10.【Another Side】王都のティーサロンにて
本日3話目です。
クロエが隣国へ旅立った、数日後の王都。
石造りの背の高い建物が並ぶ中心街にある、洒落たティーサロンの中にある、
マホガニーの家具が並んだ広々とした個室にて。
ピンク色のふわふわ髪の娘と、目立たないが上質そうな服を着た三人の青年が、丸いテーブルを囲んでお茶を飲んでいた。
娘は、コンスタンスを嘘で陥れようとしたプリシラ・ライリューゲ男爵令嬢。
青年三人は、金髪碧眼のナロウ王子と、その側近、眼鏡の青年と、大柄で筋肉質な青年だ。
眼鏡の青年が、高価そうなティーカップを上品に置くと、申し訳なさそうに頭を下げた。
「あらゆる場所を探したのですが、クロエ・マドネスは見つかりませんでした。どうやら数日前に王都を出たようです」
ナロウ王子が眉をひそめた。
「それは確かなのか」
「はい、調べた者の話だと、彼女の兄のテオドールが、『どこに行ったかは分からないが、妹が王都にいないことだけは確かだ』と断言したそうです」
ナロウ王子は、忌々しそうに舌打ちした。
「この手際の良さはソリディド公爵家の仕業だな。先手を打たれた」
そして、隣に座っているプリシラの頭をなでた。
「すまない。聞いての通り、クロエ・マドネスは王都を出てしまったようだ」
プリシラが両手を胸の前で組むと、潤んだ目で王子を見上げた。
「ええー、残念です、せっかくちゃんとお話しして、誤解を解きたかったのに……」
「そうだな。『北の廃校舎』と『東の廃校舎』を間違えただけだというのに、あんな言い方、許せない」
「クロエさんは悪くないです! わたしが言い間違えたばっかりに……」
涙をこぼすプリシラを、どこか虚ろな目で同情するように見る青年三人。
そのとき、ノックの音がして、にこやかに笑う恰幅のよい貴族男性が入ってきた。
「失礼いたします」
貴族男性を見て、青年三人が笑顔で立ち上がる。
ナロウ王子が嬉しそうに両手を広げた。
「ライリューゲ男爵ではないか! 邪魔などではない、座ってくれ!」
それは、このティーサロンの持ち主でもあり、プリシラの父親でもあるライリューゲ男爵であった。
彼は恭しくお辞儀をすると、にっこり笑った。
「ありがとうございます、殿下。ですが、若い人たちの中に入るなど、無粋な真似はできません」
「なにを言う、貴公と私の仲ではないか。そうそう、貴公からもらった茶葉、母上にも非常に好評であったぞ!」
「そうでしたか、それは光栄でございます」
ニコニコしながら揉み手をする男爵に、眼鏡の青年が頭を下げた。
「男爵、ご助力感謝いたします。あなたがいなければ、我らは周囲の者の反対を受けて、今日この店に来ることすらできなかったでしょう」
ライリューゲ男爵はニコニコと笑った。
「いえいえ、大した話ではございません。私はただ単にお茶にお招きして、お話しさせていただいただけですよ」
そして、何気ない風に口を開いた。
「そういえば、でたらめな証言をした娘が見つかっていないそうですね」
「ああ、クロエ・マドネスか。先ほど話していたところだ。どうやら王都を出たらしい」
「そうですか……。残念ですなあ、魔道具の天才と聞いていたので、ぜひ一度話をしてみたいと思っていたのですが」
ナロウ王子が鷹揚にうなずいた。
「我らが捜しているのだ。王都にいなくとも、直に見つかる。男爵とも会わせようじゃないか」
「それは楽しみでございます。見つかった暁には、ぜひともご一報ください」
ニコニコ笑う男爵。そして、ふと心配そうな顔をした。
「あまり長くなると、ご家族に心配されますぞ。そろそろお戻りになった方が宜しいかと」
「……そうだな、名残惜しいが、そうしよう」
残念そうな王子。
「ああ、私たちは、このティーサロンがすっかり気に入ってしまいました」
「茶も美味いし、ここに来ると落ち着くしな!」
眼鏡の側近と、大柄な側近も口々に言う。
それは光栄です、とニコニコする男爵。
廊下に出て、部屋のドアを押さえながら、頭を下げた。
「表で馬車を待たせております。足元にお気を付けて」
四人が、次はいつ集まるかと話をしながら出ていく。
若者たちが立ち去ったあと、男爵は、笑顔を張り付けたまま頭を上げると、ゆっくりとドアを閉めた。
誤字脱字ありがとうございます! 大変助かっております。
本日は、あと1話投稿します。