第64話 突然の乱入者
神様からの忠告をもらってから1週間が過ぎた。目が覚めた俺はさっそくエレナお嬢様とアルゼさんに防衛の強化を話した。もちろん神様のことは話さずに最近アルガン家をかぎまわっている輩がいるのを噂で聞いた、不審な奴を屋敷付近で見たといった形で報告をした。
しばらくの間は身の回りを固めるということで、エレナお嬢様が外に出る時はアルゼさん以外にもリールさんかシェアル師匠がつくことになった。サリアとマイルには極力外出を避けてもらい、外に出なければならない時は護衛をつけるようになった。
一応屋敷にはシェアル師匠がはった悪意のある者を拒む結界があるのだが、それに加えて屋敷の門に新たに護衛を雇い配置した。
二つの工場には警備を増やし、原始的だが何かあった際には狼煙をあげるようにした。本当はモールス信号を利用した連絡網を敷きたかったんだが、さすがに無線の作り方まではわからんからなあ。有線ならできそうなんだが、まさか電線を工場から屋敷まで繋げるわけにはいかないから難しかった。
そしてこっちには被害はいかないと思うが、関わりのある商人のランディさん、行商人のエドガーさん、鍛冶屋のグルガーさんには近頃周りが物騒なので注意した方がいいと伝えてある。ついでにローラン家のルーさんにも伝えておいたが、ローラン様にはまだ疑いもわずかにあるから本人には伝えていない。
えっ、俺に関して?俺に関しては特に何も。ちょっと強くなったからって自惚れてんじゃないのかと思われるかもしれないが、修行の甲斐あってか単純な速さだけだったらついにアルゼさんを超えることができた。
逃げに徹しさえすれば、アルゼさんやシェアル師匠からも逃げ切ることができるようになったので特に護衛は必要ないと言われた。まあ力や速さが上でも圧倒的に得てきた経験が違うので戦闘ではまだまだ敵わないんだけどな。
そんなわけで防衛を強化してから1週間が経ったが特に動きがない。神様からの情報だから信憑性は高い。こちらが防衛を強化したから諦めてくれたと信じたい。
「とりあえず今のところ特に目立った動きはないね」
「ですね。ただこのまま防衛は強化したままにしておいた方がいいと思います」
「そうだね、確かにアルガン家は今盛り上がっているから誰かに狙われてもおかしくないよ」
そういうリールさんにも護衛はなしだ。リールさんには試合形式で真っ正面から戦えば勝てるのだが、なんでもありの森や屋内だったらまず勝てない。死角の取り方や気配の消し方が抜群にうまいのだ。目の前で戦っていても一瞬木の影に重なるだけで見失いそうになる。この人に関していえば俺やアルゼさん以上に1人でも問題ないと思うな。
「さて、そっちのほうは置いておいてこっちにも集中しないとね。いくら強くなったからといっても油断は禁物だよ」
俺は今リールさんと一緒に盗賊退治に来ている。俺やサリア、マイルを攫って奴隷として売っていた常闇の烏という盗賊団を退治して以来、定期的にリールさんと一緒に盗賊団を探しては捕まえている。
ローラン様はちゃんと約束を守って情報統制をしてくれているので、エレナお嬢様にはバレずに盗賊退治を続けられている。まあ街では盗賊団を狙う謎の正義の味方が現れたというのは噂にはなっているらしい。
そうしたおかげで少しづつ奴隷商に流れる奴隷の数は減少していると聞いている。地道にコツコツと盗賊団を潰してきた甲斐があるってもんだ。
「はい!油断して一撃で命を落とすなんてことは絶対にしたくありませんからね」
この世界では回復魔法にも限度がある。一瞬で致命傷レベルの傷を治すということなどシェアル師匠でもできはしない。ゲームや漫画ではないんだ、硬化魔法や身体能力強化魔法を使っていない状態で心臓や首に一撃貰ってしまえばイチコロだ。そのために不意打ちの訓練も受けている訳だが油断は絶対にするまい。
「うん、それでいいよ。今日の盗賊団はいつもより少なく、腕のたつ相手もいないということだけど慢心は駄目だからね」
