第七話 転校生
弥勒は転校した日向分校で挨拶をするも、罵詈雑言を受ける。
弥勒は転校先の教室の扉の前に立ち、先に中に入った校長が、自分を生徒へ紹介するのを待っていた。
「修文三十年、七月七日、今日も一日よろしくお願いします」
校長が挨拶をする波長が感じられた。生徒らは、眠たそうにしている者や、朝の気持ち良さを感じている者など様々だった。
しかしバラバラの感覚も、校長の一言で統一された。
「今日は皆さんに内緒にしていましたが、実は転校生が二名、東京の品川校から来ています。その内の一名は、このクラスに入ることが決まりました」
弥勒は急に、ゾワゾワとした波長が扉の向こうから押し寄せるのを感じた。
「緊張するな……巳代君は今同じ気持ちかな。いや、涼しい顔をして立ってるんだろうな。これが最初で最後の転校じゃないんだし、早く慣れろって嫌味をいわれそうだ」
中に入ると、教室中の視線が弥勒へと注がれた。
色んな感情や言葉が頭の中に広がってくる。まるで電波の様に流れ込んでくるその波長によって、緊張し頭がショートしそうだった。
「彼は我が学園の名物ともいえる舞楽部の天才。惟神の陵王こと、皇弥勒君です」
余計なことをいう爺だと、弥勒は心の中で蔑んでしまった。緊張から冷や汗をかく弥勒を見かねて校長は、なにやら生徒を静粛にさせようと話し続けていた。
やっと弥勒の気分が落ち着いた頃には、生徒は静かになっていた。気がつけば壇上に立っていたが、入口からここまで歩いた記憶が無い。
「さぁ挨拶をして、弥勒君。大丈夫。君の言葉は、波長としてしっかりと皆に届くから」
「す、皇弥勒です……東京から来ました。日向分校は、舞楽や雅楽、浄瑠璃といった由緒正しき部活が優れていると聞きます。ここで舞楽を学びたいと思っています。同じ轡を並べる友として、宜しくお願い致します……！」
生徒は呆気に取られていた。彼らは察していた。惟神の陵王が口から発した言葉はふわふわとしていて、とても聞き辛いものだったが、その波長はハッキリとしていて、言葉を細くする様に直接その意味を脳内へと流し込んできたのだ。
惟神の陵王は、耳が聞こえない。その噂は、本当だったのだ。
その道の泰斗である惟神の陵王は、普通ではない。
生徒らの、言葉にならない感情が、弥勒の中に、痛みを伴って流れ込む。腫れ物に触る様な戸惑いや嫌悪、侮蔑が、湧き出た感情そのままに、言葉を介さずに流れ込んできたのだ。
しかし気を落とす弥勒の方に、そっと校長が手を置いた。
「弥勒君は、午後の授業から参加します。それでは改めまして、今日も一日よろしくお願いいたします」
