第八九話 勢力衰退
手打ち式の後、頂上作戦にて総裁の工藤悟らが逮捕される。このキッカケとなった謎の男に対し、青山は怒りが抑えられなくなる。
手打ち式から数日後、工藤組総裁の自宅へ福岡県警が強制家宅捜索へ乗り込んだ。これは一年ほど前から小野によって計画されていた作戦であった。
「日本唯一の特定危険指定暴力団である工藤組の総裁、工藤悟。この男が前身組織の田中組組員時代から殺人等の事件を首謀したという状況証拠を、固められました。よって身柄を拘束し、裁判にかけ、司法の下正義の鉄槌を下すのです」
小野は作戦会議にて、全ての捜査官に向けその様に演説していた。数年に及ぶ捜査の総決算として行われるこの作戦を彼女は「頂上作戦」と名付け、「絶対に身柄を抑え、修羅の国という汚名を晴らさなくてはならない」と意思表明をした。
そうして仲間同士の結束を高め、警察組織の執念が遂に実った。
メディアは工藤悟総裁や、側近の田上ら数名の身柄を拘束し、工藤組の弱体化が確定となった。
その一連の動きを見ていた山内組組長、青山は、ただ頷くのみだった。優れたヤクザがまた一人居なくなったことが哀しく、ただなんども頷き、事実を受け入れようとするだけだあった。
「いわんこっちゃない。大事せんごと忠告したとに、哀しかなぁ……」
青山は、工藤の末路が死刑、よくて終身刑になるであろうと考えていた。それは気骨が失われたヤクザの中で、最後の残り火であった北九州のドンの終わりを意味しており、即ち九州に於けるヤクザの勢力衰退を意味していた。
「あん神通力とかいうマヤカシば使う色白の男は……こげな結末ば迎える為に、十年余り、九州のヤクザに近づいてきたとか……! 憎たらしか……!」
青山の怒りの矛先は、十年程前に突然、九州の巨大任侠団体の事務所に現れた謎の男に向けられていた。
十年ほど前、男が事務所へ現れた時、男は手も触れずに組員を締め上げ、幹部数名を病院送りにした。刃物や銃弾も効かず、組員はなされるがままであった。
それ程の大きな力を有しながら、男が求めたのはただ一つ、向こう十年のあいだ、組同士で勢力争いはしないことのみであった。それだけを守れば、互いの縄張り(シマ)は保証し、多額の報酬を元に仕事を依頼するビジネスパートナーになるというものであった。
「こいは……あの日ラーメン屋に立て籠っとった大男と学生の始末に失敗したことへの腹いせか。小野佳奈美の始末ば失敗したことに対してか。いいやどっちゃ良か……ここまでの理不尽ば受ける筋合いはなか……! 殺してやりたか……!」
腸が煮えくり返りながらも青山は、ぶつけようのない怒りを周囲の物にぶつけ、ただ名も知らぬ謎の男を恨むしかなかった。
頂上作戦……2014年(修文26年)に起きた、北九州の暴力団である工藤組総裁以下幹部数名が逮捕された出来事。
この件がきっかけで、北九州一の暴力団として君臨していた工藤組は、九州では事実上の解散状態となった。




