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第78話 勝負の時


 街の中ならどこからでも見ることができる街の中央に大きくそびえ立つ城。レンガの上から真っ白に塗られた壁。この街はこの国の中心地、つまりは王都であるため、この城にはこの国の王様がいる。そしてこの国を治めているのは国王様だが、この街を実質的に取り仕切っているのはエレナお嬢様を含む3人の領主である。


 そして今日は国王様と3人の領主が一同に集まる日である。緊急の招集を除けば一年にたった2回しかないらしい。




 煌びやかな装飾品、地面には質の良さそうな赤い絨毯、天井にはこれでもかと金色に輝き光るシャンデリア。さすがにこの国の中心である城の部屋の内装はおそろしく豪華な造りとなっていた。


 ローラン様の屋敷も豪華で美しかったが、ここは更にそれの上をいっている。まあ国の中心地のお城よりも一領主の屋敷の方が豪華だったらそれはそれで問題か。もしかしたらローラン様もある程度は空気を読んであれくらいの豪華さにしたのかもしれない。


「それではこちらからの通達は以上となります。続きまして各領主様から何かございますかな?なければ功労賞の儀に入らせていただきたいと思います」


 国王様の前にでて進行を取り仕切っているお爺さんは宰相さんらしい。そして奥の椅子に座っているのがこの国の王様だ。奥の方に座っているため少し距離があってよくは見えないが、真っ白な顎ヒゲを生やしているからそこそこは高齢なのだろう。


 宰相の前には領主であるエレナお嬢様とローラン様、そしてもう1人の領主がいた。こちらの領主を実際にこの目で見るのは初めてだ。エディス=オブ=ファウラー様、エレナお嬢様とローラン様と並ぶこの街の3人の領主のうちの最後の1人だ。


 初老の40代と事前に聞いていたのだが、とてもそうは見えない。下手をしたら20代にも見える渋いイケメンである。あれで領主ならさぞおもてになるでしょうよ。


 そして各領主の後ろには一人ずつ従者が控えている。エレナお嬢様の後ろにはアルゼさん、ローラン様の後ろには鎧を身につけたラウルさん、ファウラー様の後ろには灰色のローブを身につけた魔法使いと思われる若い女性がそれぞれ控えていた。


「国王様!アルガン家より至急ご相談したいことがございます」


 エレナお嬢様が手を挙げる。さあいよいよ勝負の時だ。


「国王様、アルガン家より何かあるそうですがいかがいたしましょうか?」


「聞こうではないか」


 奥の椅子に座っていた国王様が立ち上がり前に出てきた。杖をついてゆっくりと歩いてくるところを見ると足がそれほどよくないらしい。先程より近くで見るとかなりご高齢の老人であることがわかる。だが荘厳な顔つきをしており、国王としての威厳があるように俺には見える。


 国王様が前に出てくると、宰相様や3人の領主、そしてその従者も片膝をついて頭を下げる。


「はい、ありがとうございます。先日我がアルガン家に襲撃があったことはご報告させていただきましたが、その襲撃犯が判明致しました」


「ふむ、確か調査を行った者達によるとルーゼル=ロイルという貴族が犯人だったのではなかったのか?」


「はい、確かにルーゼルも襲撃を行った者の一人ではありましたが、黒幕はまた別におりました。ルーゼルの屋敷を我が従者が確認しましたところ、不審な点がいくつかございまして、アルガン家の方でも調査させていただきました」


「なるほどのう。ルーゼルの屋敷を調査した者達の見落としの件については後ほど言及するとして、その黒幕とはどいつのことじゃ?」


「はっ!今この場にいる上流貴族のドルネル=マーカムです!」


 ざわざわと周囲がざわめき立つ。エレナお嬢様達の後ろにはこの街にいる上流貴族達やその従者、そしてギルドマスターであるガードナーさんもいる。俺も後ろの方から今の状況を伺っている。


「何を言う!アルガン様、出鱈目を言うのはやめていただきたい!」


 俺らの少し前の席にいたドルネルのやつが大声をあげ捲し立てる。


「……ふむ本人も来ておったか。ドルネルよ、前に出てきてもらおうか。アルガンの娘よ、説明をしてもらおう」

 

 ドルネルのやつが前に出てきてエレナお嬢様と相対する。代わりにローラン様とファウラー様が少し後ろに下がる。


「はい、それでは説明させていただきます。まずアルガン家に襲撃してきた者達は……」

 

 それからエレナお嬢様は襲撃した者達の数を報告し、ルーゼル一人では襲撃の費用をまかなえるものではないということを国王様や宰相に説明した。状況的に資金と権力を持った黒幕、あるいは協力者がいることは間違いないと言うこともあわせて説明する。


