んだかね? 我こそは愛を司る女神アフロディア。そなたの面白き人生、高みの見物とさせてもらっておるよ》》
《軍神マルスだ。せいぜい我らを楽しませるがいい》
《酒と饗宴の神ディオニスだよ~ん。とりあえず面白いからチャンネル登録しとくわ》
……神様!? しかもチャンネル登録!?
「……マジで見てんのかーい!」
私の現代的なツッコミに、神々のコメント欄は「www」という芝生の絵文字で埋め尽くされた。
理解はまだ追いつかない。けれど、私の頭は前世の記憶に叩き込まれた知識で、必死にこの状況を分析しようとしていた。神々が視聴者。コメントがリアルタイムで流れる。これはつまり……異世界からのライブ配信?
絶望の淵で、私の魂の片隅、前世で培われた配信オタクとしての血が騒ぎ出す。視聴者がいる。コメントがある。――これ、使い方次第で、ワンチャンあるんじゃない?
それから数日後。恐れていた最初の破滅フラグは、王立学園が誇る美しい中庭で、その牙を剥いた。
噴水がきらめき、色とりどりの花々が咲き乱れる穏やかな昼下がり。私はこの数日間、原作ヒロインであるリリアを徹底的に避けてきたというのに、運命のいたずらか、それともシナリオの強制力という名の悪意か、私たちはこんなにも完璧な舞台の上で鉢合わせてしまったのだ。
原作ゲームでは、ここで私がリリアが大切にしていたアンティークの花瓶をわざと割り、彼女のせいにして泣き喚く。正義感の強い攻略対象たちの前でヒロインの健気さを際立たせ、私の悪評を決定的にするための、あまりにも有名な胸糞イベントだ。
目の前では、桜色の髪を揺らしながら、リリアが「これは、亡くなった母が遺してくれた、たった一つの形見なんです…」と、古びた乳白色の花瓶を胸に抱いている。その潤んだ瞳は庇護欲をそそり、か細い声は聞く者の同情を誘う。完璧なヒロイン。そして私は、完璧な悪役を演じなければならない。
(嫌だ、やめて……!)
心が悲鳴を上げるのと裏腹に、私の右手が、まるで目に見えない糸に引かれるかのように、ゆっくりと持ち上がっていく。自分の体なのに、自分の意志が通じない。指先がピクリと動き、リリアが抱える花瓶へと、その狙いを定める。これが、シナリオの強制力……!
「(やばいやばい、このままじゃフラグ成立しちゃう!)」
焦る私の視界の端で、神々が好き勝手なコメントを飛ばしている。
《お、定番のいじめイベントか?》
《悪役令嬢ムーヴ、待ってました!》
《やめとけ、好感度下がるぞ》
うるさい! 神々の無責任なヤジが、逆に私の頭をクリアにさせた。そうだ、こいつらにとって私の人生は娯楽なんだ。ただのエンタメ。なら、見せてやる。ただ翻弄されるだけの哀れな悪役令嬢じゃない。この最悪のシナリオすらも食い物にして、最高のエンタメを作り上げる、神をも恐れぬ配信者の姿を!
「(動け……動け、私の体!)」
心の叫びが通じたのか、花瓶をひったくろうとしていた指先の力が、ふっと抜ける。意思の力で、シナリオの強制力に逆らう。ギリギリと奥歯を噛みしめ、見えない糸を断ち切るように、私は無理やり体の向きを変えた。目の前のヒロインでも、迫りくる破滅でもない。私の本当の視聴者がいる、誰もいない空間に向かって。震える唇を必死に持ち上げ、私は高らかに、エンターテイナーとしての第一声を上げた。
「皆様、お待たせいたしました! 本日の企画は『【徹底検証】この見るからに高級そうな花瓶、お値段は一体いくら!?』でございます!」
「えっ? イザベラ様?」
きょとんとするリリアを尻目に、私は実況を続ける。
「見てください、この繊細な絵付け! 素人目にも仕事の丁寧さが伝わってきますね~。神様の中に鑑定スキルをお持ちの方、いらっしゃいませんかー!?」
私の呼びかけに、一瞬シンと静まり返ったコメント欄が、次の瞬間、爆発的な勢いで流れ出した。
《鑑定!?www》
《急にクイズ番組始まったぞ!》
《《フン、血を見ずに済むとはつまらん。だが、まあ良いだろう》》と軍神マルスは少し不満そうだ。
《《あらあら、面白い展開ね! 私は芸術の神様に一票かしら?》》愛の女神アフロディアは楽しそうに煽っている。
《よーし、じゃあ俺は金貨10枚に賭けるぜ!》酩酊神ディオニスが完全に宴会のノリで叫ぶ。
神々が好き勝手に騒ぎ立てる中、ひときわ冷静なコメントが、黄金色の輝きを放って表示された。
《商売の神マーキュリーです。ふむ、その作りは前王朝時代のもの。保存状態が良ければ金貨500枚は下らないでしょう》
《え、マジで!?》
《たっか!》
《そんなん割ったらアカン》
金貨500枚!? あ、危なかった……!
