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第77話 俺が間違っていました

すみません、昨日の投稿が1話飛んでしまいましたので修正しました。大事なところだったのに本当に申し訳ございません。


感想にて教えてくださった方、本当にありがとうございました。また、いつも誤字脱字報告、いいね、ブクマ、評価をくださっている方々、とても励まされております!引き続きお付き合いいただけますと幸いです(o^^o)


「ぐぎぎぎぎ」


「これくらいドルネルの屋敷から離れればいいでしょう。エレナ様、奴隷紋の解除をお願いします」


「ええ、わかったわ。お願い、痛みよおさまって!」


 エレナお嬢様が両手を組み、祈るように前に差し出す。すると全身を襲っていた激しい痛みが嘘のように引いていった。


「がはっ!はあっ、はあっ!」


「ユウキ、大丈夫!もう痛くない?」


「はあ、はあ。くそっ、なんで止めたんだよ!」


 グイッと乱暴にエレナお嬢様を払い除ける。俺を心配してくれているのはわかっている。だがそんなことよりも今はドルネルを殴ることを邪魔されたことに対して憤りを感じていた。


 バキッ


「ぐっ!」


 左頬をアルゼさんに思いっきりぶん殴られた。痛い、だが日頃の訓練でこの程度の殴られる痛みなど慣れている。


「貴様は自分が何をしたか分かっているのか?今までみなが準備していたこと全てを台無しにするところだったんだぞ!」


 アルゼさんが俺の胸ぐらを掴み強引に立たせる。


 ……正論だな。ああ、正論だよ。あのまま俺があいつをぶん殴っていたら、せっかくみんなが調べてくれていた全てを台無しにするところだった。俺も奴隷が貴族に手をあげたとして死刑になっていたとしてもおかしくはない。


 だけど、それでも俺は止まることができなかった。俺の目の前で死んでいったモラムさんに対してあれだけのことを言われて我慢できる訳がなかった。


「うるさい!アルゼ様こそモラムさんのことをあれだけ悪く言われてよく我慢できましたね!ああそうか、あんたにとってはアランさんやカーソンさんはたかが門番でモラムさんもただの犯罪奴隷の1人でしたよね。どうせあんたもドルネルと同じで奴隷なんてただの物と同じだと思っているんだろうが!」


「……ガキが!」


 またぶん殴られるかと思ったが、アルゼさんの拳が飛んでくることはなかった。代わりに胸ぐらを掴んでいた手が離され、俺は地面に崩れ落ちた。


 そうだよ、モラムさんは犯罪奴隷だ。あれだけ奴隷を憎んでいたアルゼさんやリールさんが、たった半年間一緒に過ごしただけで気を許す訳がなかったんだ。工場のみんなとあれだけ楽しそうにしていたのも全部俺の勘違いだったんだな。もう全てがどうでもいい、全てをぶち壊す覚悟でドルネルを今から殺しに行ってやろうか。


 パシンッ


「……っ!!」


 一瞬何が起こったか分からなかった。顔を上げると目の前には涙を流しながら俺を見つめる瞳がある。崩れ落ちて座り込んでいた俺の左頬をエレナお嬢様が叩いたのだ。


 もちろんアルゼさんに殴られた時に比べたらほとんど痛みなんてない。痛みよりもあの優しいエレナお嬢様が手をあげたことによる驚きの方がはるかに優った。


「馬鹿なことを言わないで!モラムやアランやカーソンが死んだ時、みんながどれだけ深く悲しんだのかユウキは知らないでしょう!


 アルゼもリールもシェアルも3人のためにできる限りのことをしたいと私に言ってくれたし、3人が亡くなった日の夜、アルゼが部屋で3人のために大事なお酒を空けて献杯していたのを私は見たわ!」


「……アルゼ様がそんなことを?」


「お父様が亡くなってからはみんなこの屋敷を辞めてしまって、アルゼもリールもシェアルも私もみんな心から笑えていなかったわ。ユウキやマイルにサリア、モラムやガラナに工場のみんなが来てくれて、お店や工場もすごく順調で、やっと屋敷のみんなも本当の笑顔で笑えるようになってきたの!


