第73話 第1工場の様子
「……ふうむ、なるほどのう。まずルーゼルが1人でやったという遺書じゃが、ユウキ達の言うようにまず偽物と見て間違いないじゃろ。あやつのことは知っておるが、そんな大それた事をする奴ではない。せいぜい今回のように罪を被せられる程度の男じゃ」
なかなかに手厳しい。俺が罪を被せられる程度の男だと直接言われたら相当へこむぞ。まあこいつが襲撃をしていないとしても、何らかの協力をしていただろうし同情の余地はないがな。
「そのダラーとやらが言っておったドルネルが黒幕である可能性の方がまだありえるのう。やつには領主の座を狙っているという明白な理由があり、なおかつ今回の襲撃を行うための資金と権力があるのじゃ」
「ああ、うちらもその線で探そうとしている。でもルーゼルの屋敷からはドルネルと繋がっている証拠は出なかったんだ。今アルガン家のほうは冒険者ギルドと商業ギルドに協力してもらって、襲撃に加わっていた魔法使いや傭兵から、何かドルネルに繋がりがないか探ってもらっているところだ」
「……ならば妾は奴隷商の方から探ってみるかの。それだけの数の奴隷が襲撃に加わったとあれば、ドルネルからルーゼルへの奴隷の譲渡があったかもしれぬ。証拠はすでに隠滅しておるかもしれんが、関わったものがおるかもしれん」
なるほど、アルガン家の方でも奴隷商の方向から調べようとしていたが、いかんせん先代の領主も含めて関わりのある奴隷商が、俺達が売られていた奴隷商くらいしか心当たりがないらしい。
ローラン様はかなりの奴隷を買っているし、他の奴隷商から情報を掴む手段があるのかもしれない。
「助かるよ、奴隷商のほうはこっちではあまり調べられないんだ」
「あとは金の流れじゃな。今回の規模の襲撃であれば、かなりの額の金額が動いたに違いない。もしかしたら金の流れを追うことでその大元まで辿り着けるかもしれん」
金の流れか。俺にはその辺りはわからないが、ローラン様になら金の流れを追うことによって、何かわかることがあるのかもしれない。
「よし、妾はとりあえず今の二点を調べて見よう。何かわかればアルガン家に遣いを出すからな」
「ローラン様、本当にありがとう!」
俺は再び頭を下げる。今回は素直に助かる。
「べっ、別に礼などはよい!そう、これは貸しじゃからな!それはもうでかくて大きくて巨大な貸しじゃぞ!」
どんだけ大きな借りになるんだよ!いや、どれだけ大きな借りになろうと、今回はありがたいことには変わりない。
「ああ、ありがたく借りておくよ。俺にできることなら何でもするから言ってくれ!」
「うっ、うむ。情報収集は妾に任せておくのじゃ!」
情報収集に関してはローラン様に任せてローラン様の屋敷を後にした。そのままの足で俺は第二工場へ向かった。
「あ、ユウキ兄ちゃんだ!」
「ユウキお兄ちゃん!」
以前よりも厳重な警備のチェックを受けて門の中に入る。時刻は夕方ごろなので今日の仕事はもう終わっていたようだ。雇われている従業員は既にほとんど帰っており、ここに泊まりこみで働いている数人と元第1工場で働いていた者だけが残っていた。
「ルイス、ミレー、大丈夫か?もうこっちの工場には慣れたか?」
襲撃を受けた第1工場は現在のところ閉鎖して修理中であり、第1工場で働いていたみんなは第2工場へ移って働いている。
「うん、みんな優しいし、前のところと全然変わらないよ」
「……モラムのおじちゃんがいないのは寂しいけれど、いつまでもめそめそしていたらモラムのおじちゃんに怒られちゃうもんね!」
「……そうだね、モラムさんもみんなが笑って過ごしてる方が絶対に嬉しいと思うよ」
少し泣きそうな顔をしているミレーの頭をなでる。そうだ、俺達がいつまでもくよくよしていても絶対にモラムさんは喜ばないもんな。
「ユウキさん、向こうの工場は大丈夫なんだべか?」
「うん、今修理と防犯を強化してるよ。もう少ししたら元に戻れるよ。もちろん警備も大幅に強化するからもう二度とこんなことは起こさせないから安心して欲しい」
「ああ、俺も二度とあんなことは起こさせはしねえよ。ユウキに新しい刀とかいう武器ももらったからな、今度は俺が返り討ちにしてやるよ!」
ガラナさんには防犯のために日本刀と防具を渡してある。もちろん高価なものではなく試作品の方だけど。
当然もうガラナさんが戦うようなことにさせるつもりはない。門の強化も大幅にしたし、警備員も増やした。そして強固なシェルターを作り、有事の際は従業員達が引きこもれるようにしてある。
「そもそもガラナさんが戦うような事態にはならないので安心してください。前にも言いましたけど何かあったらちゃんとシェルターに避難してくださいよ」
ちゃんとガラナさんにも有事の際はシェルターに避難するように伝えてあるが、素直に逃げてくれるとは思えないんだよな。むしろモラムさんの仇とか言って自分から突っ込んでいきそうで怖い。
「俺もモラムのおっちゃんの仇をとる!」
「ほらルイスまでそんなことを言い出しちゃったじゃないですか!いいからそっちの方は俺たちに任せてみんなは絶対避難してくださいね!ほら、ガラナさんも工場のリーダーなんだからみんなを守る方が優先でしょう!」
「わ、わあってるよ」
モラムさんやアランさん、カーソンさんの仇を取りたい気持ちは非常にわかるが、みんなをこれ以上危険にさらさないことの方が優先だ。
「とりあえずこっちの方も何か進展があったら必ず報告しますから、しばらくは工場を頼みますよ。これで工場が完全に停止したりしたら、襲撃してきたやつの思い通りですからね。ローニーもガラナさんが無茶しようとしたら止めてくださいね!」
これで工場が完全に稼働を停止したら多少とはいえこの襲撃犯の狙い通りとなってしまうからそんなことは絶対にさせない。もちろん従業員の安全が第一だけどな。
「わかってるだ!引っぱってでも連れていくだ!」
うん、見た目は幼いローニーが言っても説得力はないように思えるが、彼女は成人したドワーフなので力もあり本当に引っ張ってこれるから安心だ。
「わかった、わかった、逃げるのが最優先だろ。工場のことはこっちに任せろ。その代わり必ずあいつらの仇を取れよ!」
「ああ、もちろん!」
言われるまでもない。
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誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けますと非常に嬉しいです( ^ω^ )