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第71話 みんなの仇


 しばらくすると工場に憲兵や冒険者ギルドの人達が大勢来てくれたので、みんなを任せて俺は一度屋敷に戻った。屋敷の前にも憲兵や冒険者ギルドの人達が大勢いて、屋敷を見張ってくれていたようだ。身分を確認後、屋敷に入りみんなと合流した。


 既にアルゼさんも第2工場から屋敷に戻っていた。現在の状況を整理するため、一度食堂に集まって全員で話し合うことになった。


「……そうか、アラン、カーソン、モラムが死亡。他の門番3人が重症か」


「……はい、俺は間に合いませんでした」


「その規模の襲撃であれば私でも間に合わん。いや、現場への到着がユウキより遅くなり、回復魔法を使えないことを考えると、もっと多くの被害が出ていただろう」


「そうよ、それに工場まで狙われるなんて誰も予想できなかったわ。だからそんなに自分を責めないで、ユウキ」


 2人が慰めの言葉をかけてくれるがそんなことはない。俺が、俺があと少しだけでも何かできれば結果は変わっていたはずなんだ。


「第2工場のほうは第1工場よりも襲撃が遅かったため、私が到着した時にはまだ門番が門で耐えており、軽症者3名ですみました」


 第2工場の方にも数十人の奴隷の襲撃があったようだが、アルゼさんの到着が間に合ったため死亡者は0だ。


 襲撃の時間差があった訳はわからないが、全て一度に襲撃されていたら結果がさらに悪い結果になっていた可能性が高い。この世界には時計がないから時間を合わせられなかったのか、襲撃者の思惑通りの時間だったのかわからないがとにかく助かった。


「そう、本当によかったわ。それで他に被害はあるの?」


「いえ、今のところは他にありません。支店を含むアルガネルの店はこの街の中心街にあるためか、手を出されておりません。屋台等の店はおそらくそれほどこちらの打撃にはならないと考えて襲撃はなかったのではないかと思われます。また、我々の主要な取引相手等には被害なしです」


「……直接屋敷にも襲撃をかけるくらいだ。敵はよっぽどアルガン家を潰したいようだね」


「リールの言う通りだ。襲撃者の総数は黒の殺戮者、魔法使い9人、訓練された傭兵4人、奴隷が総勢50人となる。これだけの戦力を集めるのにはかなりの準備と金が必要となる。敵は本気でアルガン家を潰しに来ている!」


 ダンッ


 アルゼさんが拳を机に叩きつける。ピリピリとした空気が部屋中に広がる。


「じい、少し落ち着きましょう。それで、襲撃の犯人については何かわかったの?」


「……失礼致しました。この屋敷に襲撃をした者のうち4名を捕縛し尋問を行ったところルーゼルという中級貴族に脅されたり金で雇われたと申しております。


 また黒の殺戮者からも前回の襲撃同様、ルーゼルに大金で雇われたと申しております。こいつの方は尋問をする前に自分からペラペラ話しておりましたが」


「……ルーゼル。確かアルガン家の領地内にいる貴族だったわよね。それほど恨みを買うようなことをした覚えはないのだけれど」


「ええ、おそらくですが、その中級貴族は単なる身代わりでしょう。これだけの襲撃者をそいつ1人で準備することなど絶対にできません。国の者がルーゼルを逮捕すべく、奴の屋敷に向かっておりますが、全ての罪を被せられて殺されている可能性が高いかと思われます」


 そうだよな、この街の領主の屋敷を襲撃してくるなんて大それたことそんな中級貴族ひとりの力では不可能だ。


「……さらに黒幕がいるのね」


「そのことですが、工場に襲撃してきたうちの1人がこんなことを話してくれました」


 俺はダラーさんの最後についてみんなに話した。




「……なるほど、ドルネルか。奴なら大いにありえるな」


「どんな奴なんですか」


「何を言っている?お前も会ったことがあるだろう?」


「ええっ!?俺そんなやつに会ったことありましたっけ?」


 ドルネル?そんな名前のやつに会った覚えは無い。


「お前が初めて街に買い物に出掛けた時に奴隷を大勢連れた太った貴族がいただろう、覚えていないか?」


「ああ、あいつか!」


 初めて街に出た日に会ったあの豚のような貴族か。確かにドルネルとか名乗っていたような気がする。


「奴はこの街ではかなりの大貴族だ。仮にエレナ様が亡くなった場合、新たに領主を決めることとなるが、その中でもかなりの有力候補に上がるだろう」


 なるほど、そういえば街で会ったあの時もエレナお嬢様に領主を降りるように言ってたような気がする。


「そして奴は多くの金と多くの奴隷を所持していると聞く。それをルーゼルに渡せば今回の襲撃も可能だ」


 確かにかなり羽振りが良いように見えたし、ガリガリに痩せ細った奴隷もたくさん連れていた。そうか、あの野郎がみんなの仇!


