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ルドルフは無双する


 侮っていた。

 メアリ・アズワールは後悔の淵にいた。

 貴族生まれで温室育ち。それが起因して、冒険者という職業を甘く見ていた

 歳は17の金髪の少女だった。

 肩まで伸ばしたセミロングとすらりと伸びるような体躯に細身の体が合わさって、人形のような少女だ。 しかし、それは見せびらかすためではなくて、武闘家(モンク)としての力を存分に発揮するため、余分な脂肪をそぎ落とした努力の結晶である。

 童顔のせいで13くらいにも見えるからか、武闘家(モンク)用の小手を付けている姿は、仮装のようでもある。


 しかし、彼女はれっきとした冒険者見習いだった。

 冒険者学院に在学。人形のような白い肌。愛らしい顔立ちとオシャレさんな一面もあって、クラスではアイドル的な存在である。


 そんな可愛らしい女の子の、人形のような顔立ちは、酷く絶望に歪んでいた。


 床に倒れて、”死”を待っていたのだ。


 迫ってくるのはオークの群れだったからだ。


 それもただのオークではない。普通のオークは奇麗なピンク色の肌なのだが、彼女の前にいるのは、赤黒い肌をしたハイオークの群れだったのだ。中心には青黒い肌をしたオークロードまで待ち構えている。オークロードをボスに据えた、地上であれば街を1つ滅ぼせる戦力だった。


 どうして、『草原のダンジョン』に、こんな化け物たちがいるのか。

 メアリは見習いながらに悟る。

 ここは『草原のダンジョン』ではなく、まったく別の地獄なのだと。

 メアリは優等生だった。

 実技試験ではそこら辺にいる冒険者よりも優秀でセンスがあると過剰なほど教師から褒められて、現役の冒険者に模擬戦で勝ったことすらあった。推薦で冒険者になった連中よりかは、厳しい訓練を積んできたから、レベルが高いのは必然である。


 そして人気者だった。

 オシャレや自分磨きを怠らず、日々、可愛く見えるように肌のメンテナンスや新商品の化粧にアンテナを張っていた。とにかく目ざとい性格をしていたのだ。結果的には努力が報われて、みんながみんな、メアリちゃんは可愛いと賞賛し、ミスコンでも優勝経験があった。


 もし、これが無自覚だったのなら今のような状況には陥っていない。

 何よりも質が悪かったのは、可愛さと強さの自覚があったからだ。


 メアリは調子に乗った。

 可愛くて最強のメアリちゃん。その肩書に驕ったのだ。

 調子に乗って、強さを過信した。

 一人でダンジョンに臨んで、最後には失敗したのだ。

 失敗経験が少ないからこその油断だった。


(う、うう)


 メアリは涙を頬に伝わせながら、その時を待つ。

 視界は歪む。

 もう腕は上がらない。

 足も上がらない。

 メアリも冒険者見習いだ。一矢報いてやろうと、全力の一撃をハイオークの腹部に打ち込んだが、硬すぎる皮膚が衝撃を一切通さずに、彼女はオークが作った不出来の棍棒で吹っ飛ばされ、ダンジョンの石壁に打ち付けられたのだ。


 石壁にクレーターができるほどの一撃だ。おそらく、腕は折れているし、あばら骨も折れている。頭からはダバダバと滝のような血が流れてくる。

 逃げようと必死に体を引きずったが、それを楽しむかのようにオークたちはすぐには彼女を殺さなかった。


 太鼓代わりに棍棒を地面に叩きつけている。

 オークたちの勝利の宴である。


(ああ、ダメだった。ごめん。ごめんなさい)


 それは謝罪だった。

 使用人たちを吹っ飛ばして、気絶までさせて、一人でダンジョンに潜ってみたくて、意気揚々と冒険に出かけたのだ。

 その結果がこれだ。

 もしも忠告を守って、サポートと一緒にダンジョンに臨めば、こんな事態には陥らなかったかもしれない。

 オークロードが彼女の前に立ちはだかる。


(終わるんだ。ここで)


