【書籍1巻発売!記念SS】クロエ、部屋を監視する②
昨日の①の続きです。
その後、画像の中で、女子生徒がドアを開け閉めするシーンが、5回ほど続く。
「なかなか犯人が現れませんね」
「そうだな。もうすぐ被害の日だと思うのだが……」
机の上の黒い板をながめながら、ヒソヒソと会話をする3人。
そして、7回目。
とうとう女子生徒ではない人物が画面に映った。
「来ましたね!」
「ああ、誰だ!」
思わず身を乗り出す3人。
そして、その人物の顔を見て、
「「…………は?」」
呆気にとられた顔をした。
映ったのは、1人の眼鏡をかけた男子生徒。
見つかるのを恐れるようにキョロキョロしている。
クロエは眉を顰めた。
(……え、誰? てか、ここって女子寮よね?)
これはどういうことかと教師たちに目をやると、驚き固まっていたアネストが、ゆっくりと口を開いた。
「これは……、私の記憶違いでなければ、ミカエル・ビシャス侯爵令息だな」
「え、ええ、間違いないと思いますわ」
「あの、男子って入っていいんですか?」
「護衛として男性が入る場合もあるから、禁止事項ではないが……」
茫然と固まる教師2人の目の前で、男子生徒が部屋に招き入れられ、画像が切れる。
そして、しばらく被害女子生徒の出入りが続き……。
10回目、再び女子生徒以外の人物が画像に映った。
「……また男子生徒ですね」
「ああ、これは誰だ?」
「生徒会の書記を務めている、カンダリー・バーナー伯爵子息ですわね」
その後も、見覚えのある男子生徒が日替わりで、女子生徒の部屋を訪れては帰っていく。
クロエはノートに
『10日目(夜) ミカエル・ビシャス侯爵令息 入室』
と書き込むと、今まで書いた一覧を見つめた。
(不審な侵入者がいないわね)
男子生徒が不審者と言えば不審者だが、皆身分の高い上位貴族ばかり。
女子生徒の部屋に、わざわざ自ら侵入して、ノートをビリビリに破る動機があるとは思えない。
(犯人は一体誰なのかしら……)
クロエがノートをながめながら、思案に暮れていた、そのとき。
「……っ!!!!!」
突然、教師2人が息を呑むと、叫ぶような声を上げた。
「こ、これは、でんk!」
「な、なろうо!」
(訳:「これは、殿下!」「ナロウ王子!」)
あまりに大きな声に、肩をビクリとさせるクロエ。
何事かと記録玉を見ようと顔を上げると、
(え?)
なぜか記録玉の前に、アネストが立ちふさがっていた。
背に記録玉を隠している。
クロエは首をかしげた。
「あの、見えないんですけど」
「あ、ああ、そうだな、見えないな、見えないな! はっはっは」
アネストが、余裕がなさそうに笑う。
その横で、同じように余裕なく笑う女性教師。
そして、クロエが「お2人とも、何か叫びませんでしたか?」と問うと、2人は引きつった笑いを浮かべながら、両手を振り回した。
「ああ、そうだな。私は『玄関!』って叫んだな」
「玄関?」
「ああ、ドアを開けると玄関だろう?」
「わ、私は、ナロースカートが可愛いって言ったわ!」
「ナロースカート?」
「ええ、ほっそりしたタイプのスカートよ、ほほほ」
何かよく分からないわと、首をかしげるクロエ。
そんな彼女の前で、教師2人が深刻な顔で話し始めた。
「……どうしましょうか、これ?」
「どうするも、こうするも、犯人はこの中にいる誰かということだろう」
「ナ……、ではなく、例の方も容疑者に入れるんですか?」
「……まあ、そうせざるを得ないだろうな……」
「これ、一大事ですよね……」
げんなりとした顔する2人の横で、クロエがノートを見返す。
そして、気になっていることを確認し終わり、顔を上げた。
「あの、犯人はこの中にはいないと思います」
「……どういうことだ?」
「確か、『不在の間にドレスがビリビリに破られた』っていう被害届があったんですよね?」
「ああ、そうだ」
「今までのところ、訪問者は全員、被害者が部屋にいる時に来ています。あと、被害者が不在の時には、誰も部屋に入っていません」
教師2人が首をかしげた。
「どういうことだ?」
「さあ……。でも、事実として、不在の時に誰も来ていないので、破損があったとするならば、在室の時ではないかと」
教師たちが眉間に皺を寄せた。
「在室だったら、さすがにドレスをビリビリに破られたら気が付くだろう」
「ええ、私もそう思いますわ、布を割く音って、結構派手ですものね」
「でも、本人は不在の時に破損されたと言っている」
「……分からないな」
「ええ、分かりませんわね……」
その後、3人は相談。
『この件については、学校預かりとするので、絶対に他言無用。証拠だけ取っておいて、調査は一旦打ち切りにする』
ということになった。
クロエは思った。
犯人が見つからないのに調査の打ち切りなんて、何だかスッキリしない終わり方だわ、と。
(でも、魔道具が活躍したし、新しい活用方法も見つけられたし、まあ、いいか)
この後は魔道具も関係なさそうだし、と、この件を忘れることにする。
ちなみに、この2か月後の卒業パーティにて。
コンスタンスとオスカーを助けるため、クロエはこの事実を全校生徒の前でぶちまけるのだが、それはまた別の話(本編第1章7)である。
おしまい
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