「落ち着け、まだ決まったわけではない。早まった真似は絶対にするなよ。だがかなり有力な情報だ。屋敷を襲撃した者や第2工場で尋問した奴隷からはその名を聞くことはなかった」


「……ドルネル家か。じゃあ僕はそっちのほうを探ってみようかな」


「まずはルーゼルの方からだ。今憲兵達が奴の屋敷に向かっている。既に奴が殺されている可能性は高いが、何か他の者と繋がっている証拠が見つかるかもしれん」


「わかった、まずはそこから探ってみるよ」


「俺も手伝います!」


「……いや、しばらくユウキには工場の警備を任せたい。第1工場は復旧するまでしばらくかかる。それまでは第2工場のほうで全員が働くことになる。おそらくしばらく襲撃はないと思うが、念には念を入れておこう」


「……はい」


 そうだ、わかっている。みんなの仇をこの手でとってやりたいという気持ちは大きいが、それよりもみんなが守ってくれた工場の人達を守ることの方が大事だ。


「アルゼ様、僕も何かできることはないでしょうか?」


「サリアも何かできることはないでしょうか?」


「そうだな、2人には引き続き屋敷のことを任せたい。しばらくは皆忙しくなるだろうから、屋敷のことを今以上に任せる。そしてシェアル、引き続き屋敷の守りを頼む。そして空いた時間にこの2人を今以上に鍛えてやってくれ」


「は、はいですう!」


「「はい、わかりました」」


「みんな、危険なことだけはしないようにね。いつ今回みたいな襲撃があるかわからないわ。自分の命を第一に考えてね」


「「「はい」」」






 それから数日して憲兵からの報告が入ったが、やはりというべきかルーゼルは死んでいた。ご丁寧に自ら書いたとされる遺書があったそうだ。


 アルガン家に以前から強い恨みがあった、金は以前から悪事を働いて蓄え続けていた金を使った、襲撃が失敗して全てバレたため自ら命をたつことを選んだということが書いてあったらしい。


 そして残念なことにルーゼルとつながる者の情報は得られなかった。この世界の調査技術が低いのかドルネルの隠蔽工作が上手いのかはわからないが、憲兵達の調査はそこまでになるらしい。


 ダラーさんの証言も憲兵に伝えたらしいが、ドルネルがかなりの権力者であること、証言者が襲撃をした奴隷の1人だけであることからその証言が取り上げられることはなかった。


 ルーゼルの屋敷や資産は全て被害のあったアルガン家が没収することとなったが、失われた3人の命が帰ってくることはない。






 第1工場の裏にモラムさんの遺体は埋葬された。この世界の埋葬方法は土葬である。棺に亡骸を入れ、地中深くに埋める。アランさんとカーソンさんの遺体はご家族に引き渡したが、モラムさんの家族はどこにいるのか分からなかったため、工場の裏に埋葬されることとなった。


 いや、たとえ家族の居場所が分かったとしても、モラムさんを奴隷商に売ったという家族には引き渡さなかったかもしれない。


 モラムさんの遺体を埋めるときには屋敷の人や第1工場のみんなが来た。領主であるエレナお嬢様が犯罪奴隷1人の最後に立ち会いたい、というあり得ない発言をこの時ばかりはアルゼさんも止めようとはしなかった。


 1人ずつお別れの言葉を言ってモラムさんとお別れをした。涙ぐむ者、涙をこらえて苦悶の表情をする者、表情を崩さないように凛と構える者、だが誰もがモラムさん、そしてアランさんやカーソンさんの死を悲しんでいた。そしてそれと同時に命をかけてみんなを守ってくれたことに感謝した。

 





 そしてその葬儀から数日後、俺は1人でまた工場の裏のモラムさんの墓に来ていた。


「モラムさん、アランさん、カーソンさん、あなた達の仇は必ずとる!それとあなたが守ってくれたみんなを今度は必ず守ってみせるよ」


 墓の地面には3つの剣が刺さっている。襲撃があったとき3人が使っていた剣だ。俺は3人の前で誓いを立てる。


「もう俺は自重なんかしない。人だって何人も殺した。どんなことをしようが何をしようが必ず首謀者を殺す!」


 人を殺す、これがどんなに重いことか分かっているつもりだ。未だに今回の襲撃で魔法使いや奴隷達を俺自身の手で殺した時の感触が忘れられない。


 だがそれでも、3人の命を奪い、大勢の奴隷達を使い捨ての駒にしたこの襲撃の首謀者だけは絶対に許すことができない。必ず見つけ出してみんなの仇を取ってみせる!


最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます!

執筆の励みとなりますのでブックマークの登録や広告下にある☆☆☆☆☆での評価をいただけますと幸いです。

誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けますと非常に嬉しいです( ^ω^ )

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