第百二話 八重歯の女の子
阿比留は儀式の帰り道で、八重歯の少女の話をする。
儀式を終えた後、大友と高橋は決まって、どこか不満そうな顔をする。だがだからといって不満を言葉にすることはなく、そのまま扉の外まで出て、三人で来た道を車で戻っていくのだ。
これに一体なんの意味があるのか、二人の目的を、阿比留は知らなかった。
「三日月君、君はあのお姉さんを覚えているかい? 八重歯が特徴の女の子だよ」
阿比留は高橋の言葉に、首を傾げた。そんな人を見たことはなかった。
「そうかぁ覚えてはいないか。まだあの時は四つだものなぁ」
高橋はそういって優しい笑みを浮かべた。高橋はよく笑う男だと、阿比留は常々思っていた。だからこそ、この二人といる時は、あまり不安を感じないのだと、彼は悟った。
「今、あの子は九州本土の学校に行っていてね、今度ここまで戻ってきてくれるんだよ。一時だけね。久々に会わせてあげたいと思ったんだよ」
「そのお姉ちゃん可愛いの?」
「おませさんやなぁ。僕は可愛いと思うけど、八重歯が好みじゃないもんなぁ」
高橋と阿比留は笑いあった。
そのあいだ、大友はずっと無言で、真顔であった。
数日後、阿比留は二人に連れられ、お姉さんと会った。お姉さんは高橋がいう通り、可愛らしい人だった。
「あっえっと、こんにちわ籠手田さん」
ぎこちなく挨拶をする阿比留を見るや否や、籠手田は三日月に抱きついた。
「おお〜三日月君〜大きくなったね〜もちもちやなぁ〜」
そういって笑う籠手田に、三日月は照れる他なかった。
籠手田は「渚お姉ちゃんでいいよ、前みたいに」といっていた。
やはり覚えていないだけで、以前あったことがあるのだと、三日月は悟った。
「今幾つになったとね?」
「六つ」
「そうかぁ〜もうすぐ小学校やん? 対馬の小学校に入ると?」
「うん。お姉ちゃんもここの?」
「他にないから私もそこの卒業生ばい。でも中学が島にはなかけん、今は長崎の本土の方に行っとっさね」
「そうなん。なんで帰ってきたと?」
「今年で中学を卒業するけん、惟神の学園に入るとよ。やけん、惟神に入る為に卒業生の大友さん達に会いに来たと」
惟神という言葉を、三日月は初めて知った。そして、その学園は特別な人しか入ることができないということを、彼は教わった。
「俺もいつか惟神入れるとかな?」
「どがんやろか? でも、人にはそれぞれ役目があるけん、惟神学園に転入する必要があるなら、きっと入れるばい。でも入れんくても、与えられた役目を一生懸命に果たすだけよ」
そういって籠手田は、またしたも笑顔を見せた。可愛らしい八重歯が眩しく、阿比留はまた、照れてしまった。




