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私の隣は、心が見えない男の子  作者: 舟渡あさひ
幸せな思い出、そして
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第70話 撃沈、進藤くん

 しばらく集中して勉強を続けて、終了を告げたのは、進藤くんだった。


「今日はもうここまでにしない? そろそろ脳がオーバーヒートしそうだよ」


「教わりっぱなしのあたし等が言うセリフじゃないが、同感だな」


 真咲ちゃんも同意したことで、勉強はお開きとなり、各々勉強道具を片付け始める。


「それにしても、結構綺麗に得意不得意が分かれてるよね。文理選択もバラバラかな、これは」


 進藤くんがそう言うまで忘れていたけれど、そういえば、年が明けたらそんなものを提出しなければいけなかった。


「私は、文系かな」


 得意不得意が綺麗に文理で別れているのだ。特に文系の進学先でやりたいことがあるわけでは無いけれど、他に選びようがない。


「わたしも文系」


「あたしも」


 それを聞いて、分かりやすく喜びを顔に出してしまう。文理が分かれれば、どうあがいても来年から別々のクラスになってしまうことは避けられない。


 文系同士だからといって必ず同じクラスになれる訳では無いが、なれないと決まってしまうよりずっといい。来年も三人で一緒にいられるかも知れないなら、それを信じていたい。


「大野さんも文系なんだ」


 意外そうに言う進藤くんと同じように私も驚いたけれど、私はその分余計に嬉しかった。真咲ちゃんは主要五科目の中に得意不得意はなく、どれも努力と気力で平均値を取っている印象だったから、どっちに転ぶのか分からなかったのだ。


「経営学部に興味あんだよ。まだそこまで深く考えてるわけじゃねえけど、文系にしといたほうが、受けられる試験方式増えるらしいからさ」


 もう学部の希望まで考えているとは思っていなかった。でも、文化祭のときの真咲ちゃんを思えば、きっと向いている進路なんだろうなと思える。


「結季ちゃんも、進学先まで考えてる?」


「わたしは、そこまでは……普通に文学部かなあ」


「私も、そんな感じ」


 まだぼんやりとしか考えていないのが私だけでなくて安心する。あんまりそういうのは、良くないと分かっているのだけれど。


「九十九くんは?」


「進学先までは考えてない。文理は、文系で出す」


「え、理系は僕だけ? ハジメは理系だと思ってたんだけど」


 私も、九十九くんはどちらかと言えば理系科目の方がバランスが良いので、理系に進むのかと思っていた。


「性根が文系寄りだからな」


 彼は、そう言った。その言葉は、なんだか私にもしっくりきた。


 彼はとても論理的だけれど、彼のロジックは、いつでも誰かの感情や情緒に寄り添っている。


「来年も、同じクラスだといいね」


 文化祭を一緒に回るという約束もある。体育祭だって、今度は倒れずに、最後まで一緒に頑張りたい。他にもたくさん作りたい思い出がある。君の隣で。


「ああ」


 いつも通り、短く返すだけの君も。そう思ってくれているかな。


「あれ、僕だけ仲間はずれ?」


「お前にゃクラスなんてあってないようなもんだろ」


「休み時間のたびにあちこち出歩いてるもんね、進藤くん」


 ああ、だからか。進藤くんと離れ離れでも、なんだかあまり寂しい気がしなかったのは。


 別のクラスになっても、休み時間になったらいつの間にかそこにいて九十九くんと話しているような、そんな光景が目に浮かぶようだ。


「いやいや、今日みたいなテスト前のときはどうするのさ」


「頑張って」


「勉強しろ」


「骨は拾ってやる」


「えっと……まず、授業ちゃんと受けよう?」


 見事に撃沈した進藤くんを尻目に、私達は彼の家を後にした。


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