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第三六話 新鮮な野菜

 渋川は自分よりも先に地元を離れる経験をした弥勒から、胸の内のもやもやの正体を知る。

 渋川はナスに手を伸ばし、丸かじりした。

「え、ナスって生で食べられるんですか?」

「さっきアク抜きしたから大丈夫だよ。弥勒君も食べてみたら?」

「僕、ナス苦手で……」

「舌が子供のままだったら、ナスが苦手だと感じるのは普通のことなんだよ。つまり弥勒君はまだお子様ってことだね」

 渋川は不敵な笑みを浮かべた。弥勒はドキッとした。弥勒は必死に悟られまいと心を閉じた。渋川は、無表情の弥勒に申し訳なく思い「ごめんね」と詫びた。弥勒は無表情のまま、悦に浸っていた。

「そういや、弥勒君はどこへ転校するの?」

「大宰府分校です。福岡の大宰府市にあります」

「大宰府……いいなぁ」

 渋川や俯いていた。しかしその目は光輝いており、都会に対する憧れがあるのだということが見て取れた。

「惟神学園内なら、どこで学んでも同じでだろうに」

「でも渋川さんが居なくなったら、校庭の花や野菜が枯れちゃいますよ」

 弥勒の冗談に渋川はクスッと笑った。吹き出したことが恥ずかしかったのか、照れ隠しにナスを齧った。

「環奈がね、むしゃくしゃしたら都会に行けば良いっていってた。よく意味が分からなかったから理由を尋ねたら、有り得ないくらいの魅力が溢れる都会に入れば、頭がパァーッてするからって教えてくれたんだ。馬鹿みたいだよね。でも、凄く納得してしまった」

「……つまりどういうことです?」

「分からない。私はこの花壇も、畑も、みんながいるこの日向分校も大好きなのに、環奈みたいに外へ出てみたいとも思ってるんだ。矛盾してるよね。私も馬鹿みたいだわ」

「それは両立するものだと思いますよ。どっちか選ぶものでも無いでしょうに……。僕も東京や家族が恋しいけど……冒険したいって思いに駆られてやって来たこの宮崎が、今は心地良いんです」

「この気持ちの正体は、冒険心だったのね……!」

 曇っていた渋川の顔が、ハッと晴れた。悶々としていた思いに答えが出たのだろう。

「都会に行きたいと思うだけで、故郷を蔑ろにしてしまう気がしてた。大切なものを捨ててしまうかの様に感じていたけど、私、難しく考えすぎてたみたいだわ」

 渋川は弥勒へ「ありがとう」と告げた。弥勒はなにか特別なことをした様な気はしなかったが、渋川の澄んだ笑顔を前に、そんなに細かいことはどうでもよかった。

「お礼にこの野菜、全て差し上げるわ。良いものを食べて元気を出して。心の半分は体よ。人も野菜と同じく、大地の恵みに活かされている自然の産物。新鮮な食材で体を健康にしないと、曇った心は晴れないわ」

 そういって渋川は、麦わら帽子ごと、弥勒へ手渡した。

「帽子はちゃんと返してくれると嬉しいわ。お気に入りで」

「しっかりお返ししますよ。ありがとうございます」

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