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私の隣は、心が見えない男の子  作者: 舟渡あさひ
私の隣は、心が見えない男の子
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第110話 会いたかった人

 お盆が明けた次の土曜日。今日も九十九くんのところへは行かず、真咲ちゃんに呼び出されて駅前に居る。


 学校の最寄り駅の駅前広場。勿論、ここが目的地なわけではない。オープンキャンパスという話だし、ここからまた移動するはずだ。


 案内人を寄越すとも聞いているし、待ち合わせ場所としては適切だろう。ただ、ここにくると、バレンタインのことを思い出す。


 いや、やめよう。あまりナーバスになっていても仕方がない。それより、案内人が誰なのかが気になる。その人が適任だと言っていた人だろうか。


「やあ、人見さん」


 この人ではないだろう。九十九くんのことには詳しいかもしれないけれど、相談相手に適切だとはちょっと思えない。


「奇遇だね、進藤くん。お出かけ?」


「いやいや、聞いてない? 大野さんに頼まれてきたんだけど」


 きっと、胡乱うろんな目をしてしまっているのだろう。進藤くんは心から困っていそうだ。


「まあ、僕は案内を頼まれただけだから、行かないなら行かないでいいけど。どうする? 人見さん」


 かと思えば、急に余裕を取り戻してこんな事を言う。やはり、相談相手には見えない。本人も案内役と言っているし、相談相手はまた別にいるのだろう。


「行く」


 なら、私の答えも変わらない。


「そうこなくっちゃね。じゃあ、行こうか」


 先を歩く進藤くんについていくように歩く。こんな風に彼と歩くのは、去年の七月、撮影ツアーに同行させてもらって以来だろうか。


 クリスマスのときは盗み聞きに大半を使ってしまったし、それ以外の時は、一緒に歩くというほど行動を共にしていない。そう思うと、何だか新鮮で、少しだけ懐かしい。



−−−



 電車に揺られ一時間半以上。たどり着いた学校は、こういうのに疎い私でもよく名前を聞くような、偏差値が高くて有名な大学だった。


 敷地がとても広い。一人なら迷子になってしまいそうだ。


「あと、言っておくけれど、僕はここに連れてくる所までしか了承していないからね。出会えるかどうかも話してもらえるかどうかも、僕は保証しないから」


 ここに来て、進藤くんはそんなことを言った。


「私、相手が誰かも知らないのだけど」


「はは。頑張って」


 誰か知らない人を探すのを頑張れと言われても、そんなものどうすればいいのか。真咲ちゃんはやっぱり、頼む相手を間違えたんじゃないだろうか。


「取り敢えず、オープンキャンパスなんだから気になるところ見て回ればいいんじゃないかな。学校説明でも授業体験でも」


 こんな偏差値の高いところ、私では逆立ちをしても入れそうにはない。そんなものを受けた所でここに進学することはないだろうけど、他にすることがないので、取り敢えず言われたとおりにしてみた。






 学校説明で、この大学の成り立ちや学部、施設の説明、試験日程の説明などを聞いたり。文学部の体験授業で、源氏物語の「桐壺」の解説を受けてみたり。


 ここに来ることはなくても、他の学校の良さを知る比較対象にするのはいいかも知れないとか、中古文学も面白いなとか、そんなことを考えながらオープンキャンパスを回る最中、進藤くんとも少し、九十九くんの話をした。


「ハジメと上手くいっていないんだって?」


「うん」


「僕の親友を頼んだよ、って言ったのになあ」


 ぐう、と小さなうめき声が口から漏れる。それがあるから、進藤くんには話し辛かったのだけれど、そうも言ってはいられない。


「九十九くんには、私じゃない方がいいかも知れないから」


「知らないよ、そんなの。僕が託したのは君だ」


 いつもの、意地悪を言うときの軽い口調ではなかった。彼がよく見せる、分かりやすいポーズでもなかった。真剣な声。


「そもそも、ハジメにとってよくない相手に託したりはしないよ。君がそれを信じられないのは、君だけの問題じゃないと思うけどね」


「九十九くんのせいじゃないよ」


「そんな訳無いでしょ。どちらかだけの問題で片付くほど、君たちの関係は浅いものじゃなかったはずだよ」


 珍しく、進藤くんの言葉は強い。だけど、責めているようには聞こえない。何だかまるで、九十九くんと話しているみたい。


「君たちは人には鋭くて真っ直ぐなのに、どうしてお互いのことになるとそう不器用なのか、僕には不思議だよ」


 かと思えば、心底可笑しそうにそんな事を言う。


「何でそんなに愉快そうに言うの」


「解決しない問題だと思ってないからね。ほら、次どこ行く?」


 言いたいことだけ言って、進藤くんは歩き始めてしまう。まあいい。彼は相談相手では無いのだから。


 それよりいい加減、目的を果たさなければいけないのだけど、相変わらず手がかりも何もない。


 どうしようかと悩みつつ、お腹が空いたので学食にでも行こうかと思った、その時。


「一透ちゃん……?」


 微かな呟きだったけれど、私の耳は確かに捉えた。眼の前で進藤くんが、あーあ、みたいな顔をするのに構わず、勢いよく振り返る。


 ほぼ脊髄反射だった。だって、それはずっと、ずっと聞きたかった声だった。ずっと会いたかった人だった。


「冬紗先輩!」


 私に勢いよく抱きつかれた冬紗先輩は、困った顔で、でも嬉しそうな心で言った。


「まだ早いよ、もう」


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