 オークロードは丸太のような棍棒を上に掲げた。

 メアリの心も折れた。それを避ける手段も、受け止める手段も、何も残されていない。

 できることはその棍棒を脳に振り下ろされる瞬間を待つことだけだ。

 彼女は目をつむった。

 死にたくないと願ってしまった。


 都合のいい話だ。

 これだけ自分勝手に動いて。

 これだけ我儘に行動して。

 たくさんの人に迷惑をかけながら、彼女は心の奥でこう思ってしまったのだ。


(誰か、助けて――――)


 彼女は待つ。

 死の瞬間を。

 脳に棍棒を叩きつけられる瞬間を。

 しかし、それはいつまで経ってもやってこなかった。

 オークロードが怯える姿を楽しんでいるのかと思い、恐る恐る目を開けると、振り降ろされたはずの棍棒は彼女の目の前で”見えないなにか”に受け止められていたのだ。透明な壁が棍棒とぶつかり合った。水面に出来た波紋のように、空気がブオンブオンと波打っている。

 助かった?

 なんで?

 という疑問が埋め尽くしたことだろう。

 かつ、かつ。とダンジョンの奥から音がする。

 誰かの足音のようだ。

 その答えとなる人物が声を発した。


「ああ、なるほど。ただのオークか」


 ぶっきらぼうな声音で、黒いローブの男が乱入してきたのだ。






 ルドルフは聞いた容姿と一致した人物を見つけた。

 ボロボロだったが、金髪という部分と武闘家(モンク)という役柄が一致したことによる判断だった。

 間に合ったか、間に合ってないか。もしかしたら死んでしまったのでは? と不安になったが、目が合ったことで生きている保証が得られて安堵の息を漏らした。


「ぶ、う、うおおおおおおおおおおおおおお」


 オークが鳴く。

 ルドルフは、ふむ、と顎に手を当てた。

 どうにも色違いのオークがたくさんいる。

 オークの色違いは強いらしい。しかしルドルフには判別できない。オークロードとか、ハイオークだとか、たいして強さは変わらないんだから、全部オークでいいのではないか、というのはルドルフの持論である。