私が冷や汗をかいていると、騒ぎを聞きつけた婚約者のクラヴィス王子がやってきた。
「イザベラ、何を騒いでいる。またリリアを困らせて…」
「あ、王子! ちょうどいいところに。この花瓶、金貨500枚の価値があるんですって! もし割ったりしたら大変なので、王家の宝物庫で保管していただけませんか!?」
私が満面の笑みで花瓶を押し付けると、王子は「は…?」と宇宙を背負ったような顔で固まった。
その時だった。
穏やかだった中庭の空気を切り裂くように、短い悲鳴が響いた。
「きゃっ!」
見れば、リリアがバランスを崩し、その場に尻もちをついている。彼女が抱えていた大切な花瓶が手から滑り落ち、カラン、と乾いた音を立てて芝生の上に転がった。幸い、割れてはいない。
誰が突き飛ばしたのか。視線を上げると、そこには三人組の男子生徒が立っていた。着崩した制服、脂でテカった髪、そして何より、弱い者を見下す歪んだ笑み。いかにもなチンピラまがいの下級貴族たちだ。彼らは私と王子には見向きもせず、尻もちをついたリリアを嘲笑うように見下ろしている。
(出たな、シナリオの修正力……!)
私が悪役令嬢としての役目を放棄したから、代わりにヒロインをいじめる役割を担う、モブの悪役が登場したのだ。なんとご丁寧な世界の意志か!
《うわ、テンプレ悪役きた》
《ヒロインがピンチだぞ!》
《主人公(王子)の見せ場だな》
神々が囃し立てるが、肝心の王子(主人公)はといえば、さっきから「…?」という表情のままピクリとも動かない。完全にフリーズしている。というか、ショートしてる? 頭から煙とか出てない? 大丈夫そ?
(どうする、私!? ここで颯爽と助けに入れば、ヒロインからの好感度、いや信頼度フラグが立つのでは!? でも待って、悪役令嬢がヒロインを助けるなんて、あまりにもキャラがブレすぎ! 積み上げてきたヘイトが一瞬で霧散しちゃう!)
私の頭の中では、前世の女子大生と悪役令嬢イザベラが壮絶な会議を繰り広げていた。
《《おい、どうした小娘! まさか見過ごすつもりではあるまいな!》》と軍神がイラついている。
《《まあまあ、マルス様。これは悪役令嬢としての腕の見せ所ですわよ。ここで笑いながら高みの見物でもすれば、悪役ポイントがカンストしますわ!》》と愛の女神がとんでもないことを言う。
《俺は助ける方に金貨一枚! 面白い方に転がれ~!》と酩酊神がヤジを飛ばす。
ああもう、うるさい! こっちは人生かかってんのよ!
私の脳内そろばんが、メリットとデメリットを必死に弾き出す。
【メリット】ヒロインに恩を売れる。モブからのヘイトが王子に向くかも?
【デメリット】悪役令嬢としてのアイデンティティ崩壊。今後のシナリオが読めなくなる。
うーん、どう考えてもデメリットの方が大きい!ここは悪役に徹するべき…!
私が「オホホホ、良い気味ですわ!」と高笑いする練習を始めようとした、その時だった。私の耳に、これまでで一番大きく、そして一番熱い軍神マルスのコメントが直接叩き込まれたのだ。
《《何を迷うことがある! 目の前でか弱い者が虐げられているのだぞ! 悪役だろうが何だろうが、叩き潰せ!》》
ピロリロリン♪
突如、体が内側から熱くなる。これが……投げ銭(神の恩寵)!
【軍神の祝福により、あなたの身体能力は10分間、最大レベルに強化されました】
「うおおおお!」
それは怒りの雄叫びではなく、純粋な驚愕の絶叫だった。
体の中からカッと熱いものが込み上げてくる。まるで体の隅々まで溶かした鉄でも流し込まれたかのような熱量と、駅までの通学くらいしか運動経験のない私の筋肉が、鋼鉄のワイヤーにでもなったかのような全能感が全身を駆け巡った。これが軍神の祝福? スペックがおかしくない!?
