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第68話 新たなる襲撃


 前衛の3人は多少の怪我はあったものの命に別状はなかったため、指揮官と同様に拘束する。黒の殺戮者から拝借したナイフが刺さった魔法使いはすでに毒で死んでしまっていた。


 改めて現場を振り返ってみると自分がやったこととは言え、なかなか悲惨な光景が広がっていた。首と胴体が切り離された死体が6つ。首を引き裂かれ血塗れになった死体が2つ。毒により苦悶の表情浮かべながら息絶えた死体が1つ。落ち着いて見てみると俺の防具や服も返り血で真っ赤に染まっていた。




 とうとう俺はこの世界で人を殺してしまった。


 もちろん向こうも俺やエレナお嬢様を殺そうとしていたから十分正当防衛の範囲内ではある。だが正当性どうこうというより、元の世界では普通の高校生活を送っていた俺にはやはりくるものがある。よく漫画や異世界もので人を殺しても何も感じないという人もいるが俺には無理だ。


 人を斬った際の肉や骨の感触、殺した人達の最後の断末魔の悲鳴。今もなお溢れ出る人間の血液。防具や服、日本刀についた大量の血の匂い。少し思い出すだけで吐き気が急激に込み上げてくる。


 もちろん後悔などはしていない。一歩間違えればこちらが殺されていたし、こいつらを逃して再び俺の大切な人達に危害を加えられる可能性もある。だがそれでも俺が人を殺したということは事実だ。これからも大切な人達を守るために人を殺すかもしれないが、俺が人を殺したということは絶対に忘れてはいけない。




「生命の源たる癒しの力よ、この者を癒したまえ、ヒール!」


「生命の源たる癒しの力よ、悪しき力より救いたまえ、キュア!!」


 シェアル師匠の強力な魔法により、俺の回復魔法や解毒魔法では治らなかった傷と毒が消えていく。左肘の傷が塞がり、今まで怠かった体調がたちまち治っていく。やっぱりこの人、魔法だけは本当に凄いわ。


「ありがとうございます!すっごく楽になりました、シェアル師匠」


「いえいえ、私の障壁もあのまま魔法を受け続けたら危なかったのでとっても助かりました。お互い様ですよう〜さあ、次はリールさんの番ですねえ」


 あのあとすぐにリールさん達も無事に屋敷で合流できた。盗賊達に屋敷の襲撃者、そして黒の殺戮者とさすがにうちらだけでは手に負えないので街の中央の憲兵をべニールさんが呼びに行ってくれている。むしろ後始末の方が大変そうだ。


「ふう〜ありがとう、だいぶ楽になったよ」


「魔法で傷が治っても失った血はすぐに治りませんからねえ。しばらく激しい動きは厳禁ですよう!」


「リールもユウキも無事で本当によかったわ!」


 エレナお嬢様も怪我一つなく無事であった。屋敷の人全員がいる中で襲撃があったのは不幸中の幸いかもしれないな。


「エレナお嬢様もご無事で本当によかったです」


「そうだね、エレナ様がご無事で本当によかった。それにしてもユウキくんが一緒にいてくれて本当によかったよ。ユウキくんがいなかったら僕は死んでいただろうね」


「すごいわ、ユウキ!屋敷を襲ってきた魔法使いを倒したのもユウキだし本当に強くなったのね!」


「ありがとうございます!でもリールさんがいなかったら間違いなく俺も死んでましたからね」


 俺一人だったら間違いなく黒の殺戮者に初手か無詠唱の風魔法で殺されていたから、あまり天狗にはならないようにしなければな。


「傷も治りましたしちょっと外の様子を見てきます」




 屋敷の庭の方に出るとそこには襲撃者達が拘束されている。特に黒の殺戮者は危険なため、服を脱がし両手両足に金属製の枷をつけている。さすがにこれで風魔法を使われたとしても逃げることはできないはずだ。


「ユウキ兄ちゃん、もう怪我は大丈夫?」


「ユウキお兄ちゃん、もう動いて大丈夫なの?」


「ああ、シェアル師匠の魔法のおかげでもうほとんど治ったよ。それでアルゼ様はどこにいる?」


「ここだ。あの指揮官にある程度事情を聞いていたところだ」


「アルゼ様、それでこの襲撃は誰からのものだったんですか?」


「……奴らにそれぞれ尋問したところルーゼルという中級貴族が今回の襲撃を指示したということだ」


「なるほど、さすがに領主の屋敷に襲撃なんて仕掛けたんですからその中級貴族ももう終わりですよね?」


「………………」


 んっ?なんだその沈黙は?


