第82話 この場とは?
「これはローラン様!この度は本当に助かりました。ローラン様があの男を連れてきていただかなければ、ドルネル卿を取り逃していたかもしれません。本当に感謝しております」
奴隷狩りを行っていた男はすでに国の憲兵に引き渡されているので、ローラン様の後ろにはルーさんとラウルさんの2人だけだ。
「いえ、領主が襲われたとなれば、妾も他人事ではありませんからね。お役に立てて何よりです。それにいつも美味しい新作ケーキを届けていただいておりますからね、これくらいお安い御用ですわ」
うん、いつもの猫被りモードだ。普段のローラン様の口調からすると違和感しかないな。
「ありがとうございます。このご恩は忘れません、フローレン家で何かございましたら必ず力になりたいと思います」
「ありがとうございます。その際はお力を貸していただけると助かります」
「ええ、お約束します。これからもどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いしますわ。そうですわ、ユウキ殿にお聞きしたいことがあるのですが、少しお借りしてもよろしいですか?」
「えっ、ユウキですか?えっと、はい。ユウキ、大丈夫?」
「ええ、もちろん」
たぶん貸しの件についてだろう。少しだけローラン様の前に出る。さすがにみんなの前でいつもの口調はまずいからな。
「ローラン様、この度は誠にありがとうございました。ルーさんが連れてきてくれた奴隷狩りをしていた男の証言のおかげでドルネルを追い詰めることができました」
「いえ、ユウキ殿との約束を果たしたまでですよ。妾に何か困った事がありましたら、今度はユウキ殿が助けてくれると嬉しいです」
ふむふむ、要約すると……貸しは必ず返せよな、踏み倒すんじゃねえぞコラ、ってことですね、わかります。
しかし、今回は本当に助かったのは事実だ。ローラン様のおかげでドルネルを追い詰めることもできたし、言われなくてもこの借りは絶対に返さないといけないな。
「はい、もちろんです!私にできることでしたら何でもおっしゃってください」
「ええ、その際には声をかけさせてもらいますね。それでユウキ殿、ひとつお伺いしたいのですが、妾のことはどう思っておりますか教えてくれませんか?綺麗な女性だと思ったりしていますか?」
んん、なんだその質問は?意味がわからん。てっきり今回の貸しの件について具体的に話すのかと思っていたんだが。
「えっとローラン様のことですよね?もちろんとても綺麗な女性だと思っておりますよ。少なくとも私の知る女性の中では一二を争いますね」
「っ!!」
よくわからないが、なぜか質問をしたローラン様が動揺している。おかしいな、別に変なことは言ってないと思うのだが。
それに嘘は言っていない。ローラン様の外見だけなら元の世界を含めても一二を争うくらい綺麗な女性だと思っている。それに今では少し尊敬もしている。まあ性格には大いに難ありだが。
「正直に申し上げまして、出会った当初は奴隷の扱いが非常に厳しく、怖い方だと思っておりました。ですが、厳しくもとても聡明なお方でルーさんやメイドさん達にも慕われており、今回も私達を助けてくれて、今では尊敬できる女性だと思っております」
「……わっ、わかった、わかった!」
……うん?今の質問に何の意味があったのかさっぱりだ。なぜかローラン様は顔を真っ赤にしてこちらから視線を外している。
「……ねえ、ユウキ。私のことはどう思っているか教えて?綺麗だと思う?」
なぜかエレナお嬢様まで出てきた。もう訳がわからない。
「えっとエレナお嬢様はまだ幼いので綺麗というよりは可愛らしいでしょうかね。ですが大人になればローラン様に負けない以上に綺麗になると思いますよ」
「っ!!」
エレナお嬢様まで動揺している。
「私やマイルやサリアを救ってくれました命の恩人で、幼くも優しく聡明で、最も尊敬しております。エレナお嬢様に仕えさせていただいて本当に幸せであると思っています」
「……うう」
エレナお嬢様もローラン様と同じく顔を真っ赤にして俺から視線を逸らす。さっきから2人とも本当にどうしたんだ?確かにちょっと恥ずかしいようなことを言ったけど、別にこんなの貴族達の社交辞令なんじゃないのか?
「ではユウキ、他はどうじゃ?ほれ、妾の性格とかはどう思う?」
おい、猫被りがはがれているけど大丈夫か?というかさっきからあんたは何を聞いてくるんだよ。
「先程もお伝えしましたが、とても聡明で尊敬もしておりますよ。あと優しくて性格もとても良いと思い……いだだだだだだだ!!」
痛い、痛い、痛い!
なんだ急に身体中に激痛が!これは奴隷紋による罰か!?なんでだよ、エレナお嬢様を傷付けようとなんてしてないぞ!
「ユウキ、大丈夫!?待ってて、今奴隷紋の罰を解除するから!」
「……ちっ、それは嘘か。まあよい、とりあえず妾は満足じゃ。それではアルガン様、大変お騒がせしましたわ。妾はこれで失礼します、今後ともよろしくお願いしますね」
「えっ、あっ、はい。こちらこそよろしくお願いします!……って、ユウキ!しっかりして」
いでででで!
エレナお嬢様が両手を掲げて祈るようにすると奴隷紋による痛みが消えてきた。訓練での痛みには慣れてきたが、やはりこの奴隷紋による激痛は我慢できるものではない。
よくわからないがローラン様は何かに満足したらしく、ルーさんとラウルさんを連れて大広間から出ていったようだ。
それにしても何が起こったんだ?なんで奴隷紋が発動したんだよ?
「……ユウキ、まさかとは思うが嘘をついたら奴隷紋が発動することを忘れてないか?」
アルゼさんが指摘する。
「えっ!?でも国王様との話は終わりましたよ」
あれから時間は経ったがちゃんと覚えているぞ。確かエレナお嬢様はこの場での嘘を禁じると言っていたはずだ。国王様との話が終わったんだから、もう奴隷紋の罰は受けないはずじゃないのか?
「エレナ様はこの場での嘘を禁じると言っていたから別に国王様との話が終わったとしても、この大広間にいる間はその命令は続くのではないか?」
そういうことか!この場って場所の方の意味かよ!機会の方の意味かと思っていたわ!
じゃあ何か、さっきまで俺が話していたことはみんな俺の本心であることが丸わかりだったというわけか。おう、なんかもの凄く恥ずかしくなってきた。
「……場所ではなくて国王様と話している時間だと思っていました」
「なるほどそういうことか。まあエレナ様への忠誠心があることがわかったから良しとしよう」
全然良くない!
いやそれはいいんだけど、俺がローラン様を綺麗だと思っていることとか、エレナお嬢様を可愛いと思っていることとか本人達にモロバレじゃないか!
しかもローラン様の性格に難ありと思っていることまでバレてしまった。絶対に次に会った時にネチネチ言われるに違いない。
「ふふっ、ありがとねユウキ。私もユウキにはとても助けてもらっているの。あなた達が屋敷に来てくれて本当に幸せだと思っているわ!」
「っ!!」
今度は俺の方が恥ずかしくなってきた。これは2人が恥ずかしがるのもわかってしまうな。
「さあ屋敷に戻りましょう、みんなきっと心配していると思うわ」
「はい!」
そうだな、みんな今日の結果を知りたがって待っているはずだ。早くみんなに教えてあげないとな。
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誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けますと非常に嬉しいです( ^ω^