 大量のオークが、ルドルフに目を向けた。

 彼らの勘が、危険であると警笛を鳴らしたのだ。

 大量のオークが一斉に、彼の命を刈り取りに向かう。

 それを見た金髪ッ子は倒れながらも、枯れた声を出した。


「に、逃げてっ!」


 ルドルフは杖を持っていることから明らかな魔法使職だ。

 魔法使いがたった一人で何ができるというのか。

 魔法使いは後衛職で、基本的に前衛がいないと機能しない。

 攻撃魔法を使うだけの詠唱の時間も稼げなければ、無詠唱でやるにしても、近づかれたが最後、自分の魔法で吹っ飛んでしまうからだ。


 しかし、黒いローブを羽織ったルドルフは逃げない。

 正確には逃げられるほど足も速くないし、攻撃を避けるほどの動体視力はない。俊敏さもない。

 普通の魔法使い以上に、彼は身体的スペックが低いのだ。

 本来であれば無能と呼ばれるべき人間だろう。

 しかし。


 彼は前衛の魔法使い『鉄壁のルドルフ』だった。

 ルドルフはオークが振り下ろす棍棒すら目で追えてないが、焦る必要はないのだ。

 なぜならば……。

 棍棒は彼の額の手前で止まる。

 見えない何かが、ルドルフとオークの間に壁となって現れているのだ。


「シールド展開」


 ルドルフがそう言うよりも早く、すでに透明な何かが展開されていた。

 オークは「ふごおおおお」と声を上げて、何度も見えない壁を叩く。棍棒で殴り、拳で殴り、足でける。しかし、何をやっても壁が破れない。


 おかしいと金髪の少女は首を傾げた。

 ルドルフに高い魔力はない。

 そもそも、魔法を使った気配すらない。無詠唱にしては強すぎる魔法だし、詠唱すら聞こえていないからだ。


 だというのに。

 魔法のような何かで、壁を作り、オークの群れの猛攻を受け止めているのだ。


 「一体、何者なの?」とでも言いたげな顔で金髪の少女は、ルドルフをじいと観察していた。


 何かを悟ったらしいオークは標的を変更したようで、金髪少女に視線を向ける。が、時すでに遅し。

 オークはすでに詰んでいたのだ。

 彼らは透明な壁で幽閉されている。

 オークの群れは閉じ込められた。


 ルドルフの戦闘ではすべての能力が意味をなさない。

 速度も、パワーも、強大な兵器すらただの小道具になり果てる。

 ハイオークだろうが、オークロードだろうが、ドラゴンだろうが、たいして違いがない。

 すでに戦いが始まったときには、障壁を展開しており、その壁を突破する手段は物理的に存在しない。物理技にルドルフを倒す手段はないのだ。


 彼に守る意思があり続ける限り、視界に入るものすべてが絶対の庇護下となる。


「数が多いな」


 ルドルフは盾を展開したまま、面倒くさそうにつぶやいた。

 オークの群れ。それに恐怖すらせず、ゆっくりとした歩調で近づいていく。

 奴らは幽閉された空間から脱出を試みているのか、透明な壁を棍棒で殴り続けるが一向に出られる気配がない。

 ただ空間が波打つだけ。

 ピクリともしない。


 ルドルフはオークたちに接近し、ゆっくりと杖を向ける。

 オークロードだとか、ハイオークだとか、何も知らない彼は、まとめて叩き潰すのだ。

 こう、つぶやいた。


「ゼロ距離射撃――――」


 杖先と距離は一メートルも離れていない。

 彼は唱える。


「――――ファイアランス」


 瞬間。

 炎が爆ぜた。

 遠距離射撃であるはずの中級魔法であるファイアランスは、ゼロ距離から離れたのだ。

 炎の槍が爆散する。

 ゼロ距離からの射撃だ。爆発と爆風が四散し、彼を巻き込むはずだった。

 自爆技のようにも思える。

 金髪少女は目を見開いていた。

 そうはならなかった。

 爆風がまるで意志を持っているかのように、四角い箱の中だけで爆発した。それこそ透明なガラス箱のなかで豚肉を燻製にするかのように。

 時間して20秒。

 煙が晴れると、オークは全滅していた。

 蓋を閉じて炎であぶられたようなものだ。その透明な箱のなかには、酸素ではなく炎が充満しているのだから、魔物が酸素を必要とする生物である限り、その空間で生存することは不可能だろう。

 彼は黒焦げとなったオークの群れから視線を外すと、金髪少女に視線を送る。

 


 ここまでならヒーローで終われた。

 ルドルフは頭がちょっとアレだった。

 空気の読めない一言を吐く。


「あなたは、今、幸せですか?」


 金髪の少女は痛みすら忘れて「は?」と口にする。

 金髪の少女は思ったことだろう。『この状況で幸せなわけねーだろ?』と。


 これが、『鉄壁のルドルフ』と一人の少女。

 二人の珍妙な邂逅だった。



以下、後書きとなります。

メタ的な話も含みますので、世界観を大事にしたい方は飛ばすのを推奨いたします。

↓ ↓ ↓





まずはじめに。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

メインヒロイン登場と無双回。一冊の本で例えると1/4程度の進行状況になりますが、とりあえずの一区切りと考え、感謝の念を述べさせていただきます。

 皆様のブックマークや評価、感想が励みになり、こんなにも高頻度で投稿できております。感謝の気持ちがつきません。


 ここから第一章、ストーリーの中軸に入るのですが、読者様を裏切らないような形に仕上げながらも、新鮮な要素を交えながら面白い話を紡いでいければと思います。



 

 面白かった! という方はぜひ、下記の☆から評価のほうをしてくださると、モチベーションアップに繋がります。

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