10.事の顛末
本日7話目です。
後日、王宮にて。
ライリューゲ子爵とプリシラ、ナロウ王子やその取り巻き、主治医など、事件に関わった者たちに対して、厳しい取り調べが行われた。
ナロウ王子や主治医などの洗脳を受けて犯行に及んだ者たちは、ショックのあまり話ができる状態ではなく、プリシラに至っては泣くわ喚くわの錯乱状態。
唯一まともにしゃべれたライリューゲ子爵は、自らを
『千年前にこの大陸を支配していたリエルガ帝国の帝室の末裔』
と名乗った。
ライリューゲ家には、代々伝わる『本』が存在。
その本により、彼は自分たちがリエルガ帝国の王族であることと、どこかに強力な武器(魔道具)を隠してあることを知ったらしい。
子爵は、その記述を信じ、長い時間かけて領地を探索。
大山脈の麓に頑丈な石室を発見した。
石室の中には、たくさんの見たこともない魔道具が置いてあり、その中で、唯一動く魔道具が、例の魔道具だったという。
「本により、私はそれが洗脳のための魔道具だと知った」
本には、魔道具から発せられた波動を浴びた者は、魔力登録した人間の言うことを何でも信じるようになる、と書いてあった。
当時は植民地支配のための魔道具として使っていたらしい。
子爵は、それを王都のティーサロンの中に運び込ませ、娘と協力してナロウ王子とその取り巻きを洗脳。
プリシラとナロウ王子が婚約した後は、城の地下にその魔道具を持ち込み、城全体の洗脳を始めた。
誰もが子爵とプリシラに傾倒し、彼らの言うことを全て信じるようになった。
残念ながら、国王は洗脳が効きにくかったため、主治医に毒を盛らせてジワジワと弱らせ、病気に見せかけて殺そうと企んだ。
彼はこう考えていたそうだ。
「国王が死んで、ナロウ王子が即位すれば、この国は私のものだ」と。
誤算だったのは、魔道具から発せられた波動が、水分に微妙な影響を与えること。
それをセドリックに勘づかれたお陰で、クロエに調べられ、事件が発覚してしまった。
この話を聞いたライリューゲ子爵はこう言ったという。
「私には、運がなかったのだ」
――その後、裁判が行われ、それぞれの処分が決まった。
ライリューゲ子爵は極刑。
娘のプリシラは鉱山に送られ、一族は財産没収の末、爵位はく奪となった。
ナロウ王子とその側近たち、主治医などの洗脳を受けた者たちへの処分については、
「洗脳されていたので、仕方なかったのではないか」
「どんな状況であろうと、やっていいことと悪いことがある」
など、様々な意見が出て、揉めに揉めたが、
「情状酌量の余地はあるが、なにも罰しないという訳にはいかない」
ということになり、辺境の砦に送られ、国境線の防衛などにあたることになった。
働きと反省が認められれば戻って来られるが、元の通りとはならないだろう。
そして、それぞれの刑が執行され、
ようやくこの前代未聞の洗脳事件は、終わりを告げたのであった。
*
――お披露目会の約七カ月後。
春の日差しが暖かな、よく晴れた午後。
ソリディド公爵家の明るいティーサロンにて、セドリックとコンスタンスがお茶を飲んでいた。
若葉色の庭園をながめながら、他愛もない話に花を咲かせる二人。
コンスタンスが、ふと思い出したように言った。
「そういえば、例の一件がようやく全て片付いたと聞きました」
「ああ、ようやく終わった」
コンスタンスが、カップをソーサーの上に丁寧に置くと、セドリックに尋ねた。
「わたくし、ずっと不思議だったのですが、どうして、元子爵はクロエを狙ったのでしょうか」
「ああ、彼曰く、欲が出たらしいよ」
徐々に政治が思うがままになり、子爵は欲が出た。
遺された魔道具の全てを動かすことができれば、世界征服も夢ではないのではないかと思い始めたのだ。
彼は、次々と有名魔道具師を攫ってきては、洗脳し、解析させた。
しかし、誰も歯が立たず。皆口を揃えてこう言ったらしい。
「クロエ・マドネスであれば恐らく可能だ、彼女の魔道具には似た仕組みが使ってある」
そこで、子爵はナロウ王子を使ってクロエを捕らえることにしたらしい。
セドリックが肩をすくめた。
「あのお披露目会の断罪劇も、クロエ嬢を冤罪で死刑判決させることが狙いだったらしいよ」
会場にいる人間に強い洗脳を行い、クロエ・マドネスを断罪させ、そのまま手に入れる。
「処刑したことにして裏で手を回して家に幽閉し、魔道具の解析をさせるつもりだったようだ。全く以て悪知恵の働く男だったよ」
そう、とコンスタンスが険しい顔をする。
「そういえば、ライリューゲ元子爵が見つけた他の古代魔道具はどうなったのかしら?」
「調査に行った文官曰く、現場はグチャグチャだったらしいよ。近隣の住民の話では、突然大爆発が起きたらしくて、全ての魔道具が跡形もなく吹き飛んでいたらしい」
ある夜、煤まみれになって帰ってきた兄とクロエの姿を思い出し、そう、とつぶやいて窓の外を見るコンスタンス。
窓の外では、若葉色の木々が春風に吹かれてざわめいていた。
次がエピローグになります。