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どうも、前世で殺戮の魔道具を作っていた子爵令嬢です。※Web版  作者: 優木凛々
第一部 子爵令嬢、婚約破棄騒動に介入する
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03.婚約破棄に介入するに至るまで(2)



 

 休日に学園まで迎えの馬車に来てもらい、昼過ぎに到着したソリディド公爵家は、それはそれは豪華だった。



(まあ! なんて広いの! しかも屋敷が大きすぎるわ!)



 口をポカンと開けたまま巨大な屋敷を見上げるクロエ。

 実家のマドネス子爵家の十倍はありそうだ。


 中に入ると、冬なのに一体どこから持って来たんだろうと思うような花が飾られているエントランスに、貴族っぽいドレスに身を包んだコンスタンスが立っていた。



「いらっしゃい、クロエ。あら、制服なのね」


「ええ、なにを着てくればいいのか分からなくて」



 それなら制服は正解だったわね、とコンスタンスが褒めてくれる。

 手土産にと自作の魔道浄水器を渡すと、手土産を持って来たのは正解だけど、こんな高価なものは困ってしまうわ、と笑われた。



「こういう時は、貴族が出入りするようなお菓子屋さんや花屋さんに行って、店員さんに相談すると良いわよ」


「なるほど、そういうものなのね」


「ええ。あと、わたくしたちは、まだ成人していない子供同士ですので、二回目の訪問から手土産は必要ありませんわ」



 貴族同士のマナーについてクロエに教えてくれながら、コンスタンスが、赤絨毯の敷かれた立派な階段を上がっていく。


 ソリディド公爵家は、代々騎士団長の家系で、屋敷にはたくさんの甲冑や剣、盾などが飾られていた。

 クロエは、階段の踊り場で立ち止まると、壁に飾られている祖先のものらしき大きな絵をながめた。



「ここに飾ってあるのはご先祖様?」


「ええ、六代前からの肖像画よ」


「みんな強そうね」


「私は祖父からしか分からないけど、とても強かったわ」



 ふうん、と言いながらクロエは肖像画をながめた。

 どの絵もファッションや髪型、髭の形などは違えど、剣を持っている。



(ここ三百年くらいの武器の中心は剣なのね)



 長い廊下を歩きながら、「そういえば、ご家族は?」と尋ねると、両親は親善のため他国に行っており、長男は領地で経営を学んでいるという答えが返ってきた。



「今、この館に暮らしているのは、わたくしと二番目の兄ね」



 そう言いながら、コンスタンスは、クロエを広い部屋に案内した。

 部屋の真ん中には革張りの応接セットが置かれており、ローテーブルの上には立派な箱が置いてある。


 彼女はクロエに座るように勧めると、置いてあった立派な箱を開けた。



「これが古代魔道具よ」


「まあ! 素晴らしいわ!」



 クロエは両手を祈るように胸の前に組むと、目を輝かせた。

 それは、紛れもなく前世クロエの死後に造られたと思われる魔道具『銃』。

 街の骨董品屋で見たものより数段保存状態が良い。



「かなり昔に買ったものだから、元に戻せる範囲だったら分解していいそうよ」


「まあ! なんて素敵なの!」



 いそいそと持っていた鞄から分厚い布を出してローテーブルの上に敷くクロエ。

 鞄から手袋を取り出してはめると、丁寧に古代魔道具を箱から取り出して、布の上に置いた。

 分解に使う工具が入った箱を取り出すと、布の横に置く。


 その様子を見て、コンスタンスが思わずといった風に吹き出した。



「手袋と工具を持ってきてるなんて、ずいぶんと用意周到ね」


「魔道具を見るときの基本よ」



 と、そのとき、お茶を持ってきたメイドが、コンスタンスに何かを耳打ちした。



「まあ、夫人が」



 コンスタンスが少し面倒そうにため息をつくと、申し訳なさそうにクロエを見た。



「ごめんなさいね。急に再来週の舞踏会用のドレスの直しが入ってしまったみたいなの。少し席を外させてもらうわ」


「大丈夫よ、わたしはここで魔道具を見せて頂いているわ」



 クロエが古代魔道具をながめながら、どこから分解しようかと、手をわきわきさせながら答える。


 コンスタンスが口角を上げて、「まあ、これはしばらく一人にしてあげた方が良いのかもしれないわね」とつぶやくと、立ち上がった。



「じゃあ、この部屋には誰も入らないように言っておくから、ゆっくりして。なにかあったらメイドが外に控えているから」


「ありがとう」



 コンスタンスが部屋からいなくなると、クロエは早速古代魔道具を分解しにかかった。



(知らない構造。間違いなく、わたしの死後に作られたものね)



 ノートにメモを取りながら、次々と部品を外していく。



(なるほどねえ。わたしの時代は部品の数を減らすのがトレンドだったけど、その後は増やすのがトレンドだったのね)



 一体なんのために増やしたのかしら、と彼女が夢中で考察を進めていると、



 コンコンコン



 ドアをノックする音が聞こえてきた。


 今いいところなのに! と思いながら、「はい、どうぞ」と魔道具を注視したまま答える。


 ドアがゆっくりと開かれ、そこには騎士服姿の長身の青年が立っていた。

 コンスタンスと同じ銀色の髪に、切れ長な青い瞳。色素が薄いせいか、表情のせいか、受ける印象は非常にクールだ。



(これが二番目のお兄様かしら)



