【コミカライズ1巻発売! 記念SS】クロエ、ぬいぐるみ目覚ましを作る(1/4)
本日10月17日に発売されるコミカライズ1巻、発売記念SSです!(全4話)
今回は、Web版目次『第二部 07.楽しい夕食』の少し後くらい、
クロエは辺境の街サイファで『薬屋ココ』という店をやっており、店の2階に住んでいます。
オスカーは数日前に来ました。
「ふうむ……」
とある春の夜。
クロエが経営する『薬屋ココ』の隣にある、定食屋『虎の尾亭』にて。
カウンター席に座ったクロエが、難しい顔で考え事をしていた。
「どうした?」
「どしたの? ココさん?」
クロエの隣に座っていたオスカーと、
カウンター越しにカクテルを作っていた、オレンジ色の髪をツインテールにした元気の良さそうな娘――冒険者出身の看板娘チェルシーが、不思議そうな顔をする。
クロエは頬杖をつきながら、ため息をついた。
「何で、朝起きられないんだろうって思って」
クロエが経営する『薬屋ココ』は、日の出の少し前に開店することになっており、
今の時期だと、開店時間は朝の5時半だ。
クロエの作る薬は超高品質な上に低価格のため
開店の30分前から、店の前に冒険者の行列ができるのだが……
「たくっ! また寝てやがる!」
開店時間になってもクロエが寝ているため、店が時間通り開いた試しがない。
という訳で、
ドンドンドン!
「起きろ! 薬屋! 時間だ!」
毎朝冒険者たちに叩き起こされる羽目になり、それが街の風物詩になってしまっているのだ。
「……これって、やっぱり良くないと思うんだよね」
深刻な顔でそう言うクロエに、チェルシーが心底驚いたように目を見張った。
「えええ! ココさん、気にしてたの!? てっきり開き直って、お客さんを目覚まし代わりに使っているのかと思ってた!」
クロエがバツが悪そうに目を逸らした。
「……うん、まあ、そういう面もあるけど、一応ちゃんと起きなきゃと思ってはいるんだよね」
そんな2人の会話を聞いて、オスカーが、「クロエらしいな」と苦笑いする。
そして、ふと思いついたように尋ねた。
「しかし、前はどうしていたんだ? 普通に起きられていたんじゃないのか?」
「前」って学園に通っている時のことよね、と思いながらクロエが答えた。
「前は強力な目覚ましがあったから」
強力な目覚ましとは、クロエが作ったぬいぐるみ型の魔道具だ。
こちらの世界に転生してから初めて作った魔道具で、
最初はただ手足をバタつかせるだけだったが、改造に改造を加え、朝クロエを起こしてくれるまでに成長を遂げていた。
「でも、こっちに来るとき、置いてきちゃったんだよね……」
本当は持ってきたかったのだが、
隣国に亡命するのに、ぬいぐるみを持っていく訳にもいかず、泣く泣く置いてきたのだ。
「あれがあれば、絶対に寝坊なんてしないんだけどな~」
そうボヤくクロエに、チェルシーが不思議そうな顔をした。
「あのさ、その目覚ましって、大きな街とかに売ってないの?」
「え?」
「それがあれば寝坊しないなら、また買えばいいんじゃない?」
なるほど! とクロエは、ポンと手を叩いた。
買うのは無理だが、作ればいいんだ!
感心した顔をするクロエに、チェルシーが苦笑いした。
「……ココさんって、頭がいいんだか悪いんだかよく分かんないね」
「ああ、俺もたまに分からなくなる時がある」
オスカーも苦笑いしながら同意する。
そんな2人の前で、クロエがぶつぶつと呟き始めた。
祖国に置いてきた、ぬいぐるみたちの弟分を作るべく、思案に暮れる。
そんなクロエを微笑ましそうにながめながら、オスカーが会計を済ませた。
考え事をするクロエを連れて店を出ると、薬屋の裏まで送る。
そして、「今日は早く寝るんだぞ」と頭をぽんぽんと撫でると、手を振りながら帰っていった。
(参考)コミック1巻より、初代動くぬいぐるみたち
本日10月17日にコミカライズ1巻が発売になります!
書影は ↓ で、とても鮮やかで可愛い感じになっております!
ぜひお手にとって頂けると嬉しいです!