 そして、前回ドルネルの屋敷に行った時は話していなかったドルネルからルーゼルへの不自然な金の譲渡についてを言及する。


「それではドルネル卿、なぜこのような大金をルーゼルに譲渡したのか納得のいく説明をお願いします」


「……ですからそれはルーゼルより資金の借入がありましてそれに応えただけです」


「担保となる資産もないのにこんなに大量の資金をですか?それに借入なら正式な書類を交わせばいいのになぜ隠すように譲渡したのですか?」


「ルーゼルのやつとは多少付き合いがありましたからな、担保などは不要と判断しました。正式な書類を交わすと手続きが面倒ですから省かせていただきましたにすぎません」


「前回屋敷をお尋ねした時はそんなこと何もおしゃってはいませんでしたね」


「……いえ、突然の訪問でしたのでね、多少動揺してしまいまして、話すのを忘れておりましたよ」


「では冒険者ギルドに依頼して魔法使いや傭兵を探し、集めていたのは何故ですか?こちらの調査によると依頼を出したのはルーゼルですが、実際に報告を受けていたのはドルネル卿であったということですが」


「……ええ、先日この街の近くで変異種が出現したと聞いております。ワシも屋敷の守りを固めたくて魔法使いや傭兵を雇おうと思いましてね、ルーゼルのやつと合同で依頼を出したのですよ」


「その依頼で集められた傭兵や魔法使いが人質を取られて脅されたり、絶対にバレないと騙され大金を積まれてアルガン家の屋敷を襲撃しました。これでも襲撃にあなた本人が関わっていないと言えるのですか!」


「どうやら冒険者ギルドに依頼した調査結果をルーゼルのやつが悪用したようです。ええ、私は今回のアルガン家襲撃とは無関係ですな」


「っ!!」


 くそっ、ドルネルのやつはさっきからずっとこんな様子でエレナお嬢様からの追及をかわしている。いや、はっきり言ってかわしているとは言えない。どう考えても状況的にドルネルのやつがルーゼルを利用、あるいは協力をしていることは間違いない。


 だがどうしても物的な証拠を見つけることができなかった。文明レベルの進んでいないこの世界では科学的な調査は難しい。だがこれだけの状況証拠があれば裁判員制度なら間違いなく陪審員の天秤はこちら側に傾くはずだ。


 だがここは異世界、決定的証拠がない以上、君主制であるこの国で全てはこの国王様の判断次第となる。


「国王様、どのように見てもドルネル卿が今回のアルガン家襲撃に関わっていることは明らかです!どうか正当な裁きをお願い致します!」


「何をおっしゃられる、濡れ衣ですぞ!国王様、アルガン様は此度の襲撃の犯人をワシに無理矢理押し付けようとしております、何卒正当な裁きを!」


 判断は国王様に委ねられた。肝心の国王様はエレナお嬢様の話をしっかりと聞き、理解しているようにも思えた。だが、今は迷うそぶりを見せながら横にいる宰相と話をしている。さすがに今の話を聞いて無罪放免になる可能性は低いと思うがどうだ?


「……両者の言い分は分かった。確かにアルガン卿がドルネル卿を怪しむ気持ちはわかる。じゃが、確実たる証拠がないのも事実。同じ領主としての意見も少し聞きたいのじゃがエディス卿とフローレン卿についてはどう考える?」


 やはり即答はできないのか。国王様はエレナお嬢様と同じ領主である2人の見解も気になるようだ。


 だがこれは好機でもある。ローラン様はこちらに味方してくれるだろうから、ファウラー様がこちらに味方してくれれば全領主が同意見となりこちらが圧倒的に有利となる。


 惜しむべきは事前にファウラー様にアルガン家からコンタクトを取れなかった点である。アルガン家では前領主よりエディス家とそれほど繋がりがなかったため、事前に面会の機会を得ることができなかった。


「……そうですな。私と致しましては話を聞く限りドルネル卿が不審に思えるのは事実。ですが、今結論を下すのは早計かと思われます。確たる証拠もなしにドルネル卿を処罰し、間違えたる結果であれば大きな問題となりましょう。ここは一度仕切り直して調査を改めて行うということではいかがでしょう?」


 くそっ、ファウラー様はドルネルよりらしい。だが今回の機会を逃してドルネルに時間的な猶予を与えるのはまずい。新たな工作をする可能性もあるし、逃亡の恐れもある。そして何より完全に疑われるとバレた今、再びアルガン家を狙う可能性も出てきてしまう。


「なるほどのう。貴重な意見を感謝する。さてフローレン卿の意見はどうじゃ?」


 ローラン様はこちらに味方してくれるから大丈夫なはずだ。これで意見は一対一か。……いや大丈夫だよね?具体的な協力の約束はしてないけれど裏切ったりしないよね?


「……妾は」




 バァン!


 ローラン様が話をしようとした瞬間、突如この大広間の扉が開かれた。そして扉の中から俺としては見慣れているふさふさとした毛並みとケモミミを持った狼の獣人、ルーさんが姿を表した。


「……我が主人、遅れまして申し訳ございません!」


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