【書籍1巻発売! 記念SS】クロエ、誕生日プレゼントを作る
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書籍1巻発売、記念SSです。
話は、第1章の『04.婚約破棄に介入するに至るまで(3)』あたりです。
貴族学園2年生になった、ある日。
クロエは、ふと思い出した。
「そういえば、そろそろコンスタンスの誕生日だわ」
去年の誕生日は、街に行って悩みに悩んだ末、高めのハンカチを贈って、大層喜ばれた。
今年もぜひ喜ばれる物を贈りたい。
「……でも、コンスタンスって何でも持っているのよね」
古代魔道具を見せてもらうために、ソリティド公爵邸に通うようになって、クロエは、コンスタンスが何でも持っていることに気が付いた。
ペンも高そうなのを持っているし、服もリボンもハンカチもたくさん持っている。
「うーん、何にしよう……」
考えた挙句、クロエはコンスタンスの兄であるオスカーに相談することにした。
兄の彼であれば、コンスタンスが喜ぶものを知っているだろう。
という訳で、公爵邸に遊びに行って、学園に送ってもらう馬車の中で、クロエはオスカーに尋ねた。
「コンスタンスがもらって喜ぶものって何だと思いますか?」
「もしかして、誕生日プレゼントを考えているのか?」
「はい、内緒ですけど、そうです」
なるほど、とオスカーが考え込んだ。
「……少し前は扇子を欲しがっていたが、恐らくナロウ殿下から贈られるだろうな」
「あの王子様、プレゼントとかするんですか?」
「ああ。まあ、王宮の誰かが選んでいるのだろうとは思うが」
そして、彼は、そういえばという顔をした。
「コンスタンスは、ぬいぐるみが好きだな。小さい頃から集めているし、今でも部屋に飾って可愛がっているし、もらったら必ず喜んでいる」
なるほど、とクロエは思った。
ぬいぐるみだったら誕生日プレゼントにピッタリだ。
「オスカー様、ありがとうございます。いい感じのぬいぐるみを探してみます」
「ありがとう。俺も楽しみにしている」
クロエの心は浮き立った。
これは良いプレゼントができそうだ。
しかし。
「え、こんなにいっぱいあるの?」
その翌週、コンスタンスの部屋に入れてもらったところ、部屋には溢れんばかりのぬいぐるみが置いてあった。
「ふふ、可愛いでしょう。集めているの」
ぬいぐるみを愛おしそうにながめるコンスタンス。
それを見て、クロエは思った。
なるほど、コンスタンスは本当にぬいぐるみが好きなのね、と。
となると、プレゼントに選ぶのは正解だと思うのだが……。
(ここまで数があると、被ってしまいそうな気がするわ)
うさぎも猫もくまも、ありとあらゆる、ぬいぐるみがあり、無いものが思い当らない。
(せっかくプレゼントするのだから、被らない物がいいわよね)
そう思って、オスカーに頼み込んで、メイドさんが作ったという「コンスタンスのぬいぐるみ一覧」をもらったのだが
「残念ですが、当店にあるものと類似したものを全てお持ちのようです」
王都で一番大きいぬいぐるみ店でそう言われ、クロエはがっくりと肩を落とした。
さすがは公爵家というべきか、どうやら店に置いてある、ぬいぐるみを全て持っているらしい。
落胆するクロエに、女性店員が提案した。
「オーダーメイドは如何でしょうか。3カ月ほどお時間はかかりますが、オリジナリティが出ますよ」
「3カ月ですか……」
クロエは項垂れた。
オリジナリティが出るのは嬉しいが、誕生日は来月だ。
そう伝えると、店員が「では」と封筒を出してきた。
「ご自分で作ってみるというのはどうでしょう?」
「自分で?」
「はい。ここに型紙と作り方が入っておりますので、布をご自身で選んで作るのです。ご自分で作ってあげる方、結構いらっしゃいますよ」
クロエは目を輝かせた。
「なるほど、それだわ!」
その日、材料を買って帰ったクロエは、毎日夜遅くまで、ぬいぐるみ作りに取り組んだ。
*
コンスタンスの誕生日の翌日。
公爵邸を訪れたクロエは、ティールームのテーブルの上に、リボンのかかった大きな箱を、ドスンと置いた。
「コンスタンス、お誕生日おめでとう。これ、プレゼント」
コンスタンスが嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。開けていいかしら?」
「もちろんよ」
クロエの目の前で、コンスタンスが楽しそうに箱を開け始めた。
リボンを解いて、蓋を開け、
「まあ! かわいい!」
彼女は嬉しそうに両手を合わせた。
中に入っていたのは、白い布地でできた、抱えられるほどの大きさのクマのぬいぐるみ。
目は綺麗な赤で、赤いリボンを付けている。
「白いクマのぬいぐるみなんて見たことがないわ。赤い目も珍しいわね。どこで買ったの?」
クロエが得意げに胸を張った。
「作ったの」
「え、クロエが?」
「お店でキットが売っていたから、布を選んで作ってみたの」
コンスタンスは、感心して箱の中に座っているクマのぬいぐるみをながめた。
確かに縫い目がちょっと歪んでいる気がするが、言われなければ気が付かないレベルだ。
(クロエって、意外と器用よね。それに、センスもいい)
