遺産の内訳
超短編。思い付きの徒然。
兄は生まれつき体が弱かった。
その為両親は介助に付ききりになり、僕は3つの歳で独りで過ごす事に慣れた。勿論自身での記憶は無いけれど。彼らの必死の祈りも虚しく、兄は10歳で逝った。両親は途方に暮れ、後を追って逝った。僕が5つの時だ。
末端貴族であった我が家は領地と爵位を返上して、多くはないが少なくはない遺産を手に市井へ下りようとしたところ、生まれた頃より馴染みであるらしい隣領主が後見を引き受けて、15になるまでおつかい程度の簡単な仕事で食客扱いで世話になった。
隣領主の計らいで代行を立てていた我が家の領地を、教育を凡そ終えた僕に権利を戻すと言う。僕のような小僧に一体何ができようか。頭を抱えてしまうような言い様に、これまで10年の恩がのし掛かり首を縦に振る事にした。
曰く、領地の上にあるものは全て遺産だと。
然り、と思う。が、あまり大切にされた記憶がない親の遺産など大した有り難みも無いのは事実である。
この歳にありがちな反抗心もあり、運用には身が入らない。代行して来た男をそのまま幾ばくかの給金で相談役に据え、自身は日がな市井をふらついていた。
僕自身の同情的な生い立ちや幼さもあり、不安げな噂の1つでも耳に入るかと思っていたのだ。失敗したときの言い訳の為に。
だがどうだろう。僕の話など領民から出る訳もないのだ。脅かされるものがなければ日々の生活の方が大切で、頭にすげる者は誰だっていいのである。何かあった時の責任さえ取れさえすれば。
凡そ遠からず、と理解して肩の力が抜けたのだった。
最悪この首さえ差し出せばいいのだ。自棄にはならぬが同時に膝の力も抜け落ちそうで、両手で顔を覆った。
そこへ脇の路地からまだら色の猫が1匹近寄って、足元へ額を押し付けたり尻尾を纏わりつかせたりしてきた。隣領主の館でも飼ってはいたが、ここまで近づいてくることはなかった。
何度か往復して体を擦り付けると、にゃあと一度鳴き離れていく。一縷の寂しさを抱いたが、この猫も遺産の内かと思い直して猫とは反対の方へ足を向けた。
了
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