第百一話 少年よ
九州の最北端にて、ある少年の運命が狂い出す。
長崎県 対馬市
長崎県の離島である対馬で、少年は日常を送っていた。
「三日月! かけっこせん! ?」
「早く来んば置いてくばい! 早よせんね三日月!」
少年の友人二人は、少年に遊ぼうと誘った。それはなにもない田舎町において、どこにでもある良くある光景であった。
しかし少年は、どこにでもいる少年ではなかった。
「すぐ行く! でも十七時には帰らんばっちゃん!」
少年には役目があった。友人と遊んだ後、別れを惜しむ友人に明日の学校での再会を約束しながら、家へと帰って行った。
家には、ある男が待っている。それは父でも兄でも、親類でもない。だが男は、親や親類が、名士として慕う人物であった。その名を、彼らは大友様と呼んでいた。
「おかえりなさい阿比留少年、いや三日月君だったね」
阿比留は、この大友という長身でやけに色白の男の存在を不思議に思っていた。なぜ阿比留家の大人達が、まるで神様の様に尊敬して大切にしているのか、まだよく理解していなかったのだ。
「ほら早く挨拶をしなさい! 三日月!」
父に急かされ「こんばんわ」と告げると、大友は笑顔を見せて、「挨拶は大切だよ三日月君。さぁ今日も行こうか」と告げた。
大友は阿比留を連れ、二人で車に乗った。車には、大友の腹心である高橋の姿があり、三人は夜道の山へと登っていった。
山頂へ登ると、そこにはお社があり、その中の神籬まで、明かりのない夜道を三人で歩いていく。
数日前から、阿比留はこういうことを繰り返し行っていた。初めは怖かった闇夜も、今は大男二人の安心感もあってか、今はただ不思議さだけを感じるのみだった。
数分歩き神籬までたどり着けば、手前の鳥居をくぐる前に、大友が口を開いた。
「さぁ阿比留君、着替えてお座りなさい。今日もまた始めようか」
阿比留は大友にいわれるがまま、洋服を脱ぎ、正装へと衣を変えた。そして三人で礼をし、神籬の奥にある木製の建物の扉を開く。
阿比留は慣れたもので、建物の中心に置かれた椅子に腰を下ろした。
その周囲には、阿比留にはよくわからないが、五人囃子と呼ばれる五つの楽器と、妙な形の石と鏡、そしてやけに錆び付いた刀が、たいそう大事そうに置かれていた。
「大友様、これらはなんというんでしたっけ」
「八咫鏡、天叢雲剣、八尺瓊勾玉に御座いますよ、これらは貴方様を貴方様たらしめる三種の神器に御座います故、お忘れなき様……」
大友はこの間にいるあいだは、なぜだか丁寧な言葉遣いになる。しかし阿比留はそれを、どこか当たり前の様に受け入れてしまうのだった。まるで、大昔からそうしていた様な、そんな気がしていたからである。だから彼はこの妙な関係性に疑問を呈することはなく、自らの役目を演じることに徹していた。