 この前工場で開いた宴会もみんなで美味しいご飯を食べて、みんなは自分たちで作った美味しいお酒も飲んで、とってもとっても楽しかったわ!それなのに3人が死んで悲しくないわけがないじゃない!誰もモラムのことを物なんかに思っているわけがないでしょう!ユウキのバカ!!」


 エレナお嬢様は大泣きしながら俺の胸に抱きついてきた。まだ幼く小さな体は少し震えている。


 ……俺は馬鹿だ。みんなが辛くないわけがないじゃないか。エレナお嬢様だってこんなに幼いのにまた命を狙われて怖い思いをして、また近くにいた人達が殺されたんだ。


 それなのに俺は一時の感情ですべてを台無しにしかけ、挙げ句の果てには主人であるエレナお嬢様やアルゼさんに八つ当たりをして喚き散らして。……アルゼさんの言っているように本当にただの自分勝手なガキじゃないか。


「……ごめんなさい、俺が間違っていました」






「……ぐすっ」


 あれからしばらくエレナお嬢様は俺の胸の中で泣き続け、ようやく泣き止んでくれた。俺の方もようやく頭が冷えて冷静になってきた。


「……頭は冷えたか?」


「はい、みんなが必死に調べてくれたすべてを台無しにしてしまうところでした。それにエレナお嬢様やアルゼ様には本当に酷いことを言ってしまいました。本当に申し訳ございません」


 もう何度目か分からないけどアルゼさんに頭を下げる。


「ようやく冷静になったようだな。ドルネルを今殴ったところで何も意味はない。例えあいつと差し違えたところで3人は絶対に喜ばん。それよりも今は耐え証拠を集めろ。領主を襲撃したことさえ証明できれば、例え上流貴族であろうとも死罪は免れない。3人の仇を討ちたいのなら、まずはそのことを第一に考えろ」


 そうだな、仮に俺があいつと差し違えたとしても俺は死罪でアルガン家も何らかの罰を受ける。モラムさんやアランさん、カーソンさんがそんなことを望むはずがない。


「直接話をしてみて確信したが、やつは間違いなく今回の襲撃に関わっている。モラムやアランやカーソンの命は必ずやつの命をもって必ず償わさせる!」


「はい!」


「ユウキにはまだ話していなかったが、1週間後にこの国の国王様と3人の領主、上流貴族が一度に集まる会がある。この会は半年に一度開かれ、領主や貴族達からは状況の報告をし、何か功績があればそれをたたえて褒美がもらえる」


 元の世界の会社の決算期みたいなものか。この国の国王にはまだ会ったことがないけれど、どういう人物なのだろう?


「そこで今回の襲撃の犯人としてドルネルを告発する。その場には国王様やもう2人の領主様も参加するから、そこでやつの罪が認められれば間違いなくやつは死罪となる」


 国王様や領主3人の前での告発なら裁判のような面倒な手続きも不要ですぐに決着がつくだろう。


「だからそれまでにこちらが有利となる証拠を集める必要がある。確たる証拠もないのにこちらから手を出してしまえばそちらの方こそ問題となる」


「はい!本当にすみませんでした!」


 再び頭を下げる。


 ゴツン


「いっつ!!」


 下げた頭に衝撃が走った。思いっきり脳天にゲンコツを食らったようだ。


「今回の件に関してはこれで許してやる。私やエレナ様に対しての無礼な口の利き方に関してもだ。次に同じことをしたら即刻屋敷から放り出してやるから覚悟しろ!」


「はい、肝に銘じます!」


 痛いけどこれくらいの罰で済ませてくれたことに感謝しよう。上司の命令を完全に無視して酷いことを言ってしまったんだ。一発で解雇されてしまったとしても不思議はない。


「じいったら!でもユウキ、屋敷から放り出すなんてことはしないけど今度はもう少し冷静に行動して。カッとなっても手は出さないで、私達にちゃんとユウキの想いをぶつけてちょうだいね」


「はい、俺も今度はもっと冷静に行動します!」


「ええ、何かあったらすぐに相談してね。それとさっきは奴隷紋を発動させて本当にごめんなさい!もう痛くはない?」


「もう大丈夫です。さっきは本当にありがとうございました。奴隷紋を解除していなくて本当によかったです。今回の件で俺はまだまだガキだというのがよく分かりました。何か間違ったことをしそうになったらまた奴隷紋の力を使って、無理矢理でも俺を止めてください」


 今思うと奴隷紋の解除をしてくれると言われた時に解除をせずに本当によかった。力と速さだけならもうアルゼさんでも俺を止められないかもしれない。あの時、手遅れになる前に奴隷紋の力で俺を止めてくれて本当に助かった。


「もうこんな力使いたくないのだから、ちゃんと自分で止まれるようになってね!」


「ええ、もう二度と同じ過ちは繰り返さないように気をつけます!」


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