【書籍2巻発売!記念SS】クロエ、お礼に魔道具を作る②
本日1月25日発売! 書籍2巻発売SS②を投稿します。
夜中に厨房で幽霊騒ぎが起きた翌日からです。
翌日のお茶の時間。
憂鬱な顔のコンスタンスが、ティールームでお茶を飲んでいた。
(嫌だわ……。この屋敷で幽霊騒ぎなんて)
前日の深夜、彼女は、男女の悲鳴で目を覚ました。
飛び起きて1階に行くと、既に剣を持ったオスカーがおり、震える従僕と料理人の女性から話を聞いていた。
「み、見たんです! あれは幽霊でした!」
「何もしていないのにランプが勝手に消えたんだよ!」
その場に集まった者で1階の見回りをするものの、特に変わった様子はなく。
ゴタゴタしている間に夜が明け、オスカーの出掛ける時間になってしまった。
(お兄様も今日は早く帰ってくるみたいだし、今まで特に何もないから大丈夫だと思うけど……)
コンスタンスがため息をつく。
ちなみに、クロエは昨夜の騒ぎにも全く起きずに眠っていたようで、
今朝、特に何か言うこともなく、眠そうに朝食を食べて、「もう少し寝る」と、すぐに部屋に籠ってしまった。
(クロエが起きて来たら、一応教えておかないとね)
クロエは目に見えない物は信じないタイプだ。
多分幽霊が出たと言っても興味なさげに「ふうん」と言って終わるだろう。
でも、館内も浮足立っているし、一応話しておいた方が良い。
そんなことを考えていると、クロエがティールームに入って来た。
心なしか頬が紅潮し、目がキラキラと輝いているように見える。
コンスタンスは、首をかしげながら、正面に座るクロエを見た。
ずいぶんと機嫌が良さそうだ。
「クロエ、あなた今日はずいぶんとご機嫌ね」
クロエが、待ってましたとばかりに口を開いた。
「ええ、実はね、いいものが完成したの」
「いいもの? って、作っていた魔道具?」
「ええ、セドリック様へのお礼よ」
聞けば、セドリックへのお礼の気持ちを表すために、ここ最近部屋にこもっていたらしい。
「そう」と言いながら、コンスタンスは軽く目を細めた。
何だかとても嫌な予感がする。
そして、覚悟を決めて「何を作っていたの?」と尋ねると、クロエがポケットから何かを取り出した。
「これよ」
身を乗り出して、差し出されたそれを見て、コンスタンスは目をぱちくりさせた。
差し出されたのは、ややグレーがかった白色の、何の変哲もない一枚のハンカチのようなものだった。
あら、意外に普通だわ、と思いながら、コンスタンスが尋ねた。
「いい色ね。これはハンカチかしら?」
「ええ、そうよ、一見ハンカチよ」
「一見」
クロエが嬉しそうにハンカチを両手でつまんだ。
「でもね、こうしてこうすると……」
ハンカチがどんどん広がり、マントほどの大きさになる。
そして、クロエはそれを身に纏ったのを見て、コンスタンスは思わず叫びそうになった。
「クロエ! あなた! それ!」
布で覆われた部分が消え、床や後ろが見える。
まるで、布に覆われた部分が透明になったかのようだ。
クロエが得意げにコンスタンスを見た。
「じゃーん、何と、透明マントよ!」
「……透明マント」
にこにこと嬉しそうに笑うクロエを見ながら、コンスタンスは思った。
なるほど、昨日の幽霊騒ぎの元凶はクロエね、と。
そして、思った。
この子、とんでもないもの作ったわ、と。
動くぬいぐるみや、軽く爆発する玉など、
クロエは今までも、割とシャレにならないものを作ってきた。
しかし、今回はそんなの霞むくらいシャレにならない。
透明になるマントなんて、善良さには自信のあるコンスタンスですら悪用しか思いつかない。
しかも、王位継承者にこんなの送り付けたら
「お前のことなど、簡単に暗殺できるぜ」という意思表示になりかねない。
(ど、どうしましょう。これは私の手に負える代物ではないわ)