「えっと、もしかしてあいつらが嘘を言っている可能性があると?」


「……いや、おそらくあいつらの言葉に嘘はない。全員の身体に聞いたから間違いはないだろう」


 こえーよ!毎度思うがこの人もリールさんも裏で何やってるのか非常に気になる。


「だが黒の殺戮者に魔法を使える者が10人など、とてもじゃないがたった一人の中級貴族に用意ができるとは思えん。間違いなく協力者か黒幕がいるだろうな」


 ……なるほど確かにあんな襲撃者達がそう簡単に集められるわけはない。かなりの権力者かかなりの数の協力者がいるに違いない。


「ではルーゼルとかいう貴族を早急に拘束して黒幕を吐かせなければいけませんね」


「そうだな、だが貴族である以上、正当な手続きを踏まねばならん。面倒だがこれから……」


「ユウキ兄ちゃん!アルゼ様!狼煙が上がってる、工場が!」


「あれは!」


 高い建物がないこの世界で街の中央に位置するこの屋敷からでも遠くからでも見えるということで用意しておいた緊急連絡用の狼煙が上がっている!


「ちっ、位置的に見て第一工場の方か!工場にまで襲撃が向かっているかもしれん!ユウキ傷は大丈夫か?動けるか?」


「はい!」


「よし、先に狼煙の上がっている第一工場に向かえ!私はエレナ様に説明して第二工場のほうへ向かう。だが絶対に無理はするな、無理な場合は即座に逃げろ!自分一人の手では手に負えないと判断した場合あの狼煙とは別にもう一本狼煙をあげろ」


「わかりました!」


 すぐに外していた防具と日本刀を装備して身体能力強化魔法と硬化魔法の詠唱を始める。


「アルゼ様、私達も行けます!ユウキお兄ちゃんと一緒に行かせてください!」


「サリアとマイルは屋敷で待機だ!まだ屋敷に襲撃がくる可能性がある。ユウキと私がいない間、リールとシェアル達と共に命をかけてエレナ様を守れ!何かあった場合には狼煙をあげてユウキと私に知らせるんだ!」


「「はい!!」」


「アルゼ様、先に行きます!マイル、サリア、エレナお嬢様達を頼んだぞ!」


「わかったよユウキ兄ちゃん!気をつけて!」


「ユウキお兄ちゃん、エレナお嬢様は絶対に守るわ!」


「狼煙を上げた際には憲兵も様子を見にくることになっている。繰り返すが一人で無茶だけはするんじゃないぞ!」


「はい!」


 返事をして強化された脚力で地面を蹴る。屋敷を出て工場に向かって全速力で走る。くそ、考えが足りていなかった!まさか俺やエレナお嬢様だけでなく工場まで襲うとは考えてもいなかった。




 街を往来する人々の合間を縫い工場へ向かい全速力で掛けていく。神様から忠告をもらったあと、工場の門番を2人から5人に増やし、緊急時の対応についてはモラムさんやガラナさんにも話してある。


 だが奴らは黒の殺戮者や多くの魔法使いを揃えてくるような奴らだ。もしも同じような戦力で来られたら工場のほうは防げない。くそ、あと少しで工場だ。頼む、あと少し持ち堪えてくれ!




 屋敷とは異なり障壁はなく工場の前まで辿り着く。だが人集りができている。何かあったことは間違いない。


「通して、通してください!」


 人混みをかき分け工場の門を潜る。


「うっ!」


 門の中には地獄絵図が広がっていた。普段は閉められているはずの門が空き、門の前と中に二十人以上死体があった。


 強烈な血と臓物の臭い。先程の戦いで俺自身が人を殺していなければ間違いなくこの場で胃の中の物を全てぶちまけているほど悲惨な光景であった。


 ほとんどの死体には剣で斬られた傷がある。そしてその死体の半分はガリガリに痩せており、全員の右手には俺と同じ奴隷紋があった。


 何が起きた!?みんなは無事なのか?


