11.【Another Side】ブライト王国の王城にて
クロエとオスカーがサイファの街を出た、数日後。
ブライト王国の王城内にある、シャンデリアが煌めく、赤絨毯が敷かれた豪華絢爛の執務室にて。
ナロウ第一王子の側近である眼鏡の青年が、
中央のソファに座る王子とプリシラに、心から申し訳なさそうに頭を下げていた。
「申し訳ございません! 私が不甲斐ないばかりに、せっかく見つけたクロエ・マドネスを逃してしまいました」
ナロウ王子が、眉間にしわを寄せた。
「お前らしくない失敗だな」
「彼女の出国を手助けしたと思われる商会の従業員を買収し、ルイーネ王国のサイファという街で見つけたまでは良かったのですが、捕らえようとしたところ、街の冒険者たちの邪魔が入ったらしいのです」
「クロエ・マドネスはどうしたんだ」
「顔を隠した男と、馬に乗って街を離れたと」
「誰だ、その男は? 行き先は?」
「……わからないそうです」
プリシラが目を潤ませた。
「ごめんなさい。わたしがクロエさんの誤解を解きたいと言ったばかりに、こんな苦労をさせてしまって」
眼鏡の側近が、恍惚とした表情で首を横に振った。
「お気になさらないでください。未来の王妃様がそうおっしゃるのです。その望みを叶えるべく動くのは、臣下として当然です」
「でも……」
プリシラが、俯いて涙をこぼす。
ナロウ王子が、悔しそうな顔をして、彼女の涙をハンカチで拭った。
「すまない。これは私の責任でもある。卒業パーティで下手を打ってしまったばかりに、あの女を呼び出すことすら出来ない状態になってしまった」
婚約破棄騒動が終わったあと、王子は厳しい顔の国王に呼び出された。
国王は王子を叱咤し、この件について、コンスタンスとクロエに関わることを禁止した。
また、ソリディド公爵家からの監視も厳しく、
お陰で、彼はクロエを呼び出すことはおろか、探すことすら困難になってしまった。
代わりに眼鏡の側近が、遠縁の下位貴族を使って秘密裏に探していたのだが、失敗に終わってしまった。
(くそっ、父上のあの命令と公爵家の監視さえなければ!)
王子が、可憐に涙をこぼすプリシラを慰めながら、なんとかならないものかと考えていた、そのとき。
コンコンコン
ノックの音がしたあとにドアが開き、以前よりも数段豪華な服を着た恰幅の良いライリューゲ子爵が、ニコニコしながら入ってきた。
王子と眼鏡の側近の顔が輝いた。
「おお、一週間ぶりだな、ライリューゲ子爵! 座ってくれ!」
「ご無沙汰しております」
ニコニコと笑いながら、丁寧なお辞儀をする子爵。
失礼します、と二人の正面に座ると、心配そうな顔で口を開いた。
「どうした、プリシラ。随分と悲しそうな顔をしているな」
「お父様、あの件で、心を痛めているのですわ」
「すまない。私が不甲斐ないばかりに、未だに、あの女を連れてこれずにいるのだ」
悔しそうな王子を見ながら、そうですか、と思案するような顔をする子爵。
そして、ふと、なにかを思いついたように顔を上げた。
「一つ、よい考えがあります、あの魔道具師を、婚約お披露目会にお呼びになっては如何ですか?」
「は? あの女を?」
『婚約お披露目会』とは、一か月後に予定されているパーティの一種だ。
結婚式とは違い、小さくやるのが通例だが、プリシラのたっての希望で、国内の貴族たちを呼んで大々的に行うことになっている。
瞠目する王子に、子爵が微笑んだ。
「はい。祝いごとですし、王室から直接来る招待状は、いわば王族命令。さすがに無視はできないでしょう」
「なるほど、そうだな。慶事を理由に呼び出すのであれば差支えあるまい。そなたは相変わらず知恵が働くな!」
「恐縮でございます」
子爵は恭しく頭を下げると、立ち上がった。
「これ以上、愛し合うお二人の邪魔は出来ませんな、失礼いたします」
「まあ、お父様ったら! 今週中に会いに行きますわ!」
「楽しみにしているよ、殿下もごきげんよう」
「ああ、いつでも来てくれ!」
*
子爵は執務室を出ると、廊下を歩きながら、ほくそ笑んだ。
(……ようやく、上手くいきそうだな)
現在、国王の体調は悪化の一途をたどっている。
このままいけば、近いうちにナロウ王子が国王になり、娘のプリシラが王妃になるのは、ほぼ確実。
プリシラが王妃になれば、王宮でもっと動きやすくなるだろう。
若い貴族も随分と手懐けた。
彼らも大いに役に立ってくれるだろう。
(……クロエ・マドネスの件も、今日で目処がつきそうだな)
プリシラを通じ、ナロウ王子に探させてはいたものの、全く上手くいかず、今まで煮え湯を飲まされ続けた。
しかし、今回は慶事に出よとの王室命令。
さすがに姿を見せないわけにはいかないだろう。
(姿を見せれば、こっちのものだ。捕らえて、一生有効に使ってやる)
子爵は、ほの暗く笑うと、小さくつぶやいた。
「婚約お披露目会、実に楽しみだ」