「はい、気をつけます!」
今日の盗賊団は10人くらいの規模で魔法を使えるやつはひとりもいないとの情報だ。行商人の人たちや近くの村の人たちからの情報なので信憑性はそこまで高くないかもしれない。
とはいえ、アジトの候補場所が絞り込めるのでありがたい。基本的にはリールさんが盗賊達の目撃情報をもとに盗賊達のアジトの候補を絞り、その候補を俺がサーチの魔法で片っ端から調べるという方法だ。当然全て外れる日も結構あるがどうやら今回は当たりのようだ。
「向こうのほうにテントがいくつかあって人数は8人ですね。一応盗賊じゃない可能性もあるんで近付いてから確認ですね」
「うん、ご苦労様。盗賊だったらいつも通り人質がいる可能性を考えてユウキくんが突っ込んで僕が奇襲する作戦で行こうか」
「はい」
気付かれないようにリールさんと2人で盗賊達に近づく。一緒に来ているべニールさんは少し離れたところで馬車と一緒に待機している。リールさんがさらに近付き盗賊かどうかを確認してきたところ、会話から盗賊であることは確定したらしい。身体能力強化魔法と硬化魔法をかけて準備はできた。さあ、行くぞ!
「あ〜あ、最近はろくな獲物が掛かりゃしねえな」
「たまにゃ豪勢な飯でも食って綺麗なねえちゃんでも抱きてえよな」
「全くだぜ。あの蒸留酒とかいううめえ酒を浴びるほど飲んでみ……ぐえっ!」
「なっ、どうした。ぐえっ!」
とりあえず見張りの二人を気絶させる。最近は俺もリールさんと同じ首トンができるようになった。漫画みたいに後ろからやるのは実際には難しいが、首の横から適度な角度と力とスピードでやるとうまくいくようになった。力加減を誤るとしばらく目覚めなかったり、首がムチ打ちになるので良い子は絶対に真似しちゃダメだぞ☆
「おい、どうした!何があっ……ぐえっ!」
「ちっ、敵だ!さっさと武器を持っていこい!ぐえっ!」
近くのテントから出てきたばかりの二人を同様に落とす。両腕と両足を折って戦闘不能にしていたころよりはだいぶ楽になったし、罪悪感もあまりなくなったな。
「くそっ!なんだてめえは!」
「お頭、こいつはきっと例の盗賊狩りってやつですよ。刀とかいう武器を持って単身で突っ込んでくるって噂ですぜ!」
もう一つのでかいテントから残りの4人が出てくる。こっちのことはこいつらも知っているようだ。それにしても今のところ逃した奴もいないし、ローラン様の情報統制もあるのにどこからこういう情報を手に入れるんだこいつらは?
「その盗賊狩りだ。大人しく投降すれば痛い目には合わないぞ」
一応テンプレ通りに投降を進める。
「ちっ、上等だ、ぶっ殺してやる!」
「なめてんじゃねえぞ!」
まあ捕まったらほぼ人生が詰むからそれで投降する奴は今のところ見たことないんだけどな。
「まあそう言うと思ってたよ」
「ぐはっ!」
「がはっ!」
「はっ、速え!」
「なんてスピードだ!」
どうやら盗賊達は魔法で強化されたスピードについて来れないようだ。俺も最初の頃に比べればだいぶ速くなったもんな。
「ごはっ!」
よし、もう一人も倒して残りはボス一人だ。ボスは兜をしているので首への手刀は難しい。俺は腰に差している日本刀を抜く。襲撃の可能性があるということで、今回は念のために変異種を切った日本刀を持ってきている。
「くそが!死ねや!」
斧を振りかぶってこちらに向かってくる。だが俺から見るとあまりに遅い。振り下ろした斧を横によけ、地面に突き刺さった斧を持つ両手に向かって刀の峰で打ち付ける。
「いやああああああ!」
「ぎゃあああ!痛え、痛えよ!」
盗賊のボスの両腕がおかしな方向に曲がる。強めの力で打ち抜いたのでおそらく両腕とも折れたのだろう。
「ふう」
よし、今回の盗賊の討伐もうまくいったようだ。自身にかけた身体能力強化魔法と硬化魔法を解く。あとはここにいない盗賊がいないかをリールさんに確認してもらいもしどこかに出ているようだったら戻ってきたところを捕まえれば……
「ユウキくん、危ない!」
うっ!!
