04.【Another Side】悩めるクロエ
(※コンスタンス視点)
コンコンコン
家に珍客が二人訪れてきた、数日後。
コンスタンスが、クロエの部屋のドアをノックしていた。
「……はあい」
少し間があって、ドアがゆっくりと開かれる。
ドアの隙間から漏れ出す匂いに、コンスタンスは思わず鼻と口を押えた。
「すごいお酒の匂いよ! どうしたのよ、一体!」
「お酒を分析してたの」
「そのお酒って、この前お兄様が王城から持ち帰って来たもの?」
「ええ。全部開けて分析してたら、すごい匂いになっちゃって」
クロエがバツが悪そうに頭をかく。
その様子を見て、コンスタンスは思った。
この子、やっぱり元気がないわ、と。
「クロエ、元気がないように見えるけど、大丈夫?」
「うん、大丈夫。ちゃんとご飯食べてるし、睡眠だってとってるし」
「もう! それは当たり前よ!」
それもそうね、と笑うクロエだが、やはり元気がない。
最近行動も変で、急にプリシラの生家であるライリューゲ家について調べたいと言い出したり、ライリューゲ領の地図を取り寄せて、ながめてはため息をついている。
しかも、数日前など、ライリューゲ家が経営するカフェに行きたいと言い出した。
(一体どうしたのかしら)
コンスタンスの前で、疲れたようにあくびをするクロエ。
(……これは一度、お兄様と相談した方が良いかもしれないわね)
そんな訳で、その日の夕方。
コンスタンスは、帰って来たばかりのオスカーの部屋に向かった。
「お兄様、ちょっといいかしら」
「どうした、コンスタンス?」
まだ騎士服姿のオスカーが、コンスタンスを部屋に招き入れてくれる。
彼女はソファに座ると、おもむろに口を開いた。
「実は、クロエのことで気になっていることがあるの」
「ああ、元気がない件、だろう?」
「ええ。わたくしの考えでは、王宮から帰って来たあたりからだと思うのですが、お兄様はどう思われますか?」
「俺もそう思う」
「彼女が部屋で何をしているのかご存じですか?」
「ああ、調べ物や、酒の分析だろう? 持って帰って来てくれと頼まれたからな。今日も、あれらを持って帰って来た」
オスカーが指さす方向を見ると、そこに並んでいたのは酒瓶が5,6本。
コンスタンスは眉を顰めた。
「大丈夫ですの。あんなにあったら部屋に籠りきりになってしまうのでは?」
部屋に籠っていては気が滅入るのではないだろうか。
そんなことを考えるコンスタンスに対し、オスカーが首を横に振った。
「まあ、確かにこもりきりは体に良くないだろうが、恐らくこれは彼女にとって必要な儀式みたいなものなのだと思う」
「儀式、ですか」
「ああ。彼女は心の中の整理がつかないと、何かに没頭するところがある。気が済むまで没頭して自分の中で答えが出たら、きっと話をしてくれると俺は思う」
「……そうかもしれませんわね」
「ああ。気が済むまで没頭した後に、話しやすい環境を作れば、それできっと大丈夫だ」
なるほど、と感心するコンスタンス。
実によく見ているし、理解している。
「さすがはお兄様ですわ。サイファの街でクロエの面倒を見ていただけのことはありますわ」
「……」
「クロエが絶賛していましたわ。お兄様のオムライスは絶品だと」
にこにこするコンスタンスと、気まずそうに目を伏せるオスカー。
そして、その数日後。
どことなく、すっきりとした顔で部屋から出て来たクロエを、オスカーが「クロエの好きなお菓子を買って来たから、あとで一緒に庭で食べないか」とさりげなく誘い。
コンスタンスが出掛ける予定が入っていたことから、
クロエとオスカーは、庭の東屋でお菓子を食べることになった。
コンスタンスが「お兄様、やるわね」と思ったのは、言うまでもない。




