第九八話 仲間
久々の登校を行った弥勒に、鷲頭は声をかける。そして仲間として協力することを表明する。
弥勒は翌日、登校した。
次なる目的地を見つけ、彼は覚悟を決めた。マスターである周布からも、身の回りの者を守るだけの剣術は身につけたとお墨付きを貰い、近く発つことになる太宰府分校の人々へ別れを告げる為にも、姿を出す必要があった。
それは修文三十年が終わる大晦日のことであった。
五条は去りゆく友を慈しみながら、その覚悟に敬意を示した。そして鷲頭もまた、弥勒が父に与えられた役目を果たす為に、並々ならぬ覚悟でその命を燃やしている姿に、敬意を示した。
「皇弥勒、あんたに一つ、話しておきたいことがある」
「え、なんですか鷲頭さん。そんな怖い顔していわれたら……」
「そういう顔なんだから黙ってなさいよ。いいかしら、私がビジネスパーソンなのは知ってわね。経済界に於いて、私の顔は広い。だから、そういう人脈があって初めて知りうる情報をあんた達へ伝えてあげられるわ。日本で関東の人口一極集中の解消という名目で、九州に多くの大企業が流れる運びになってることなどは、既に有馬君に伝えてあるしね」
「ありがとうございます……! 経済界の情報をいち早く知ることが出来るのは、本当に助けになります!」
「勘違いしないでよね、私はただ、私の在処が下らない独立運動なんかのせいで滅茶苦茶になるのが許せないだけ。だから仲間として、お互いの利益の為に行動するだけよ」
ツンツンしている鷲頭に、弥勒は初めて親しみを覚えた。掴みどころがあると、そう思ったのだ。
「それから、政治の乱れは経済の乱れに繋がるものよ。そして政治の乱れは、経済界の企みによって引き起こされることもあるもの。私なら、いち早く政治的なトラブルを、それが起こる前から伝えることが出来るわ。感謝しなさい」
「本当に、感謝してます……!」
学校の授業を終え、弥勒は家へと戻って行った。
惟神学園では、就活や進路という概念がない為、学期を分ける長期休暇は存在しない。学び収めをした次の日も、当たり前の様に登校するのだ。基本的には一族の基盤がある地元で生活する生徒にとって、年末年始のお参り等の行事や集まりに、長期休暇は必要がない。先祖が祀られる地元の神社へ向かう為に遠出をすることもなければ、集まる親戚というのも全て惟神庁職員であり、仕事という仕事をしていない為休暇ではなくとも集まることは出来るのだ。そういう諸事情が、その特殊な学業形態になった理由でもあった。
だがそれは弥勒らにとって、当たり前のことであった。地元を離れている弥勒にとっては、大晦日という一日も、来るお正月や三賀日でさえも、もはやなにをしたらいいのか分からない平日の様な感覚になっていた。
弥勒は無性に、家族に会いたくなった。生まれてから十七年、一度も欠かすことなく、正月はお祝いをしていた。日本の文化を大切にするのは、日本の高貴な血筋を持つ者の役目だという意識が、弥勒らにはあったのだ。