私の脳が「助ける」と「高笑い」の狭間でフリーズしているうちに、身体は勝手に動いていた。
ドンッ!と芝生を強く蹴り、私はリリアを庇うようにしてチンピラたちの前に躍り出る。
「聖女様に絡むとは、良い度胸ですわね!」
口から飛び出したのは、自分でも驚くほど冷たくて気高い、完璧な悪役令嬢のセリフだった。(今のセリフ、100点じゃない!?)などと内心でガッツポーズする私とは裏腹に、レースのついた可憐な腕が、まるで砲弾のようにしなやかに振りかぶられる。
「あぁ? なんだてめぇ…」
リーダー格の男が何かを言い終える前に、私の右拳――令嬢のそれとは思えないほど固く握りしめられた拳が、吸い込まれるようにして男の顎の真芯を捉えた。
ゴシャッ!
熟れた果物が潰れるような、あるいは分厚いステーキを叩きつけるような、実に不快で生々しい音が響き渡る。
男の顔が信じられないという形に歪み、白目を剥き、その巨体がフワリと宙に浮いた。まるで絵に描いたような美しい放物線を描きながら、遥か彼方の校舎の壁に激突し、ベシャリ、と壁に張り付いてからズルズルと地面に崩れ落ちた。
シーン……と、中庭は水を打ったように静まり返る。
噴水の音も、小鳥のさえずりも、全てが止まったかのような錯覚。残されたチンピラ二人は、口を半開きにしたまま完全に固まっている。私の手は、まだ戦闘態勢のまま、小さくプルプルと震えていた。
「……え?」
一番驚いているのは、間違いなく、この私だ。
自分の右拳を見下ろす。レースのフリルがついた、か弱いはずの令嬢の手。それが、今、とんでもない凶器と化した。ジンジンと痺れる拳は、まだ軍神の力が残っているのか、熱を帯びている。
(え、私、いま、何した? 人を殴った? しかも、ホームランみたいに吹っ飛ばした…!?)
脳内は完全にキャパオーバー。前世の常識と、悪役令嬢としてのプライドと、目の前の非現実的な光景がごちゃ混ぜになって、ショート寸前だ。
そんな私の内面のパニックをよそに、視界の端のコメント欄は、かつてないほどの盛り上がりを見せていた。
《《見事だ! 見事だぞ小娘ェェェッ!》》軍神マルスが、見たこともないような極太フォントで雄叫びを上げている。画面が揺れている気さえする。
《きゃあああ! なに今の! ギャップ萌えってやつ!? 最高じゃない!》愛の女神が興奮のあまり語彙力を失っていた。
《ぶっはははは! やるじゃねえか! 祝杯だ! 今夜は無礼講だぜ!》酩酊神ディオニスはもはや宴会状態だ。
画面には大量の「888888」という拍手の絵文字と、軍神からと思われる拳のアイコンが滝のように流れていく。
「イザベラ様…素敵です…!」
ハッと我に返ると、尻もちをついたままのリリアが、キラキラと星を宿したような瞳で私を見上げていた。その頬は感動で上気し、恐怖の色など微塵もない。それはまるで、物語の騎士様に助けられたお姫様が向ける、憧憬と尊敬そのものの眼差しだった。
(いやいやいや、違うの! 私は悪役令嬢なのよ!? そんな目で見ないで!)
「……面白い女だ」
ボソリと、地を這うような低い声が聞こえた。見れば、ようやくフリーズから回復したクラヴィス王子が、私を凝視している。そのサファイアの瞳から、いつも私を値踏みするような冷たさは消え、代わりに未知の生物を観察するような、強い好奇心とほんの少しの警戒心が宿っていた。彼は自分が庇うはずだったヒロインのことなど忘れ、ただ、目の前で規格外の物理法則を披露した婚約者から目が離せないようだった。
そして、この大混乱の舞台から少し離れた、大きな樫の木陰。
王国騎士団長ゼノンは、組んでいた腕をほどき、その口を半開きにしていた。鍛え上げられた彼の目は、今の一撃を見逃さなかった。ただの腕力ではない。腰の回転、踏み込みの深さ、インパクトの瞬間に全神経を集中させる無駄のない動き。それは、素人が到底できる芸当ではなかった。
「あの華奢な令嬢が、完璧な『活人拳』を…? まさか…彼女は一体何者なんだ…」
彼の武人としての魂が、未知の強者の出現に震えているのを、今の私に知る由もなかった。
こうして、私の手によって中庭に平和(?)がもたらされ、残されたチンピラ二人が泡を吹いて気絶し、野次馬たちが騒然とする中、私の波乱万丈な神ライバー人生の幕は、ド派手なファンファーレと共に上がったのだ。
これから起こるであろう数々の破滅フラグ。待ち受ける原作の強制力。そして、どんどん私への解釈をこじらせていく攻略対象たち。
最大の破滅フラグである『卒業パーティー』まで、あと1年。
問題は山積みだけど、なんだか、ちょっとだけ楽しくなってきたかもしれない。
私のチャンネルは、これからもっと面白くなる――!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
もしこの悪役令嬢の奮闘を「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけると、連載版への大きな励みになります!
応援よろしくお願いいたします!