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神通力上昇中〜惟神学園二年、皇弥勒  作者: 乘越唯響


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第九六話 形代

 鷲頭は巳代から、周布が突き止めたという、惟神を去った者に神通力を与える謎の存在について教わる。

 巳代は、目を白くして気絶寸前の五条を無視し、鷲頭へ話し続けた。

「最近、周布さんがあることを突き止めたんだ。そもそも学園や惟神学園を離れた者は、神通力が使えなくなる。だが周布さんや大友、藤原氏の人々は未だに神通力が使えるという不思議な現実がある。その理由を突き止めたんだ」

「へぇ……それは興味深いわね。確かに帝が儀式で取り上げる筈なのに、取り上げられないことは摩訶不思議ね」

「その原因なんだが……帝を僭称せんしょうしている輩がいる様なんだ。そいつが大友や藤原氏、そしてなぜだか分からないが、周布さんにも神通力を与えている」

「偽物の帝でも、儀式を執り行えるの……? 帝は神道の頂点に立つからこそ、執り行えるんでしょう?」

「日本に住み着く八百万は、二千七百年に渡り自分たちを祀ってきた人間の長である帝の真偽を見抜くことが出来る。それは血筋だ。また八百万と同一視される怪異の中には、そんな帝を崇拝してきた貴族や豪族らの成れの果ても含まれる。そういう存在は、三種の神器で、その真偽を見分けている……と周布さんはいっていた」

 三種の神器とは、皇紀元年より帝を象徴する八咫鏡やたのかがみ草薙剣くさなぎのつるぎ八尺瓊勾玉やさかにのまがたまを指す。

「現在の帝は、形代かたしろと呼ばれる神霊が憑依した模造品を儀式に使用している」

「つまり本物は別にあるということね」

「少なくとも南北朝時代には、後醍醐帝が新田義貞へ託したものと、その後、後醍醐ごだいご帝が隠し持っていたものが存在している草薙剣くさなぎのつるぎに至っては、一度消失している為、もしそれが現存するならば三つも存在することになる」

「帝を僭称している人物は……そのいずれかを所持している皇族の血を引く人物……なのね」

「そいつを見つけ、殺すか三種の神器を破壊する。形代を作ることは容易ではなく、正当な帝が作らなくては神霊は宿らないから、現存する形代を破壊すれば、二度と八百万を操る僭帝は現れなくなる。そして今は、その人物がどこにいるのかを探っているところだ」

「見つかるのかしら」

「ああ、少なくとも俺はそん信じている」

 混乱状態だった五条がハッとなり、突然、巳代へ問いかけた。

「今度はそのニセモノを探しに行くとして、弥勒君はどうなるん? ずっと引きこもってる訳にもいかんやん」

「心配しないでくれ、じきに出てくるさ」

「どうしてそういい切れるん?」

「弥勒は今、自分や周りの人を守る為に、周布さんの許で剣を学んでいる。神通力のコントロールを極める努力もしている。それが終われば、並大抵の事では不意打ちを食らうことも無くなる。心配することは無い。弥勒は今、自分自身と戦っているだけなんだ」

 その言葉に五条は安心した。

皇紀元年……紀元前660年。日本が建国された、初代帝神武即位の年。


後醍醐帝(生:1288年11月26日〜没:1339年9月19日)……日本の96代目の帝、および南朝初代帝。


新田義貞(生:1301年〜没:1338年8月17日)……鎌倉時代後期から南北朝時代にかけての武士。本姓名は源義貞であり、河内源氏。

後醍醐帝と共に鎌倉幕府倒幕に尽力し、仲間であった足利尊氏離反後はそれと戦うなどし、生涯を通して南朝に尽くした。


三種の神器……八咫鏡、草薙剣、八尺瓊勾玉のこと。八咫鏡と八尺瓊勾玉は八百万の神々によって製作され、草薙剣は

須佐之男命スサノオノミコト八岐大蛇ヤマタノオロチを討伐しその体から抜き取った。

いずれも壇ノ浦の戦いにて安徳帝と共に海中に沈むも、八咫鏡と八尺瓊勾玉は後に源義経によって回収された。

その後の南北朝時代に形代が製作され、形代が現存している。

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