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第29話 私の方が深い

 わぁっ、という歓声で目が覚めた。


 身体を起こすと、養護教諭の先生が駆け寄ってくる。大丈夫? という声に曖昧に返事をしながら、辺りを見渡す。救護テントの中のようだ。


 左のほう、少し離れたところからマイクで響く先生の声が聞こえる。眼の前のグラウンドには整列した生徒たち。


 体育祭は、終わってしまったらしい。今は閉会式の最中のようだ。さっきの歓声は、順位発表によるものだろうか。結果はどうだったのだろう。


 体温を測り、水を飲まされる。三十七度二分。微熱とだるさと軽い目眩があるくらいで、重症というほどでもない。


「でも、軽いとは言え熱中症で倒れたんだから、安静にしてなさい」


 そう言い含められる形で養護教諭の先生とのやり取りが済んだ頃に、閉会式も終わったようだ。生徒が思い思いに散らばる。と思ったら、クラスごとに集まって記念写真を撮り始める。


 私はどうしよう、と悩んでいると、大野さんと小川さんが様子を見に来てくれた。二人には、大層心配された。


「心配かけてごめんなさい」


「まったくだ」


「もうあまり無茶しないでね」


 それでもあっさり許してくれるのだから、二人は優しい。最も、これからしばらく過保護にされるかもしれないけれど。


 それから二人は、写真を一緒に撮りにいけるよう先生に掛け合ってくれた。


「大丈夫なの?」


「写真くらいなら」


 値踏みをするような先生の視線に真っ直ぐ答えると、退く気がないのが伝わったのか、思ったよりも元気だと思ってくれたのか。


「手短に済ませるようにね」


 そう、ため息とともに送り出してもらえた。


 よかった。倒れたせいで私だけいない集合写真なんてものが出来上がろうものなら、卒業アルバムと共に黒歴史として残ってしまう。


 私は大丈夫だと言ったのだけど、過剰に心配する二人に両腕を支えられ、捕獲されたかのような格好でクラスの皆の下へ向かった。合流すると、女子の群れから心配の嵐を受けた。大事ないとわかるとネタに昇華し、いじって来てくれる。


 されるがまま撫でくり回されいじられ続けていると、男子に押しやられて九十九くんが近寄ってきた。


「ごめん」


 私が先に謝ると、九十九くんも、周りのクラスメイトたちも驚く。


「……おい」


「だって、タオルとか、シャツの裾とか、日傘とか。あんなにずっと気を配ってもらってたくせに勝手に無茶して倒れて、その上で謝られたりなんかしたらどんな顔していいのか分からないよ」


「……それは、お互い様だろ」


 彼は困った顔をしながら、ほんの少しだけ微笑んだ。彼の口角が上がっているのは初めて見る。


「悪かった」


 驚いている間に、結局謝られた。


 彼が深く頭を下げるので、私も九十度に腰を曲げる。


「……何だ」


「私の方が深い」


 デコピンが飛んできた。

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