コンスタンスが青くなってうろたえていた、そのとき。
ヒヒーンという馬の嘶く声が外から聞こえて来た。
オスカーが帰って来たと告げる声がする。
コンスタンスは、「ちょっと待ってて」と言うと、廊下に出た。
廊下で控えているメイドに、オスカーを連れてくるように言うと、誰も部屋に入れるなと念入りに言う。
そして、オスカーが現れると、クロエに向き直った。
「クロエ、お兄様にも見せてあげて」
「いいわよ」
コンスタンスに見せた時と、全く同じことを、ドヤ顔でやるクロエ。
オスカーが感心したような顔をした。
「ほう、すごいな」
コンスタンスは、そっと兄の横顔を見上げた。
顔は笑っているが、目が全く笑っていない。
こいつヤベーもん作りやがった。
そんな雰囲気だ。
しかし、そんな風に考えているなどおくびにも出さず、
オスカーが、にっこり笑った。
「そのマントは、他に何かできるのか?」
「そうですね……。まあ、小さくたたんでしまえる感じなのと、透明になること以外、特に用途はないですね」
「見かけがハンカチでポケットにしまえて、透明になれるのか。なるほど。なかなかに凶悪だな」
「いえいえ、安全そのものですよ。単なる布ですし」
クロエがため息をついた。
「……でもこれ、1つ欠点があるんです」
「欠点?」
「はい、昼間ちょっと効果が落ちるんです」
クロエ曰く、昼間は透明化効果が低くなるらしい。
オスカーが、考えながら口を開いた。
「なるほど、セドリックは昼間出掛けたいだろうから、それは良くないかもしれないな」
「そうですよね! 分かりました! 今すぐ改善します!」
今にも走りだしそうなクロエを、オスカーが引き留めた。
「それでなんだが、実は、1つクロエに相談があるんだ」
「相談、ですか?」
「ああ、相談というかお願いなんだが、それをセドリックに渡すのは遠慮してもらえないかと思っているんだ」
クロエが目をぱちくりさせた。
「どうしてですか?」
「今、セドリックに仕事を抜け出されると、副団長である私の仕事が忙しくなってしまうんだ」
クロエが、ふうむ、という顔をした。
「なるほど……。それはいけないですね」
「ああ。それで、物は相談なんだが、それを私に譲ってくれないか? 私も実は抜け出すことが大変になってきていて、困っているんだ」
「いいんですか? 昼間はイマイチですよ?」
オスカーが爽やかにうなずいた。
「ああ、私は夜抜け出すつもりだから大丈夫だ」
「なるほど。それなら今のままでも差し支えないですね」
そんな二人の会話を聞きながら、コンスタンスは思った。
お兄様、随分クロエの扱いが上手くなったわね、と。
その後、マントは、オスカーによって有難く貰い受けられ、ソリティド公爵家の地下金庫室の奥底の、更に奥底に、厳重に仕舞い込まれたという。
めでたしめでたし?
ちなみに、セドリックへのお礼はコンスタンスが代わりにすることになったそうです。
さて、本日1月25日、2巻発売しました!
2巻はWeb版の第2章途中~最後までの内容+5万字ほど加筆しており、加筆ポイントは主に下記3点になります。
1.クロエ、サイファの街でオスカーと一緒に魔道具開発&分析作業をする
→絡みがもッと見たいー!という感想をたくさん頂きまして、大幅増量に踏み切りました!
2.オスカーがお気持ち表明
→あんまり言うとアレですが、つまりそういうことです♡
これも感想でたくさん頂きまして、彼にがんばって頂きました!
3.クロエ、魔道具のとんでも改造をする
→やはり彼女はこうでなくては!
ぜひお手にとって頂ければと思います。 ̗̀ ( ˶'ᵕ'˶) ̖́-
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