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私の隣は、心が見えない男の子  作者: 舟渡あさひ
私の隣は、心が見えない男の子
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第108話 楽しみ方にもいろいろある

 一通りボールと戯れた私達が次に向かったのは、ウォータースライダー。


 ぐる、ぐると二回転してからプールへ着水するそれは、複数人で乗るボートなどがあるわけではなく、単身で滑って、飛び込んで、それでおしまいというだけの代物。


 それだけのことが、これがまたなんとも楽しい。


「うおおおおおお!」


 一足先に滑らせて貰った私の待つプールに、雄叫びを上げながら真咲ちゃんが迫ってくる。


 姿が見えたのも束の間、どぱん、と大きな音を立て、派手な飛沫を上げて着水した。


「っぷは! いや、意外と勢いあんなぁ」


 顔も心も喜色に満ちた真咲ちゃんが、次の結季ちゃんに轢かれないようザブザブと道を開けるように、こちらに歩いてくる。


「いい着水だったよ。十点」


「飛び込みって飛沫が無い方がいいんじゃなかったか? いや飛び込みじゃねえけど」


 そんないい加減な会話をしていると、きゃああ、と絶叫マシンを楽しむかのような歓声が聞こえてくる。


 次第に大きくなったそれは、ばしゃり、と程々の飛沫を上げながら水に飲まれていく。


 音や飛沫の差は、質量差だろうか。


「ん? どした」


「ううん。なんでも」


 身長も、それ以外も。口に出すと悲しくなってしまうので、頑張って飲み込んだ。人と比べるものではないのだ。


「これ、思ったよりスリルあるね……一透ちゃん、どうかした?」


「ううん何も」


 身長は私より小さいけど、特定の部分が私より……いや、やめよう。再三言うが、人と比べるものではないのだ。


「それより、もう一回いこう。もう一回」


「わかったわかった。今度は逆の順番で滑ってみようぜ」


「わたしはいいけど、どうかしたの?」


「いや、ちょっとな」


 真咲ちゃんはちらりと横目でこちらを見る。まさか、同じことを考えていたのだろうか。比べられてしまうかと思うと、流石に滑りにくくて困ってしまう。


 そんな心配をしてしまったけれど、結果として、特にそういうわけではなかった。


 もう一度列に並び、歓声をあげながら滑る二人を見送り、私の番。


 流れる水に押し流され速度を上げながら、ぐわんぐわんと遠心力に振り回され、着水。


 どぼん、という音が、身体が水にぶつかった時の衝撃音として一瞬聴こえたあと、頭が水に入ると同時に遠く小さく、ごぼごぼという水音に変わるのがまた面白い。


「んふふ」


「笑いながら上がってきた」


「一回目もちょっと気になってたけど、お前なんで滑っている間無言なんだよ」


 真咲ちゃんが気にしていたのはそれだったらしい。なんで、と言われても、なんでだろう。


 一応、滑っている間もリアクションは取っているのだけれど、わ、とか、ひゃあ、とか呟いた所で下まで聞こえるはずもない。


 だからといって、結季ちゃんみたいにきゃあ、と叫ぶのも、真咲ちゃんみたいにうおお、と雄叫びを上げるのも、多分私には似合わない気がする。


「私は、これでいいんだよ」


「楽しいならいいけどな」


「うん。もう一回行こう」


 たった数十秒の体験。一回二回で終えてしまうのは勿体ない。


 思ったより体力を消耗するようで、三回目を滑り終えてから結季ちゃんがちょっと休むと離脱したけれど、真咲ちゃんはそれから一回。私は二回、更に滑った。



−−−



 列に並ぶ。滑る。着水。上がる。


「んふふ」


「相変わらずシュールだな……そろそろ休憩にしようぜ」


 確かに、そろそろ疲れてきたかもしれない。もう一時間以上は遊んでいる。


「あれ、結季ちゃんは?」


「場所取りしてくれてる」


 プールから上がり休憩スペースへ向かうと、テーブルと椅子を結季ちゃんが取っていてくれていた。


 ビーチボールの管理もお願いしちゃって申し訳ないなと思うけれど、当の結季ちゃんはあまり気にしていなさそうだ。


「二人も買ってくる?」


 私達が合流すると、抹茶ソフトを舐めながらそう言う結季ちゃん。ずるい。


「買ってくる。真咲ちゃんは何がいい?」


「いいのか? じゃあチョコで」


 そのまま売店へ直行し、チョコレートソフトとバニラソフトを注文する。両手に持って戻ったときには、真咲ちゃんはテーブルに突っ伏してすっかり伸びてしまっていた。


「ただいま。真咲ちゃん、お疲れ?」


「ちょっとな。でもいい気分転換になるよ。部活と劇の練習ばっかだからな」


「最近、結構型にはまってきたよね、真咲ちゃんの演技」


 私はバイトもあるのでそんなに多く行けてないのだけど、私より多く見ているであろう結季ちゃんがそう言うなら、きっとそうなのだろう。次に見学に行く日が楽しみだ。


「あたしが上達するより、あたしの性格に合わせて相沢が調整してくれてるのがでかいけどな。あいつ、当て書き上手いっぽいし」


 それはちょっとわかる。何度か見ていた感じだと、演者に合わせてキャラクターを練り上げ、それに物語を沿わせようとしているような印象を受けた。


 きっと台本が完成する頃には、真咲ちゃんらしい体育教師が出来上がっているだろう。


「真咲ちゃんがお疲れなら、休憩終わったらしばらく流水プールでのんびり流されようか」


 私がそう言うと、二人も了承してくれた。元々その予定ではあったけれど、その後またウォータースライダーやビーチボールでの遊びに移行することは、もうしないという意味も込めて。


 十分楽しめたし、真咲ちゃんには数少ない休日だ。ゆっくりして終わるのもいいだろう。


「じゃあ、ビーチボールはもうロッカーに仕舞っちゃうね」


「悪いな、結季」


「流水プールなら、浮き輪も持ってくれば良かったね」


「荷物かさばるから、持ってこれなかったね……次のときは、考えてみようか」


 結季ちゃんの言う次という言葉に期待してしまう。今年は難しいかも知れないけれど、また来れるなら。その時は、水着もちゃんと買わないとな。


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