07.断罪劇(1)
本日新規4話目です。
「見つけたぞ! クロエ・マドネス! お前を国王陛下に対する暗殺未遂で拘束する!」
叫ぶナロウ王子の横で、まあ、と口元に両手を当てながら、その奥でニヤニヤと笑うプリシラ。
オスカーが顔を上げると、冷たく王子を見据えた。
「彼女はそのようなことはしておりません。殿下、失礼ですが、また一年前と同じことをされるおつもりですか?」
「ふん、一年前は私の脇が甘くて言い逃れされたが、今回はそうはいかん! おい! この女を連れていけ!」
王子の指示を受けた騎士二人が、戸惑ったように顔を見合わせる。
オスカーが、二人に「動かなくていい」と合図すると、そばに立っていたセドリックが笑いながら口を開いた。
「ナロウ、このような場で騒ぎを起こすのは感心できることじゃないよ。それにその内容、日を改めて別室で話すべき内容だろう?」
「叔父上は甘過ぎます! そんなことをすれば、この女に逃げられるのは明白! 今すぐ捕らえるべきです!」
そして、俯いているクロエを指差して叫んだ。
「貴様が己の知識を悪用し、国王陛下を亡き者にしようとしたことは分かっている! 加えて、一年前に、我が妃プリシラを出鱈目で陥れた! 王族を欺いた罪は重い!」
「ナロウ様の言っていることは本当です! クロエさんは、一年半前に、出鱈目を言って、わたしを陥れました!」
プリシラが潤んだ目で祈るように手を組んで叫ぶ。
「私も騙された一人だ、あれは未来の王妃に不敬が過ぎる行為だった!」
王子とプリシラの後ろに立っていた眼鏡の側近も、親の仇でも見るような目でクロエを睨みつける。
会場にいた貴族たちが、やや虚ろな目でヒソヒソとしゃべり始めた。
「ナロウ王子がああ言うってことは、あの女が国王陛下の病気の原因なのね!」
「なんて恐ろしい! 即刻排除すべきだ!」
「そうだ、その通りだ!」
会場の空気が、徐々にクロエに対して攻撃的なものに変わっていく。
そんな空気の変化を楽しむように、プリシラが目を細める。
あざけるような目でクロエを見ながら、扇の奥で口を歪めて嘲笑う。
そんな中、クロエは顔を上げると、王子に対して淡々と言い放った。
「わたしは、そのようなことをしておりません。証拠もなく勝手なことを言うのは止めて頂けますか」
「ふん、証拠なら揃っている! 入れ!」
ナロウ王子が見下すように顎を上げると、手を叩いた。
それを合図に、どこからともなく現れる三人の人物。
王子が、群衆に向かって大声を出した。
「静粛に! これから三人の人物に証言させる!」
観客が黙ると、目が虚ろな中年男性が、声を張り上げた。
「私は、行方不明になっていた魔道具師だ! 半年前、この女に攫われ、監禁され、陛下を亡き者にするために力を貸さないと殺すと脅されて、人を殺めるための魔道具を作らされた!」
メイド服を着た中年女性が、震える声で叫んだ。
「怖くてずっと言えなかったのですが、わたしはこの女が、陛下の部屋にいるのを何度も見ました!」
白衣を着た初老の男が、重々しく口を開いた。
「陛下の病の原因が、その女が彼に作らせた魔道具によるものだと、主治医の私が証言致します。その女が現れて魔道具を使ってから、陛下の容体が一気に悪化致しました」
三人の証言を受けて、会場が蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
誰かが「クロエ・マドネスを捕らえろ!」と叫び、それに同意する声が次々と上がる。
オスカーの背に庇われながら、騒ぎ立てる群衆と証言した三人を、憐憫の目でながめるクロエ。
終わらせなきゃね、とつぶやくと、すっと右手を挙げた。
「ちょっとよろしいでしょうか」
「ならん! 罪人の言うことなど聞かん!」
間髪入れずに叫ぶナロウ王子の声に、再び静まり返る群衆。
セドリックが、王子に冷たい目を向けた。
「ナロウ、同じ王位継承権を持っている人間として、君のやり方には賛成できない。君は何様のつもりだい? 王族の権利と義務について、なにか勘違いしているんじゃないか?」
「しかし! ここまで罪が明白なのですよ! なにを弁解するというのですか!」
「それは君が決めることじゃない。クロエ嬢が決めることだ」
「……っ! しかし! この女の死刑は確定だ!」
オスカーがため息をついた。
「王子。あなたはここにいる貴族や他国の重鎮たちに対して、我が国の刑罰は、裁判ではなく貴方の独断で決まると示すおつもりですか」
「……」
悔しそうに言葉に詰まるナロウ王子。
その隙にと、セドリックがクロエを促した。
「さあ、なにを言う気だい?」
クロエは顔を上げると、きっぱりと言った。
「訂正させていただきたい事項がございます」
「ほう、なんだい?」
クロエは、ナロウ王子と、そのずっと後ろで腹黒そうな笑みを浮かべている、目をギラギラさせた中年男性――ライリューゲ子爵を見ながら言った。
「今のお話、全部です」
会場がざわめいた。