コンスタンスは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう。クロエ、とても可愛いわ」
そして、箱から出そうと、ぬいぐるみを持ち上げようとして
「……え?」
彼女は、ピシリと固まった。
ひょいと持ち上げるつもりが、思いの外ズシリと重く、簡単に持ち上がらない。
コンスタンスは、友人に戸惑いの目を向けた。
「……クロエ、何だかこのぬいぐるみ、重い気がするのだけど」
「うん、色々と仕掛けが入っているから」
「仕掛け」
「ほら、わたし、魔道具師でしょ。魔道具師にしか作れないぬいぐるみを作ろうと思って」
コンスタンスは、箱の中のぬいぐるみをながめた。
魔道具師にしか作れないぬいぐるみって一体何なのだろうか。
とても嫌な予感がする。
そして、クロエに「とりあえず箱から出してみて」と促され、恐る恐るぬいぐるみを箱から取り出すと、それは赤い目がどこかクロエに似た、可愛らしいクマだった。
(ふふ、愛嬌があって可愛いわね)
ちなみに、重さは辞典3冊分くらい。
ぬいぐるみではありえない重さだ。
(……一体どんな仕掛けが入っているのかしら)
不安になるコンスタンスを他所に、クロエは、ぬいぐるみを机の上に座らせると、「見ててね」と両手を三回打ち合わせた。
パチパチパチ
乾いた音が部屋に響き渡る。
――そして、次の瞬間。
「……っ!」
ギシギシギシ、という音を立てて、ぬいぐるみが立ち上がった。
ぬいぐるみの、まさかの動きに目を見張るコンスタンス。
驚愕する彼女の目の前で、目を赤く光らせたぬいぐるみが、ガシン、ガシン、と不気味な音を立てて歩き始めた。
「……ひっ!」
コンスタンスは思わず叫びそうになって両手で口をふさいだ。
まさかの光景に身が凍る。
ぬいぐるみのあり得ない動きをながめながら、クロエが得意げに胸を張った。
「ね、なかなかいいでしょう。手を3回叩くと動いて、3回叩くと止まるの」
コンスタンスは、胸を押さえながら、何とか「……そ、そうね」という言葉を絞り出した。
予想外過ぎる光景に、心臓がばくばく言っている。
クロエが、愛おしそうに ぬいぐるみの頭を撫でた。
「お勧めは、夜に使うことね。手を叩くだけで光が付くなんて画期的だし、廊下を歩く時に、先に歩かせたら転ばなくて済むわ」
「そ、そうかもしれないわね」
夜にこのぬいぐるみと廊下を歩いていたら、絶対に大騒ぎになるわと考えながら、コンスタンスは思った。
なぜそれをクマのぬいぐるみでやろうと思ったのか。
ランプでもいいじゃないか。
(……でも、クロエが一生懸命作ってくれたんですもの。感謝しないと)
公爵令嬢であり、ナロウ王子の婚約者であるコンスタンスのところには、色々な贈り物が届く。
家族からのもの以外は、打算に満ちたものばかりだ。
そうした中、クロエの何の打算もない、心の籠ったプレゼントは、例えどんなに常軌を逸していても、コンスタンスにとっては非常に嬉しいものだった。
色々突っ込みたいことはあるものの、それらを全てのみ込んで、コンスタンスはにっこりと微笑んだ。
「ありがとう、クロエ、大切にするわ」
その日の夜、コンスタンスは、恐る恐る動くぬいぐるみを棚の上に置いた。
正直ちょっと怖いが、手を叩かなければ動かないし、見た目はなかなか可愛い。
しかも、クロエが手作りしたのだから、飾らない訳にはいかない。
そして、ぬいぐるみと過ごすこと1週間。
「……意外と便利ね」
コンスタンスは、ぬいぐるみを、なかなか便利だと思い始めた。
夜起きて明かりを点けようとすると、まずランプを手探りで探し当てて、魔力を適量通して点灯し、明るさを調節する必要がある。
しかし、クマの場合は、手を3回叩けば適度に明るくしてくれるのだ。
正直、クマのぬいぐるみではない方が使いやすいとは思うが、かなり便利だ。
(クロエにお礼を言わないと。かなり画期的だわ、この魔道具)
しかし、問題が起こった。
ある雨の日の午後。メイドが掃除の時に、部屋に入った虫を追い払うために、手を3回叩いてしまったのだ。
「ギャー!!!!!」
目を赤く光らせて動き出すぬいぐるみに、メイドが悲鳴を上げて腰を抜かす。
駆け付けたオスカーが、何が起こったかを察して笑い出した。
「何ともクロエらしい贈り物だな」
この騒動の後、コンスタンスはクロエと相談。
手を3回叩いたら目だけ光るように変更してもらい、ありがたく夜の灯りとして使い続けることになった。
そして、この3カ月後、光るぬいぐるみ2号がオスカーの部屋にも導入され、
3年後には「踊って光るぬいぐるみ」として、子どもなら誰でも欲しがる大人気商品になったという。
皆様のお陰で、2023年9月25日にKADOKAWAメディアワークス文庫から書籍が発売されました!
こちらですが、めっちゃ加筆しています。
量にして約倍。Web版ですでに読んだ方でも、読む価値があると胸を張って言える超加筆です。
特に加筆しているのが、下記2点です。
・薬師ココがサイファの街で活躍!?するところ
・オスカーがんばる!(Web版×2倍!)
新たな登場人物も加わるなど、盛りだくさん!
ぜひお手にとって頂ければと思います。(*'▽'*)
詳細情報は↓↓(スクロールかなり下)をご覧ください。