 とりあえず立ち上がる。


 彼は「失礼します」と部屋に入ると、貴族的な隙のない微笑みを浮かべ、礼儀正しく騎士風の礼をした。



「はじめまして。コンスタンスの兄のオスカーです。王宮付き第一騎士団の副団長を務めております。妹がいつもお世話になっております」


「クロエ・マドネスです。こちらこそ、いつもお世話になっております」



 張り付けた笑顔で答えるクロエ。

 コンスタンスの話では、こういう場合は、天気の話や情勢の話などを軽くして、友好を深めるのが貴族の礼儀らしいが、クロエは一秒でも早く分析の続きがやりたかった。


 彼女はにっこり微笑んだ。



「コンスタンスなら、舞踏会の衣装の直しがあるとのことで、別室に行きました。外に立っているメイドの方が行き先をご存じだと思います」



 ここで話す必要とかないんで、妹さんのところに行かれたらどうですか、と暗に言ってみる。


 オスカーは「聞いていた通りだな」と面白そうに目を細めると、テーブルの上に目を移した。



「なにをしているのですか?」


「古代魔道具の分解です。コンスタンスからは許可を頂いています」



 早く続きがしたいとテーブルの上をチラチラ見ながら、クロエがそっけなく答える。

 オスカーは、興味深そうに「ほう」とつぶやくと、彼女を見た。



「私も見せてもらってもいいですか?」


「え?」


「実は、先日、うちにある古代魔道具について、有識者の方と話す機会がありまして、興味が湧いたのです」



 クロエは思った。

 天気の話や情勢の話は遠慮したいが、魔道具のことなら話は別だ。

 しかも、古代魔道具の有識者の話とか、かなり興味がある。



「ええ。どうぞ」


「ありがとうございます。お茶、新しくしましょうか。同じものでいいですか」


「はい、お願いします」


「あと、言葉遣いですが、無礼講でお願いできませんか」


「いいんですか?」


「ええ、騎士団にいると、堅苦しいのが苦手になってしまってね」



 マナーについては身分が上の者の申し出は基本受け入れるってコンスタンスが言っていたわね、と思いながら、「はい」とうなずくクロエ。


 オスカーはメイドにお茶を頼んだ後、「失礼する」とクロエの正面に座ると、分解してある魔道具をしげしげとながめた。



「これは、うちにあった古代魔道具だな」


「はい、その通りです。これ、なんだと思います?」


「先日聞いた有識者の話では、武器ではないかということだったな。主に女性や子供の護身道具として使われていたのではないかと」



 ふうん、とクロエが魔道具に目を落とした。

 自分の時代のものではないから正解は分からないが、女性や子供向けの護身用ではないと思う。


 考え込む彼女に、「君はどう思う?」と興味深そうに尋ねるオスカー。


 彼女は分解した『銃』を素早く組み立てると、手に持って構えた。



「これ、見てどう思いますか?」


「そうだな……。握りにくそうに見えるな」


「わたしも持ちにくいなと思います。では、オスカー様、同じように持ってみてもらえますか」



 オスカーは、剣だこのある大きな手で銃を握ると、軽く目を見開いた。



「馴染みがいいな」


「ええ。ですので、これは女性子供用というよりは、男性用として作られたと考えるのが自然だとわたしは思います。この考察を裏付ける点は、他にもありまして……」



 魔道具のことになり、つい饒舌になるクロエの話を、オスカーが相槌を打ちながら興味深そうに聞く。

 そして話がいち段落した後、彼は感心したように口を開いた。



「非常に面白い見解だ。論文でも出してみたらどうだ。なんなら、俺が話をした有識者を紹介しようか」



 クロエは顔をひきつらせた。前世の自分が死んだ後の魔道具の発展に興味はあるが、武器にはもう関わりたくない。



「け、結構です、わたしは考古学の専門家になりたいわけではありませんので」



 クロエの慌てふためく様子を見て、オスカーが楽しげに声を出して笑った。



「そうだな、あいつらは面白い人材を逃がさないからな。今の話は秘密にしておこう」



 そのとき、コンコンコン、というノックの音がして、コンスタンスが現れた。



「あら、お兄様、というか、二人でなにを?」


「古代魔道具の分解を見せてもらっていた」


「お兄様、昔、似たようなものを分解して、お母様に怒られてましたものね」



 オスカーが、バツが悪そうに目を伏せた。



「……忘れた」


「ありましたわよ、覚えていますわ」



 からかうように微笑みながら、コンスタンスが、兄の座っている長椅子の横に座る。


 クロエは並んだ二人をジッと見つめた。



「どうしたの?」


「似ているなあと思って」


「よく言われるわ。わたしたち、両方とも母親似なの」


「そうなのね。お二人とも銀色の髪の毛と青い瞳がとても綺麗だわ」



 軽く咳込むオスカーに、コンスタンスが声を上げて笑った。



「お兄様は、こうやってストレートに褒められるのに弱いのね。世の女性に教えてあげないと」


 その後、二人に、「ぜひ」と食事に誘われ、美味しいご飯をご馳走になって帰るクロエ。

 翌日コンスタンスにお礼を言うと、彼女は「こちらこそ楽しかったわ」と笑顔で言った。



「兄も楽しかったって言っていたわ」


「そうなの?」


「ええ、多分、自分より古代魔道具に興味のある令嬢が初めてだったんだと思うわ。うちに来る女性はみんなお兄様目当てだから」



 そうなのね、と言うクロエに、本当に興味がないのね、とクスクス笑うコンスタンス。



「ぜひ、またいらして」


「ありがとう、また伺うわ」



 そんなわけで、クロエはときどきコンスタンスの家に行くようになった。






ヒーロー登場!


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