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第54話 デート一回

 全員揃ってホームルームを済ませると、まず問題であるボールアイスの調達の検討が始められた。


 机の運び出しの時間になるまでに固めるぞ、と指揮を執る大野さんは、もうすっかり吹っ切れたようで頼もしい背中をしている。


 ボールアイスの件は、商店を営んでいるクラスメイトの親戚の方にお店におろす分より多く仕入れてもらってそれを流してもらう、という話だったので、直接仕入先を紹介してもらえるならそこと相談。出来なくとも、別で問屋さんを探す方向で動くこととなった。


 PTAの方でも卒業生への記念品などの用意のためそちらの方面とのつながりが多少あるらしく、そちらから仕入先が見つけられないか、三枝先生の方でも探してくれるらしい。


 ここまで概ね、昨日私達より先に教室に戻った九十九くんが皆に提案した流れと同じだったらしく、相沢さんがちょっとだけむくれていた。


 話し合いが終わるとすぐ机の運び出しの時間になった。全クラス同時に動き出すと渋滞してしまうため、各クラス時間を割り当てられており、その中で済ませなければならない。


 ここで、何名かの女子が例の〝請求〟を行使した。〝支払い〟のため、九十九くんは机をちょっと多めに、あくせく運び出すこととなった。


 その際、昨日部活の方へ行っていたり先に帰っていたりして事情を知らなかった生徒たちにも〝請求〟の件が周知されることになったのだが、上手く伝わらなかったのか、貢献という代償の有無に関わらず様々なお願いが気軽に彼に寄せられることになった。


「ハジメ、ちょっとそっち押さえてて」


 とか、


「ニノマエくん、うちの部は男子部員がいないから力仕事大変なんだけど、後でちょっと手伝いに来てもらっていい?」


 とか、


「ハジメ、今度男子でカラオケ行くから、お前強制参加な」


 とか、


「今度部内での紅白戦で人数足りない時、助っ人に来て」


 とか、


「デート一回」


「えっ」


「は?」


 思わず声が漏れてしまった。彼の、は? に埋もれて誰にも聞こえてなければいいが。


 言い出したのは相沢さんだ。もしかして、と一瞬思ったけれど、心を見ても彼に気があるようにはとても見えない。


「私じゃないから。私が指定する子と、デート一回」


 そういうことらしい。それは、いいのだろうか。


「……相手の了承は」


「これから取るけど、取れなかったら一人で待ちぼうけしてなさい」


「……わかった」


 流石にそれは可哀想なので止めたほうがいいだろうか、と悩んでいると、相沢さんがこちらに来て、小声で耳打ちしてきた。


「行くでしょ?」


「うん」


 私を指定するつもりなの? と確認するつもりだったのに、気づいたら了承してしまっていた。何故かといえば、まあ、つまり、行きたいと思ってしまったのだ。


「じゃあ、これでチャラね」


 かっこよく去っていく彼女に、何がチャラなの、と追いすがって聞いたら呆れられてしまった。


 実は私が大野さんの悪口を止めた時、集団の中に相沢さんもいて、止めたかったけど波風を立てたくなくて黙っていたのだそうで、丸く収めた私に恩を感じていたそうだ。


 その前に布地のことで揉めたときも迷惑をかけてしまったと気にしていたらしい。


 それでもやっぱりありがとう、と言ったら、あいつには勿体ないと笑われた。

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