進級
「知ってる?3年生で美容学校に進学志望してるの2人だけなんだよ。」
中庭のベンチ、桜を見ながら横を見るとブラウンの髪が揺れていた。
『え?2人!?』
俺と、、
「うん。加藤と私。私も美容専門に行く予定なんだ」
『え!?マジで!?』
三浦凛が美容学校。うわーめちゃくちゃしっくりくる。3年生になっても相変わらず華やかで、相変わらず先生に呼び出されている。この人はずっと、何も変わらない。
「私中学2年生の頃から美容師になりたくてさ。」
『え!?』
「自分の見た目がコンプレックスだったことがきっかけ。目も、鼻も、輪郭も、全部嫌い。でもメイクって違う自分になれるじゃん?自信がつくというか、戦闘服というか、これでやっと、私は戦えるんだよね。」
「なんかさ、なんで認められないんだろうってよく思うんだけどさ。」
「みんな大学に行くために勉強してるわけじゃん?努力の方向が違うだけで、私だって夢のために着飾って好きなことを極めてんだよ。髪の毛も、メイクも。確かにルールかも知れないけど私だって本気でこれを職業にしようとしてる。みんなが勉強をするのと私が美容に取り組むのってなんら変わりないと思うんだけど、周りと違うだとか成績の優劣だとかで私の努力も想いも評価の土俵にすら上がれない。この小さな世界で、私が認められることは絶対にない。」
びっくりして横を見た。三浦凛の今までの行動に意味があるなんて思いもしていなかった。
「私高校受験諦めてたんだ。早く美容師になりたいって気持ちが強くて、中学卒業した瞬間に高卒が取れる美容学校に行こうとしてて、、、でも親が高校くらいまともに行っておけっていうからとりあえず受けた。滑り止めは絶対に受けないから落ちたらそのまま専門に行くつもりで。」
「だから高校生活の3年間、私にとってはひたすら足踏みだったの。追いかけたいものがあるのに、追いかけるすべがない。それなりに楽しいけれど、心の奥にある情熱を燃やせはしない。」
!!
『っっわっかる!その、足踏みとかその気持ち!俺も美容学校のオープンキャンパス行ってからずっとその気持ちで、、、ワインディング巻くの、1本巻くのにすげー時間かっかったんだけどその感覚忘れられなくて、、、今こんなに時間あるのに俺は何してるんだろうって、、、』
や、、、何熱くなってんだ俺、、、恥ずかしくなって目を逸らしながら三浦凛を見たら優しそうな顔で彼女は笑った。
「いいね。加藤はその感じわかってくれると思ってた。私が行きたい美容学校、AOエントリー6月からなんだ。」
『え?もうすぐじゃん』
「うん。1年生の後半には美容学校リストアップして、2年生の初めにオープンキャンパス行きまくってここだ!って思ってそこにすることにした。サクッと内定もらったらウィッグ支給してもらえるからお家で練習とかできんだ。長期休みには実習も行けるし、、、」
『え!?まじ!?羨ましい!』
「でしょ、、、でも6月ってさ。多分学年で1番私が内定もらうの早いの。まあ当たり前だよね。行動してる期間が違うんだから。エントリーシートの話持っていったら先生なんて言ったと思う?」
風が三浦凛の髪を揺らす。
「素行の悪い生徒を学校の1番最初の内定者にすることはできない。他の専門志望のAO入試の子たちと足並みを揃えて10月に受けろ」
切長の彼女の目が開く。
「どうしてこの努力は認められないんだろう。誰よりも進路に対して真面目に取り組んで、将来のことを考えて、行動してきたのに、、、いや、もう認められなくてもいいから邪魔しないで欲しい。学校の先生って、夢を応援する立場じゃないのかな、、、私、美容師になりたい。心から。」
声が震える三浦凛を見た。自由なはずの彼女は、檻に入れられているように見えた。




