1 こいつはゴリピュア
1人暮らしの部屋に、ゴリラが住みついた。
なぜか、革ジャンを着たゴリラが。
今は、俺の目の前でバニラのカップアイスを食べながら、タブレットで某有名タイムリープアニメを視聴している。
俺は、そいつを見ながら、今こうしてパソコンでその様子を記録している。
「話には聞いてたけど、〈某有名タイムリープアニメ〉っておもしろいな。これって、元々ゲームなんだっけ?」
アイスの底を舐めながら、ゴリラが聞いてきた。
「らしいな。たしか〈某有名ゲームハードP〉だったと思う。」
「ふぅん、やってみてぇなぁ。フルボイスなのかなぁ…。」
「実況動画でも観たらいいんじゃない?」
「おいら、実況動画観ただけで、ゲーム語るようなゴリラにはなりたくないから。」
「…そうか。」
どうやらゴリラにも、譲れないプライドがあるらしい。
「ゲーム実況者っていいよなぁ、ゲームしてるだけで金稼げるなんてさ。あいつらこの国に生まれてなかったら、今頃何の仕事してんだろうな?」
「いや、ゲームするだけじゃないだろ。トーク力とかも必要だろうし。」
「言うほど、トーク力って必要か?今なんて、可愛いアバター身につけて、アニメ声で『リスナーさん大好き♡』とか言ってるだけでスパチャ飛んでくる実況者とかいるじゃん。お前、そいつの前でお話上手ですねって言えるか?」
「…Vtuber嫌いなん?」
「…。」
ゴリラが観ていたタブレットの電源を消し、俺の目をまっすぐ見てきた。
「…Vtuberが嫌いな訳じゃない。むしろ、ライブとかしてたらどの箱の配信でも手あたり次第観るよ。ただ、明らかにVtuberを見下しているVtuberがいるんだよ。アニメ声なのに、配信外では『わたしは他の人とはちがう』みたいな感じで、一線引いてる感じが伝わってくるんだよ。『まぁ、これが軌道に乗らなかったら、エロボイスでも売ろうかな』みたいな計画が筒抜けなんだよ。おいらは、そういうVtuberが嫌いなの。分かる?」
「じゃあ、観なかったらいいだろ。」
「いや、観るよ。」
「は?」
「嫌いだけど、観るよ。」
「なんで?」
「だって、きっとVtuber見下してるんだろうなって伝わってきても、そんなタイプの人間が恥ずかしげもなくリスナーに媚びてくるのって観てて気持ちいいじゃん。この前、そんな奴に10000スパチャしたら、『”ダンディゴリラ”さんありがと~!超嬉しい!』って喜んでてさ。キャバクラってこんな感覚なんだろうな。まぁ、個人勢だったから場末のスナックくらいかな。ガハハッ。」
「いや、おい待てよ。」
「うん?」
「お前、今いくらスパチャしたって言った。」
「…やべっ。」
「10000円、スパチャしたって言ったよな。どこから出した?」
「…。」
「どこから出した?」
「…、お前のアカウントから。」
俺は、ゴリラの顔面目掛けて思いっきりこぶしをふるった。
ゴリラは、奥のクローゼットまで飛んで行った。
人間なら、たいへん危険な打撃だが、ゴリラだし平気だろう。
「一か月以内に返せよ。」
「わがった…。」
ゴリラは、鼻を抑えながら返答した。
その後、食卓に置いていたバナナをもって、台所へと向かって行った。
「…一応言っておくけど、うちのレンジはタイムマシンじゃないからな。」
しょんぼりした顔をしたゴリラがバナナをくわえて戻ってきた。
意外とゴリラはピュアな奴だ。
【 調査報告 】
うちのゴリラは、純粋なクズである。
男の娘プリキュア大歓迎です。