進級
「加藤は美容専門か?」
担任の東先生の図太い声がする。進級したばかりだから二者面談するぞと張り切って提案をしてきて、放課後少しずつクラスの全員と話をしてる。授業もこなしてるのに疲れた表情は全く見えない。
この人ほんと元気だな、、、
『はい。美容専門に行きたいです。行きたい学校もある程度目星はついています。』
「そうか、、、その、、、加藤が美容師になることに対して、、、親御さんは何か言っていたか?」
『母親はなりたいなら応援する、と、、、父親はまだちゃんと話をしてはいないですけど、、、』
「そうか、、、その、、、、」
いつもの元気を感じれないくらい歯切れの悪い顔をする東先生に違和感を感じる。
「美容師になることについてちゃんと調べたのか、、、?こんなことは言いたくはないが、美容師は時間もないしお金もない。女の子ならまだしも加藤は男だろ?この先の将来のことを考えたら好きな女とその子供養って、、ってやっていけるのか?」
『え?』
ドクンと心臓が揺れる。三浦凛の言っていた言葉が頭をよぎる。
「見た目もチャランポランなやつが多いし、先生も1000円カットで髪切ってるぞ。加藤は地頭も悪くないし今からなら受験勉強もまだ間に合うし、もうちょっと考えて見てもいいんじゃないか?」
『えっと、、、でも俺、、、』
「あのな、先生は加藤のことを想って言ってるんだぞ。親御さんともう一度よく話して、現実的に考えなさい。美容師が良くないとは思わないけど先生は加藤に幸せになって欲しいと思っている。よし、また話そう。とにかく親御さんと話してからだな」
にかっと効果音がつきそうな先生の笑顔を見て黒いもやが落ちた。
ーーーーー
「ーーーくん。加藤くん」
『あっつごめ、、ボーとしてた。』
美術室は独特な香りがする。絵の具の匂いと、春の香りが混ざって特別な空間のように感じる。
「隣の席の人とペアになってお互いの人物像だってさ。」
そう言いながら隣の席の前田さんがえんぴつを走らせる。
前田さんの後ろに見える窓の外の空は雲ひとつない。
俺の心と反対だな、、、
視線を空から前田さんに移す。黒髪の、ひとつ結びの、最近よく見る、、、、三浦凛とはま反対の彼女。
『っっうっまいな。前田さん』
「まあ美大志望だしね。ある程度は絵描けないと」
『え!?前田さん美大行くの?どうりで、、、、いや、こんだけ上手かったらそれは行くよな、、
』
「加藤くんは美容学校だっけ?凛ちゃんと同じ、、、」
前田さんの視線が一瞬三浦凛にうつる。
「加藤くんが美容学校志望なの、ちょっと意外だなって思ったけど明るいし向いてると思う。美容師って、素敵だよね。」
素敵、、、
『うん、、、俺知らなかったんだけど、やっぱり美容ってそんなにいいイメージないのかな?』
思わずため息が出る。前田さんはびっくりしたような表情を向けて、すぐに視線をキャンパスに戻した。
「人って自分の理解のできる範疇でしか判断できないからさ。」
『え?』
「美大に行くって言ったらみんな何も言わなかったの。それって美大に行ったその先に何があるかわかんないから何も言えないんだと思うんだよね。でも美容師って、美容って、びっくりするくらい自然に日常のなかに溶け込んでない?」
美容、、、毎朝のセットにスキンケア、女の子はメイクもして、日常で美容をしない日は存在しない。
『たし、、かに』
「わかってしまうから、あまりにも日常に溶け込んでしまっているから、人はわかる範囲でその物事を全てだと思ってしまうんだよね。本当はどの世界ももっと奥が深くて、広いはずなのにね。」
「だって人から見えてる美容と、加藤君から見えてる美容って、違うものでしょう?」
「それならいちいちその違いを嘆くより、私なら絵を書くなあ。だってすべての世界が見えてる人なんていないんだし。」
前田さんの後ろに広がる空を見た。
さっきとは全然違って見えた。