「うう……」


「痛えよ……」


 よく見るとまだ生きている人がいた。この奴隷の人達はなんなんだ?敵なのか、治療した方がいいのか?


「うう……ユウキさん」


「ダイスさん!」


 門の中の血溜まりの人の中に門番のダイスさんがいた!血だらけだがまだ生きている!


「生命の源たる癒しの力よ、この者を癒したまえ、ヒール!」


 胸から腹にかけて剣で切られた傷がある。くそう、俺の回復魔法じゃ完全に治せない!まだ血が流れ続ける、早くシェアル師匠か医者に見せないと!


「……うう、いきなり武装した奴隷の集団が何十人も工場に押し入って来ようとしました!奴ら門を開けようとしてきて俺らで抵抗しました。武器もボロく、力も弱々しかったんですが、なにぶん数が多すぎて侵入を許してしまいました。本当にすみません!」


「ダイスさんのせいではないですから謝らないでください!それでみんなは無事なんですか?」


「1人は狼煙をあげて屋敷に連絡をしたあと工場の中に入ってみんなの避難を。あとの3人は門の中で俺と一緒に抵抗をしましたが、何人か侵入させてしまいました。奴ら俺が死んだかも確認しないで工場に入ったんで、もしかしたら3人も生きてるかもしれないです!ユウキさん、お願いします」


「わかりました!」


 他の門番の人もまだ生きている可能性がある!工場の中も気になるが、急いでみんなを探さないと!




 あとの3人はすぐに見つかった。襲撃してきた奴隷達は全員防具もなく武器もボロいナイフや剣だけだったのですぐにわかった。


 ……だがダイスさんの他に生きていたのはボンドさん1人だけだった。ボンドさんは肩にナイフが刺さり気絶はしていたが、ダイスさんよりも傷は浅そうで、回復魔法をかけるとだいぶ表情が和らいだのでおそらく命に別状はないだろう。


 門番の1人であるアランさんは胸と腹にナイフと剣が突き刺さって絶命していた。アランさんは愛妻家でよく妻の手料理がとても美味しいと自慢していた。ケーキを差し入れに持っていったら、家に持って帰って妻と一緒に食べるんだなどと惚気ていたことを覚えている。


 もう1人の門番であるカーソンさんは右腕が切り落とされ、身体中に切られた傷がたくさんあり失血死していた。独り身だけどとても陽気でお酒が好きで、よくアルゼさんとお酒の話で盛り上がっていた。お酒を差し入れに持っていったら、門番の仕事が終わった後にモラムさんやガラナさんやローニー達と一緒に酒盛りをしていたことを覚えている。




 ……2人も死んだ。動かないし息もしていない。俺の知り合いで亡くなった人を見るのは元の世界でじいちゃんが死んだ時以来だ。あの時は急性脳梗塞とかで亡くなったじいちゃんを翌日見送ったんだっけかな。それでもあの時は安らかな顔をして亡くなったのを覚えている。こんなふうに傷だらけになりながら苦痛の表情で亡くなっている人を見るのは初めてだ。


「……ごほっ、ユウキさん。気持ちはわかりますが、早く工場のみんなをお願いします」


「はい……」


 ダイスさんとボンドさんを工場の前にいる街の人たちにお金を渡して医者にまで運んでもらう。


 改めて見るとたった4人でよくこれだけの数の敵の侵入を抑えてくれたと思う。装備が貧弱とはいえ20人近くもいたのに。


「うう……」


「誰か、助けてくれ……」


「痛え、痛えよ……」


 アランさんとカーソンさんを殺しておきながら、まだ生きている襲撃者を今すぐに皆殺しにしてやりたいという衝動を抑えながら工場の中に急いだ。


最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます!

執筆の励みとなりますのでブックマークの登録や広告下にある☆☆☆☆☆での評価をいただけますと幸いです。

誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けますと非常に嬉しいです( ^ω^ )

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