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どうも、前世で殺戮の魔道具を作っていた子爵令嬢です。※Web版  作者: 優木凛々
おまけ2

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【発売記念SS】薬師ココ、犬を拾う(※Web版)①


コミック2巻と、明日5月30日発売の『ブチ切れた公爵令嬢、勢いで悪魔を召喚してしまう』の発売を記念しまして、SSを投稿します!


時系列的には、辺境の街サイファで、クロエが薬屋ココを経営しているあたりです。


それは、埃っぽい風が吹く春の終わりの午後のことだった。



「あれ? ない……」



薬屋の作業場で薬を作っていたクロエは、空の薬瓶がないことに気が付いた。

どうやら切れていたのを忘れていたらしい。



「せっかく作っても入れる瓶がないとダメよね」



彼女は大きなエプロンを外した。

帽子を被って外に出る準備をする。


そして、裏庭に出て、木戸を開けて狭い路地に出て――、



「あら?」



彼女は、路地の隅に一匹の犬が寝そべっているのを見つけた。



(こんなところに犬なんて、はじめて見たわ)



クロエは少し離れたところにしゃがみこんで犬をながめた。


実は彼女、割と犬が好きである。

7歳の時に起こした「ぬいぐるみ騒動」の際に、よりリアルな動きを追求するために近所の犬を観察したことがあるからだ。

四つ足歩行について理解を深められたのは犬のお陰と言っても過言ではない。


目の前にいる犬は、茶色い中型犬で、耳がぺたんとたれている。


クロエの視線に気が付いたのか、犬は薄目を開けてチラリとクロエを見た。

すぐに興味がなさそうに目を閉じる。



(昼寝っぽいわね)



クロエは立ち上がった。

今日は暑いから涼しい路地裏で寝ているのかもしれない。


そして、犬に「じゃあね」と手を振ると、冒険者ギルドに向かって歩きはじめた。


ギルドの受付嬢に「瓶を下さい!」とお願いして瓶をもらい、ついでに商店に寄って水を買う。


そして、よろよろと瓶と水を抱えて薬屋に到着すると、



「あれ、まだいる」



クロエはまだ犬が寝ていることに気が付いた。

結構時間たったわよね、と思いながら、再び犬の前にしゃがみ込む。


犬は目を開けると、クロエの持っていた水の匂いを嗅いだ。

クンクンと哀れっぽく鼻を鳴らしながら、クロエを見上げる。



「もしかして、喉が渇いているの?」



犬の切羽詰まった様子を見て、クロエは犬を裏庭に入れた。

作業場から水を入れた平皿を持ってきて地面に置くと、犬は夢中で水を飲み始める。


クロエは犬のそばにしゃがみこんだ。



(随分と痩せているわね)



汚れた感じの茶色い毛で、長い毛の下に首輪のようなものが見える。

賢そうな感じのする犬で、飲み終わったお皿を前足でカタカタ鳴らしてつぶらな瞳でクロエを見上げる。



(ふうん、やるわね、この犬)



そしてもう一杯追加で水をあげて、犬が水を飲む様子をながめながら、舌で水を効率よく飲む仕組みについて考えていると、



「あれ? ココさん! 犬?」



隣りの『虎の尾亭』のウエイトレス、チェルシーがやってきた。

どうやら木戸が開いたままだったので、気になってきてくれたらしい。



「首輪があるんで、なんか迷い犬っぽいんですけど、こういう場合ってどうするんですか?」

「見つけた人が預かって衛兵詰め所に届けを出すか、あとは詰め所に直接連れて行くのが一般的ね」



「そうなんだ」とつぶやくクロエ。

一生懸命水を飲む犬を見ながら、詰め所に連れていくより、ここで預かった方が良いような気がすると何となく考える。



「分かりました。うちでしばらく預かってみようと思います」

「大丈夫?」

「はい、近所で犬を飼っていたので、犬の動きとかは何となく分かりますし」



犬の動きが分かるって何だろう、と言いたげな表情をしながら、チェルシーがうなずいた。



「わかったわ! じゃあ、私が衛兵詰め所に寄って、ココさんが茶色い犬を拾ったことを伝くわね!――それと、ここだけの話なんだけど」



チェルシーが声のトーンを落とした。



「隣町で未知の病気が見つかったかもしれないんですって」

「未知の病気?」



彼女の話によると、地下洞窟では稀に未知の病原菌が見つかることがあるらしく、前回は5年前で、体中に蕁麻疹が出るというものだったらしい。



「前回は命に別条がないものだったから良かったけど、15年前のものは人が多く亡くなる伝染病だったんだって」



クロエは眉を顰めた。

前世で未知の伝染病が流行り大変なことになったのを思い出す。



「その病気は、どのような症状が出るのですか」

「高熱が出て風邪と似たような症状が出て、体中が真っ赤になるんだって」



ココさんも気を付けてね! と言ってチェルシーが去って行く。



クロエは再びしゃがみ込んで犬の顔を覗き込んだ。


犬は気が済むまで水を飲んだせいか、満足げな顔をしている。

しつけが良いのか、吠えたり動き回ったりせず大人しく座っている。


クロエは考え込んだ。なんとなく勢いで犬を拾ったが、これからどうするべきだろうか。



(まずはご飯かしらね)



彼女は作業室に戻って、昼食べた肉の残りを持ってきた。

お皿の上に置いて「どうぞ」と犬の前に置く。


喜んで食べると思いきや、犬は興味が無さそうにチラリと肉を見た。

水が入っていたお皿に前足をかけてカタカタと鳴らし始める。



(え、もっと水が欲しいってこと?)



水を入れてやると、嬉しそうに飲み始める。


その姿をながめながらクロエは思案に暮れた。

もしかして水が好きな犬なのかもしれない。



(まあ、犬とはいえ、食べ物の好みは無理強いできないわよね)



その後、クロエは軒先に古いクッションとタオルを持ってきた。

簡易の寝床を作成する。


そして、「お腹が空いたら食べるのよ」と言って食べ物と水が入った皿をその前に置くと、作業室へと戻っていった。





クロエが犬を拾った、ちょうどその頃。


冒険者ギルドでは、深刻な話し合いがされていた。

なんと、新たな伝染病にかかった冒険者が、サイファの街でも出てしまったのだ。



(続く)



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