01.プロローグ:子爵令嬢、婚約破棄騒動に介入する
新連載スタートです。よろしくお願いします。
全34話、最後まで一気にいこうと思います。
ブライト王国にある王立学園の卒業パーティにて、その騒動は発生した。
「コンスタンス! お前が私の婚約者であることを笠に着て、プリシラに酷い仕打ちをしたことは分かっている! 今すぐ罪を認めて彼女に謝れ!」
色鮮やかなドレスやタキシード姿の生徒たちが、肩をびくりと震わせて、声の方向に目をやると、
会場中央に設置された、春の花で美しく飾られた大テーブルの横に、四人の人物が立っていた。
金髪碧眼のいかにも女性にモテそうな容姿をした、第一王子ナロウ。
王子にべったりくっついている、ピンクのふわふわ髪の、あざとい表情の男爵令嬢プリシラ。
二人に対峙しているのは、王子の婚約者、公爵令嬢コンスタンス。
そして、そのコンスタンスを守るように立っている、彼女より五歳年上の兄であり、妹の護衛騎士役のオスカー。
『王子とその愛人 対 婚約者とその兄』
という、小説にでも出てきそうなシチュエーションに、好奇の目を向ける生徒たち。
会場中の視線が集まる中、婚約者コンスタンスが冷静に口を開いた。
「殿下、先ほどからも申し上げておりますが、わたくしはそのようなことをしておりません」
王子が、眉間にギュッとしわを寄せると、怒気を含んだ声を張り上げた。
「往生際が悪いぞ! お前にプリシラの教科書の廃棄を命じられた令嬢や、裏庭の廃教室に呼び出すように言われた令嬢が名乗り出てきているのだぞ!」
王子に縋りついているプリシラが、目に涙をためながら震える声で言った。
「わたし、何度も廃校舎に呼ばれて、いじめられました! コンスタンス様と知らない人たちに囲まれて、突き飛ばされて、この通り傷が!」
プリシラが袖を捲ると、そこには痛々しい傷跡。
群衆から「まあ、ひどい」「まさか本当なのか」といった声が漏れる。
王子が人差し指をコンスタンスに突き付けた。
「権力を笠に着て、弱い立場の者をいじめ、乱暴するなど、言語道断! そんな女は王妃にふさわしくない! 婚約を破棄する! 衛兵! 今すぐこいつを連行して閉じ込めろ!」
オスカーが妹を庇うように前に出た。
「妹は何もしていないと言っております。片方の言うことだけに耳を傾けて断罪するなど、あっていいことではございません。調べ直しを具申いたします」
王子が、ギロッとオスカーを睨んだ。
「いくら兄とはいえ、騎士が犯罪者を庇い立てするなど、許せることではない! 同罪に処する! こいつも連れていけ!」
王子の言葉に、会場を囲むように配置されていた衛兵たちが、兄妹を取り囲むようにゆっくりと動き始める。
オスカーが、そんな彼らを冷えた表情で見据える。
一触即発。そんな空気のなか、
「……あの、すみません」
静まり返った会場に、どこか淡々とした女子生徒の声が響き渡った。
場の雰囲気に圧倒されていた生徒たちが、はっと我に返って振り向くと、そこには蜂蜜色の髪をした女子生徒が立っていた。
「なんだお前は!」
神経質に指で腕をトントン叩きながら、機嫌が悪そうに問う王子。
彼女――この物語の主人公である子爵令嬢クロエは、冷静に王子を見返すと、ゆっくりと口を開いた。
「お取込み中、申し訳ないのですが、何点か訂正させていただいてもよろしいでしょうか」
「……は?」
呆気にとられる生徒たち。
王子たちの、お前は何を言っているんだ、とでも言いたげな反応をながめながら、クロエは心の中でつぶやいた。
さようなら、わたしの平和な研究生活。
本日、あと3話ほど更新します。