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神通力上昇中〜惟神学園二年、皇弥勒  作者: 乘越唯響


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第四四話 弥勒菩薩

 弥勒は巳代にも名前の由来を聞かれ、その由来を思い出す。

 五条は弥勒に対し「なにか缶ジュースでも飲む?」と優しく問い掛けてきたが、弥勒はなにもいえなかった。それからの会話を、弥勒はよく覚えていない。

 その日の出来事を放課後に巳代へと話した。弥勒の重重しい反省の態度を、巳代は笑い飛ばした。そして「生真面目過ぎんだろお前、緒方とはあんまり話すことはなかったが、確かにそんな雰囲気の男だったな」と、目に涙を浮かべながらいった。

「そういや、怪異だ黄昏時マジックアワーだと一般人の目から見たら変質者でしかない言動から色物扱いしちまってたけど、緒方家も大概名家だよな。祖先は三輪子首みわのこびとって飛鳥時代の貴族だろう? 秋月家や渋川家よりも長く続く名家だ。千年以上の系譜を受け継いで来た名家ってのは、末端の高校生でさえも硬派にさせちまうものなのかねぇ?」

「どうだろう……僕は普通だと思うけどなぁ……。だって人を傷つけたんだから……反省しないと相手が報われないよ」

「骨の髄までやんごとないんだな。元皇族といわれても納得だ。あるいは、仏の名を冠するに値するというか。なぁ弥勒、お前なんでそんな仰々しい名前なんだ?」

「それ、五条さんにも聞かれたよ。そっか、巳代にも話したことなかったね」


 弥勒の名前は、父正仁が付けてくれた。その由来は巳代や五条が想像した通り、弥勒菩薩である。

 名前の候補にはとおる刷雄よしお晴明せいめいなどがあった。これはいずれも陰陽師の名前だ。陰陽師は中国で始まった陰陽道が日本で独自の進化を遂げた神職の一つである為、皇族こうぞくを離れたすめらぎ家は今も日本ひのもとの誇りを大切にしたいという思いから、この名付けに拘った。

 しかし生まれてきた弥勒は、耳が聞こえなかった。だから両親は、弥勒という名前にした。弥勒が祀られている弥勒堂という日本各地にある寺は、主に耳の病に対しての効果があるから、それにあやかったのである。

 そしてこの名前には、日本における陰陽道の最初期に活躍した観勒みろくにも掛かっていて、所謂いわゆるダブルミーニングであった。

 弥勒はこの名前を誇らしく思っていた。美しくて、逞しい名前だと思っていたのだ。だがやはり、自分には不釣り合いだと感じた。偉大なる先人の名を冠するというのはやはり、重荷になるものだ。自分は彼らには劣ると、弥勒は感じていた。弥勒には、同年代の年頃の少年にありがちな自信過剰な癖はなく、とことん謙虚だった。それは自省に繋がり、彼を成長させてきた。だがその自省は時に、過剰になることがあった。

「おい弥勒、また考え事か?」

 巳代にそういわれ、弥勒は驚いた。自省中は、どうしても自分の世界に入り込んでしまうのだ。

「弥勒、お前は瞬きひとつせずに一点を見詰める様になることがある。次に瞬きをした時、お前はいつも悲しそうな……苦しそうな険しい顔をする。もう少し俺を見習って楽観的に外を見ろ。お前は心をとざすのが上手くなって、もうなにを考えているのかは分からん。お前が自分の名前に対してどんな思いを抱えているのかは分からんが、その顔を見ればいつかその悪癖がお前の心を蝕んでしまう様な気がする。弥勒、答えが内側にない時もある。たまには仲間の顔を見るんだ、いいな」

 巳代の目を見詰めて、弥勒はなぜか安心した。巳代がいれば安心感があると、弥勒は感じる様になっていた。

「そうだね、そうするよ」

「そうだ、旅は長いぞ。あんまり飛ばしすぎるなよ」

三輪子首みわのこびと(生年不詳〜没:676年8月)……飛鳥時代の貴族。天智帝崩御後、その息子であり皇太子の大友皇子おおとものおうじに対し、天智帝の皇弟である大海人皇子おおあまのおうじが起こした反乱壬申の乱にて、大海人皇子の腹心として活躍した。反乱成功後は、大神おおが氏やその分家の祖となった。

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