突如強烈な殺気が後方から発せられる。やばい、何かが複数飛んでくるのがわかる。なんとか体を捻ってかわせ!
「うおおおおおおお!」
後頭部を狙ってきた飛来物はなんとかかわせた。しかし、同時に飛んできた腹部への飛来物はかわせない!やばい、当たる!
キィン!
腹部に軽い衝撃が走る。だがそれ以外に特に痛みはない。どうやらなんとか胸当てに当たり弾かれたようだ。弾かれた飛来物を見るとかなり切れ味の良さそうなナイフだ。本気で危ないところだった。
「……ほう、どうやらあの時とは見違えるほど強くなったようですね」
ナイフが投げられた方向を見ると木の影から襲撃者が姿を現す。
「……黒の殺戮者」
「よく覚えていましたね。あの時は老騎士アルゼの側にいただけの少年が随分と成長したものです。せっかく雑魚どもを倒して一番油断したところを狙ったというのに防がれてしまうとは。それにこの業物のナイフを弾くとは良い防具も持っているようです」
もしリールさんが大声を出してくれなければ危なかったかもしれない。そしてエドガーさんありがとうございます、この防具のおかげで命拾いしました!
「それで黒の殺戮者くんがなんの用かな?ここにはエレナお嬢様もアルゼ様もいないんだけどな」
リールさんも森の中から出てきた。確かに、なぜこいつがここにいる?ここにはエレナお嬢様もアルゼさんもいないぞ。それにサーチの魔法にも反応しなかったが街から尾行されていたのか?
「ええ、もちろん知っておりますよ。ずっと気配を消して伺っておりましたからね。いやあ、気付かれずにあなた方の後を追うのはとても大変でしたよ。特にそちらの方はかなり後方からでも気付かれそうになりましたし、少年のほうの魔法に気付かれないように高価な魔道具を用意したりといろいろ面倒でしたね」
なるほどそんな魔道具があるのか。そしてリールさんの警戒をかいくぐるとはやはりこいつは只者ではない。
「本当は私も屋敷の方へ行ってあの老騎士と戦いたかったんですけどね、あっちには強力な魔法結界があるので先にこっちにさせてもらいましたよ。ああ、安心してください。あなた方を消して屋敷に帰るころには結界も破られているでしょうからちょうどいいでしょう」
「くっ……!」
まじかよ、屋敷の方にも襲撃者が向かっているのか!早く戻らないとみんなが危ない。
「なるほどね、そこまで僕たちに話してくれるということは当然見逃す気もないということだね」
「ええ、心配事が気になって本気で戦えないのは私としても本意ではないですからね。いいですね、あなたは非常に良い!こちらの少年にはナイフが一本当たりましたがあなたには投げた瞬間に気付かれて防がれてしまいました。それにこんな状況なのに冷静で隙もない。本当に楽しめそうだ!ただの使用人と良い武器を持っているだけの少年だけだと聞いていましたがとてもとても楽しめそうです」
あのナイフはリールさんの方にも投げていたのか。それを防ぐとはさすがリールさんだ。
「さあ、それでは殺し合いを始めましょう!」
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誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けますと非常に嬉しいです( ^ω^ )