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どうも、前世で殺戮の魔道具を作っていた子爵令嬢です。※Web版  作者: 優木凛々
第二部 辺境の薬屋ココ

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02.不摂生な薬屋に至るまで(1)


本日2話目です。

 

 オスカーと別れた翌々日、クロエは商隊と共に無事ルイーネ王国に入国した。


 ルイーネ王国は、ひたすら草原の続く小さな国だ。

 もとは貧しい国だったが、国境付近の大山脈に、古代魔道具や希少資源を産出するダンジョンが発見されたことにより、ここ百年ほどで一気に豊かになったらしい。


 どことなく砂っぽい街には、白壁とレンガ色の屋根の背の低い建物が並んでおり、ところどころに丸屋根の教会らしき建物が建っている。


 前世でも見たことのない風景に、クロエは心を躍らせた。



(森と湖のブライト王国もいいけど、異国情緒溢れるこちらの国も素敵ね)



 そして、商隊がルイーネ王国の王都に入ってしばらくして。

 クロエは、商隊の長である、人は良さそうだけど目つきが鋭い中年男性――ランズ商会の会長ランズの執務室に呼ばれた。



「さて、国境を越えたわけだが、お嬢さん、これからどうしたい?」



 会長のチョビ髭をながめながら、クロエは考え込んだ。


 この国に来た目的は、



『ブライト王国内の騒ぎが収まるまで身を隠すこと』


『この国の古代魔道具を分析しつつ、生活魔道具の研究をすること』



 この二つだ。


 そうなると、どこかに引き籠って、湯水のようにお金を使いながら古代魔道具研究をしつつ、生活魔道具を開発するのが理想的なのだが……。



(でも、それだと前世と変わらないのよね)



 魔道具を人々の生活のために作ろうと思うなら、人々の生活を知らなければいけないし、人と接して情報を得なければならない。

 これは今世でクロエが学んだことだ。



(いい機会だし、街で働いてみるとかどうかしら)



 働けば、人々の生活を知ることができるし、情報も自然と入ってくる。

 学園や大学の依頼を受けて、魔道具を開発してお金を稼げていたから、どこかの魔道具店で働けるのではないだろうか。


 これをランズ会長に言うと、思い切り苦笑された。



「魔道具師としてどこかで働くのは止めた方がいいと思うぞ」


「なぜですか?」


「あんた、記録玉と魔導浄水器を開発したクロエ・マドネスだろ。たとえ名前を伏せたところで、街の魔道具店なんかで働いたら、どう考えても目立ちすぎるだろ」



 彼曰く、普通の魔道具師は、作れる魔道具が限られる上に、新規開発などできないらしい。



「身を隠すためにこの国に来たのに、目立つことやってどうするんだって話だ。本気で身を隠す気なら、魔道具開発は封印した方がいい」



 そんなものなのかしらと思うクロエ。



「でも、できることが他にないんです」


「なるほどなあ。だが、魔道具師になれる魔力があるなら、他にも出来ることがあるだろ。例えばだが、回復薬なんて作れないのか?」



 ちなみに、この世界では、誰もが魔力を持っている。

 そして、魔力が高いと、下記のような職業が選択できるようになる。



 ・魔力を使って、素材を加工・調合する『薬師』


 ・魔力を使って、身体強化や剣の強化を行い、人外的に強くなる『騎士』


 ・魔力を使って、加工や付与をする『魔道具師』



 つまり、ランズは「魔道具師」ができるなら、「薬師」もできるんじゃないか、と尋ねたことになる。


 彼の質問に、クロエはうなずいた。



「できます。学園でも学びましたし、得意だと思います」


「じゃあ、薬師として働いてみたらどうだ。誰もお前さんが薬師をやっているなんて思わないだろうし、どこの街でも薬屋はあるから、つぶしがきく」



 なるほど、と考え込むクロエ。


 市井で働きながら身を隠せるのは素晴らしい。

 加えて、魔道具師と薬師は切っても切れない関係がある。特に医学分野の魔道具を作ろうとするなら、薬師の知識は必須だ。



(悪くないわ。というか、とても良い考えのような気がするわ)



 魔道具の開発ができないのは残念だが、アイディアを書き留めておけばよいし、古代魔道具の研究もできる。



「じゃあ、薬師としてどこかで働くことにします」


「ああ、それがいいと思うぜ、ちょっと待っていてくれ」



 そう言うと、ランズは一通の手紙を書いて、クロエに渡した。



「ここからは、あんたの痕跡を消すために、何人かを経由するから、そのつもりでいてくれ。

まずは、中央街にある赤い屋根の大きな呉服屋の主人に、この手紙を渡すところからだ。

そいつが色々と手はずを整えてくれる。それと――」


 ランズが、クロエを真っすぐ見た。



「あんたがどこに行ったか、公爵家には知らせるか? もちろん知らせないこともできる」


 

 クロエは考え込んだ。

 こういう場合は、知らない方が良いことの方が多い気がする。

 それに、場所が分かったらコンスタンスが「あの土地は〇〇って聞いたわ!」などと、余計に心配しそうな気がする。



「そうですね……、じゃあ、余計な心配をさせてしまうのもアレなんで、知らせない方向でお願いします」



 そう答えるクロエに、ランズが苦笑いした。



「知らせないと余計心配する気もするが、まあ、いいだろう、了解だ。居場所を知らせずに手紙を出したいなら、俺を経由するといい」


「はい、ありがとうございます」



 どうやらこれでお別れらしいと、お礼を言って手紙を受け取るクロエ。


 ランズ商会の建物を出て、石畳の細い道を歩き、中央街にある赤い屋根の呉服屋に向かう。

 店員に手紙を渡すと、奥から女主人が出てきた。



「手紙を読んだよ。とりあえず、その格好をなんとかしないとね」


「格好、ですか」


「そうだよ。あんたは女の子なんだ。念には念を入れないとね」



 そこでクロエは人生初の男装をすることになった。


 背中の真ん中まであった蜂蜜色の髪の毛を肩くらいまで切って、

 男の子っぽく無造作なハーフアップにまとめる。


 演劇用の胸を押さえる下着を身につけ、

 体のラインと肩の細さを隠すためにかっちりした、えんじ色の長めの上着を着て、太めのズボンを履く。


 最後に、黒ぶち眼鏡をかけて鏡の前に立つと、そこには小柄な少年が立っていた。



(すごい! ちゃんと男の子に見える!)



 クロエが感心してながめていると、女主人が口を開いた。



「で、あんた、名前、何にする?」


「名前?」


「身を隠すなら、名前も変えないとね、もちろん男の名前だよ」



 クロエは考え込んだ。最初「オスカー」にしようかと思ったが、自分の中でオスカー様とごっちゃになる気がして、止めておく。


 そして、考えた末、彼女は、「クロエ」を、前世の言葉読みした「ココ」という名前に変えることにした。

 (例:Chloe=クロエ=ココ)



「ココ、とかどうでしょうか」


「ああ、いいんじゃないかい。その外見にぴったりじゃないか」



 その後、クロエは幾つかの街を経由し、大きな街にたどり着いた。





「不摂生な薬屋に至るまで」は、次の(2)で終わりです。


本日はあと2話投稿します。

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