第61話 変異種の素材
「おう、まじかよ……」
今日はこの刀を作ってくれた鍛冶屋に来ている。変異種の素材が冒険者ギルドから届いたため、今の防具の強化を頼みにきたのだが。
「めちゃくちゃ混んでいるな」
前に来た時は店に1人か2人くらいしかいなかったが、今は店内に10人近くはお客さんがいる。変異種の討伐からまだ1週間も経っていないし、さすがにこの刀の評判が広まっているというわけではないと思うが。
「すみませんユウキと申しますが、グルガーさんはいらっしゃいますか?」
受付に並びしばらく待った後にようやく俺の番になった。
「ユウキ様ですね、グルガーより承っております。少々お待ちください」
別の人が迎えに来てくれて別の部屋に通される。
「おお、ユウキか!話は聞いたぞ、なんでも変異種をその刀で倒したらしいじゃねえか!ガッハッハ、店に来ている大勢の客を見たか?ほとんどの客が日本刀を見に来ているぞ」
「やっぱりそうなんですね。それにしてもまさかこんなに早く情報が広まるとは」
まさか通信機器もないこの世界でこんなに早く情報が伝わるなんて思ってもいなかったな。
「おかげでうちの店の刀が飛ぶように売れていきやがる。かなり高えやつも一本売れたし、もうお前の刀くらい元は取れたぞ」
「それはよかった!こっちもグルガーさんの作ってくれた刀のおかげで変異種を倒すことができましたよ。本当にありがとうございます」
「なに言ってやがる、感謝すんのはこっちの方だ。店の売上げが数倍になったんだぞ。そういや前にもらった酒もすげえうまかったぞ、あの酒はまだ売り始めないのか?」
「そう言ってもらえるとよかったです。あのお酒はもうしばらくしないと店には出ない予定ですね。あとこれはお土産です。こっちはもうしばらくしたらお店で出せるようになりますよ。相変わらず作っている量が少ないのであまり量は出せないんですけどね」
今度ようやく半年以上熟成した蒸留酒を販売できることとなった。蒸留酒を作り始めてからようやく長期熟成の酒ができた。実際には数年以上寝かせたほうが良かったはずだが、試飲したアルゼさんやモラムさんが言うにはこれでも十分売り物になるそうだ。
「ほう、これはいつもの酒とは色が違うんだな。普通のは透明だがこれは茶色だ」
普通のウイスキーやブランデーなどのお酒も蒸留したてのものは透明だ。そこから樽に詰めて熟成することによって樽の色や香りが蒸留酒に移り、まろやかな風味と味になるらしい。
この酒樽の選定にはだいぶ苦労した。熟成酒には酒樽が大事と言ったらアルゼさんが張り切ってしまって様々な木材を用意してくれた。そこから一月ほど短いが熟成を行い、どの素材の酒樽にするかを決めた。そしていつもの酒飲み達が一日中飲みながら3種類に絞ったうちの一つだ。
「もしよかったら少し飲んでもらって感想をいただけませんか?」
この際だからお酒に詳しいドワーフの親方の意見も聞いておこう。
「おう、いいのか!そんじゃあ失礼してここで飲ませてもらうぞ」
そう言いながらグラスを持ってくる親方。やはりお酒にはこだわりがあるのか見るからに高級そうなグラスだ。もしかしたら自分で作ったのかもしれないな。
「それじゃあいただくぞ。ほう、前の酒より香りが良いな。色もよく見ると茶色というより美しい琥珀色をしておる」
おお、ちゃんと分析をしてくれている。さすがにお酒が大好きだというだけあって、貴重な意見をいただけそうだ。
「ふうむ、こいつは……」
あれ目を閉じて黙ってしまった。もしかしてあまり好みではなかったのか?しばらく待つと親方の目がカッと開いた。
「こいつはうまい!ただ単純に酒精が強いだけじゃない!なんという深い味わいだ。この複雑で豊かな味わいは今まで味わったことがない!酒の旨みを全て凝縮させたような味じゃ!」
おう……こっちが引くくらいの絶賛だな。というかここまでのものだと何か怪しいものでも入っているんじゃないかと疑いたくなってくる。
「えっと、物にもよりますが、お酒は長い間寝かすと味わいがまろやかになって味が深くなるそうです。これは半年ほどなんでまだまだですね。本当にすごいものは何十年も寝かさないとだめらしいですよ」
「なんじゃと、半年!?1週間も待てる気がせんわい!」
それは待てなすぎだろ。まあ何があってもおかしくないこの世界だと長期で保存するというのはむずかしいのはわかるが。
「なあ、この酒を定期的に卸すことはできんのか?金ならいくらでも払うぞ」
「さすがにまだ販売すらしていない状態だし量もそれほど作ってないのでなんとも。一応屋敷の人には話しておきます」
「おう、本気で頼むからな!そんで今回はなんのようだ?また新しい武器か?なんでも作るぞ」
「いえ、今回は変異種の素材をもらったので自分のともう1人分の防具を少し強化してもらおうと思いまして。それと以前作ってもらった刀のメンテをお願いしに来ました」
「ほう、変異種の素材か。面白そうじゃねえか、任せておけ。前のと同じで胸当てと腕当て、脛当てでいいのか?あともう1人の分はどうする?」
「はい、俺の分はそれで大丈夫です。もう1人の分は今日は来れなかったので後で本人から伺ってください。あっ、これが変異種の素材です」
冒険者ギルドに伝えて、もらう予定だった素材の一部を加工しやすいようにある程度小さくしてもらっていた。
「すげえな、これが変異種の素材か!さすがに他の魔物とは一味違うな。ふむ、かなりの魔法耐性があるとみた、今までの防具の上に加工してつけるのがいいかもな。いや、むしろ最終防衛線として一番下につけるべきか迷うな」
「その辺りは親方に任せます」
「おう、任せておけ。これなら1週間くらいでできるだろ、それくらいに取りに来い」
「はい、1週間後ですね、わかりました」
「おうよ!酒のことも忘れるんじゃないぞ」
よしよし、これで防具の方もかなり強化することができた。まあ武器と防具が凄すぎて俺の腕がついていけるか心配になってくるから、もっと頑張らないといけないな。
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