05.信じてくれますか
本日新規2話目です。
ソリディド公爵家の広い庭の端にある木に囲まれた東屋にて。
クロエはオスカーと向かい合って座りながら、お茶とお菓子を楽しんでいた。
(ああ、至福……)
大好きなマカロンを、目をつぶって堪能するクロエを見て、オスカーがくすりと笑った。
「マカロンが好きだとは思っていたが、まさかそこまで感動されるとは思わなかった」
「なんか久々に食物を味わって食べてるなあと思って」
この数日。クロエは未だかつてないほど分析に没頭していた。
上の空でご飯を食べ、寝ている間は夢の中で分析を行い。
正に分析一色の生活を送ってきた。
そして、今日、ようやくその分析がひと段落し、オスカーに誘われて東屋で大好きなマカロンを頂いているのだ。感動しない訳がない。
クロエはマカロンを頬張りながら空を見上げた。
(そういえば、陽の光に当たったのも久々よね)
カーテンを閉め切った部屋も良いが、やはり外で日の光を浴びて、自然風に吹かれると元気が出る気がする。
そんなことを考えていると、オスカーが躊躇うように黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「今日は、楽しい話だけするつもりだったんだが、ちょっと風向きが変わってしまってな。少し重い話をしなければならない」
クロエは姿勢を正した。
「はい、なんでしょう」
「これだ」
差し出されたのは、一通の封筒。
すでにナイフか何かで開けられた跡がある。
「つい先ほど、君の兄のテオドール氏から届けられたものだ。まず君の実家に届いて、その後テオドール氏のところに送られて来たらしい」
「中身はご存じですか?」
「ああ、ナロウ王子とプリシラ嬢の『婚約お披露目会』の招待状と聞いている」
そうですか、とため息をつくクロエに、オスカーが意外そうな顔をした。
「驚かないのか?」
「……そうですね。なにか理由をつけて呼び出されるとは思っていたので。
ちなみに、そのお披露目会って、王宮の中心部分にある舞踏会会場でやったりします?」
オスカーが若干目を見開いた。
「ああ、その通りだ」
「……そうですか」
黙り込むクロエに、オスカーが顔に心配の色を浮かべた。
「どうしたんだ、顔色が良くないぞ」
「……ええ、まあ、色々ありまして」
クロエが、誤魔化すように紅茶に口をつけると、ため息をついた。
酒蔵にある、ありとあらゆる酒類を分析し、ライリューゲ家について調べて、彼女はとある結論を出した。
『コンスタンスの婚約破棄事件から始まり、これまで起きた不可解な事件は、恐らく一本の線でつながる』
そう考えれば全て説明がつくし、間違いないと思う。
(問題は、それを説明するのに、わたしの前世の知識をフル活用しなければならないことなのよね)
前世の知識の中には、今世では通用しない物も多く、中には御伽噺に近いものまである。
その知識を使って説明なんてしたら、確実に頭がおかしいヤツだと思われる。
(それに、例え信じてくれても、わたしにとってあまり嬉しいことにはならないわよね)
この世の中にはない殺戮の魔道具を作れるなんてバレたら、前世の二の舞になるのではないだろうか。
(これはどうしたらいいのかしら……)
途方に暮れて黙り込むクロエを、ジッと見るオスカー。
おもむろに口を開いた。
「クロエが、なにか困っているんだな」
「……」
「なにか、特別な事情があるのか?」
こくりと頷くクロエ。
オスカーは、なるほど、とつぶやくと、
少し黙った後、真剣な顔で彼女を見た。
「俺はなにがあっても君の味方だ」
オスカーは、彼女を真っすぐ見た。
「だから、もしも背負っているものがあるのであれば、俺を信じて話してみてくれないか」
その真摯な目を見てクロエは思った。
オスカーはいつだって自分に対して誠実だった。
きっとこれ以上信頼できる人はいない。
クロエは真剣な目でオスカーを見上げた。
「オスカー様、わたしを信じてくれますか?」
オスカーは軽く目を見開くと、真面目な顔でうなずいた。
「当然だ」
「嘘みたいな話をするかもしれませんよ」
「それでもだ、俺が君のことを疑うなんてありえない」
真摯な言葉に、俯くクロエ。
そして、彼女は覚悟を決めたように顔を上げた。
「……少し長くなりますが、聞いてもらえますか」
オスカーが力強くうなずいた。
「ああ、もちろんだ」