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第八話 思い込み

 罵詈雑言の正体を大内校長から告げられ、弥勒は冷静さを取り戻す。

 職員室に戻った弥勒みろくは、校長と二人で話をすることになった。弥勒みろくが塞ぎ込んだ一瞬の出来事に対し、いいたいことがあるようだった。

弥勒みろく君、君は自己紹介をした後、急にネガティブな感情に支配されたね。どうしてだか聞いてもいいかな」

「それは……今まで品川分校の舞楽部の仲間には、耳が聞こえないことでバカにされてきたからです。クラスの皆からは同じ様な、戸惑いや侮蔑の感情がありました。僕は経験則として、次第に彼らが悪意を強めていくことを知っています。だから……」

 弥勒みろくが結論をいいかけた時、校長が待ったをかけた。俯いていた弥勒みろくが顔を上げると、今まで穏やかだった校長の目は見開いており、真剣な剣幕をしていた。

「良いかい弥勒みろく君、君が思っている程、皆は酷い人ではないよ。確かに今日、君に対して向けられた感情には、戸惑いがあった。しかしね、君がいう様な、嫌悪や侮蔑を、私は感じなかった。彼らは君にそういう悪意は向けなかったんだよ」

「でも校長、僕は確かに感じました。色々な悪意が……内側に流れ込んでくるのを、確かに感じたんです」

「えぇ感じたでしょう。でもそれは流れ込んで来たものではなく、君の内側から発せられた波長です。中傷されると思い身構え、自分の内側に籠った。だから君は、自分の内側から発せられた思い込みの波長を、外から流れ込んできたものだと勘違いしたんだよ。いいかい弥勒みろく君。ここに君はいない。君が今朝目にした怪異と同じく、思い込みで警戒しないであげて欲しい。敵だと思えば、それは本当に敵となり、君を傷つけてくるかもしれない」

 警戒しないでというのは、難しい話だった。だがここはもう、品川ではない。自分をいじめてきた伊能忠道いのうただみちはもういないのだ。

 新天地で心機一転、生まれ変わる気持ちでいこうと、弥勒みろくは思った。

 その瞬間、開けられている職員室の窓を、風が吹き抜けた。クリーム色のカーテンを揺らし、入ってきたその風は、弥勒みろくの心にすっと染み渡る様に、開けっ放しの扉を抜けて廊下へと流れた。

 窓を見ると、今朝見た怪異が、窓の外からこちらを眺めていた。職員室は二階だというのに、当たり前の様に、窓の外に怪異は立っていた。

「怖がって悪かったよ。美白さん」

 弥勒みろくが微笑むと、怪異も微笑み、姿を消した。

 校長は相も変わらず、扉を開いたままにしている誰かに小言をいいながら、静かに閉じた。

「午後になったら、教室へ戻ろう。最初が肝心だよ。君は明るい子だと聞いている。都会の話を聞かせてやってくれ」

「もちろんです。校長、ありがとうございます」

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