EP01 いちごスペシャル、1つ下さい
【渋谷区原宿竹下通り】
客を呼び込む高らかな少女の声が大衆の注目を集める。
「いらっしゃいませ〜新作クレープいかがですか〜!!」
行列がその人気を物語る。
そこにサングラスをかけたフリフリの衣装を纏ったギャルが列を掻き分け近寄る。
「美味しそうね❤️」
列に並ぶ人々の顰めっ面に困った売り子の少女は、サングラスのギャルに促す。
「うちのクレープは美味しいですよ〜!でも、ごめんなさい!お待ちのお客様もいますのでお並び頂けますか?」
とても愛嬌のある接客。万人が感じがいいと思った。
しかし、ギャルは首を傾げ、少女の顔を見つめ告げる。
「美味しそうなのは、あなたのことよ?」
少女の額に汗が伝う。
「…え?」
「下民にしてはそこそこ可愛いし…まぁあたしほどじゃないけど?❤️」
サングラスをずらした瞬間、紅く鮮やかな光彩の瞳が煌めく。
「あとぉ〜キレイな声でオハナシしてくれそうだしぃ❤️」
売り子の少女に悪寒が走り、みるみる顔色が青に染まる。
「連れてってぇ〜❤️いっぱいいっぱい遊びましょ?❤️」
ぐにゃっと歪んだ笑顔が、その意味が言葉通りでないことを物語る。
そのタイミングで大衆から不意に出た言葉が彼女の興味を独占する。
「「あの娘、かわいくない!?」」
先ほどまでの笑顔は消え失せ、半開きの澱んだ眼が言葉の主に向けられる。
「あ゛?」
その言葉の先には華奢な少女。
サラサラの綺麗な赤毛を揺らしながらすぐに人混みのなかへと消えていく…
「アレ、連れてきなさい。」
先ほどまで上機嫌だったギャルは人が変わったようにドスの効いた声で黒服たちに命令する。
「あとアンタ。」
怯える売り子の前髪を鷲掴み、グイッと引き寄せ
「今、めちゃくちゃ気分悪いの…とっとして?」
言い終わると頭を投げ飛ばし、少女は地面に尻もちをつく。
黒服に抑えられ、泣き喚きながらも連行される売り子の少女。
「喉が叫び潰れるまで楽しみましょ?❤️」
しかし、誰もそれを止めようとしない。
目を背け、自分は関係ないという顔をする。
その集団のなかからこっそり聞こえる話し声。
「「あれ、上ノ民だよな…」」
「「あれに目をつけられたら終わりだよ…」」
「「しかも上選院のポコロッロだろ…持ち帰った女全員壊れるまで嬲られるっていう…」
険悪な空気。
少女の悲鳴と群衆のざわめき。
そこに男の一言が刺さる。
「いちごスペシャル…1つ下さい。」
誰もが目を丸くし、その男を見つめる。
連行しようとするギャルの黒服も動きを止める。
「ねぇ、おにぃさん?❤️ 邪魔だから退いてくれる?」
黒服たちが男を鷲掴み動かそうとする。
しかし、まるで山を押しているような感触で微動だにしない。
「いちごスペシャル、1つ下さい」
男の変わらない様子にポコロッロは呆れてその場を去る。
「はぁ〜もういいわ。ポコは先帰ってるから後で連れてきてね〜」
売り子の少女も唖然としていたが、男の呼びかけに答えてしまう。
「あ、あの…きゅ、900円です…」
「1000円で」
泣きっ面の少女は下唇を噛み締め小さく呟く。
「…あ、あの…」
両手を捕まれた状態で華奢な体を震わせる。
「…これだと…ク、クレープ作れなく…て…」
黒服がつかんだ手を引っ張る。
「早くこっちへ来い。なにを…」
勇気を振り絞る、そんな声で少女は懇願する。
「た、助け…」
その瞬間ー
男を押さえつけていた黒服2名が宙に浮く。
首根っこを掴まれ地面に叩きつけられる。
潰れる顔から噴き出る血潮と飛び散る歯。
「わかった」
売り子の少女が唖然とする。
周りの黒服を殴り倒していく男。
カウンターを容易く飛び越え、その手は少女を掴む黒服まで伸びる。
目にもとまらぬ速さで、手首の関節をねじ切り二人の黒服から少女を取り返す。
悶える黒服たちに数発の重い打撃を打ち込み、店外へと投げ飛ばす。
あたりは騒然とする。
逃げ惑う人々。
血液の滴り落ちる拳を解き、濡れた手でも払うかのように振り払う。
それに乗じて退散する幾人かの黒服たち。
残った黒服がうめき声をあげて這いつくばったときに、半泣きの少女へ男は声をかける。
「クレープ…これでできますか?」
涙を拭って売り子は、小さくコクッと頷いた。
この世界は上ノ民が絶対的優位とされる社会。
いかなる横暴も上ノ民であれば許された。
その社会の常識が通用しない屈強な男が1人…名前を式 一といった。
はじめまして。
海の雫です。
最期まで、読んでくださいましてありがとうございました。
お楽しみ頂けましたか?
今後ともどうぞよろしくお願いします。(⌒∇⌒)