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第57話 これがA級冒険者の力だああああ!


 しばらくした後、討伐隊で一度集まり、それぞれの結果を報告することとなった。


「さて、みんなの報告をまとめると、どうやらこいつの魔法反射はどの部位でも発動するようだ。そして特定の弱点のような属性もなし、魔法使いの天敵だな。打撃や斬撃に対してもほとんど傷を与えられずか。唯一傷を与えられたのが首筋ということは、ここが弱いのかもしれん」


「そんじゃあギルマス、全員で首に総攻撃を掛けるってのはどうだ?」


「そうだな、反撃もしてこないし後ほど試してみよう。そして魔法ではなく起こした火は反射されないということだ。ただし焚火で起こした火程度では火傷すらしなかったがな」


「ギルドマスター、まとめ終わりました。こちらを」


「おお、すまないな。……なるほど、やはりか。ひとつだけ良いニュースがあった。今回の変異種の討伐のために我が冒険者ギルドの職員が、過去の変異種の情報をまとめた手記を持ってきていたのだが、その中で今回と似たような変異種が過去に一度だけ出現したことがあるということがわかった」


「「「おおー!」」」


 冒険者達から歓声があがる。過去にも同じような変異種が出たのなら倒し方もわかるかもしれない。


「だが良いニュースでもあり悪いニュースでもある。当時こいつと同じような変異種が出た時にはついに変異種を倒すことができなかったらしい。幸いなことにその変異種はその場から一歩も動くことなく、一月ほどで勝手に死んだそうだ」


「勝手に死んだ?それに一歩も動かなかったということは何も食べてないのか?」


「おそらく強大すぎる防御力と引き換えに動くことができないのだろう。当然食事も何も取っていなかったそうだ」


「じゃあこいつも1ヶ月放置すれば勝手に死ぬのか。なんだ、よかったじゃねえか」


「確かに放っておけば勝手に死ぬ可能性が高いというのは良いニュースだが、問題はこいつが死ぬまで魔物の活性化が止まらないということだ」


「……マジかよ」


「当時はギルドの冒険者を総動員し、連日で活性化した魔物を狩り続けることしか出来なかったと記録がある。増え続ける活性化した魔物相手に近隣の村や冒険者達から数名の死者も出ていたそうだ」


 おう、なんと迷惑な。だが生まれて動くこともなく、周りに迷惑をかけて死ぬのを待つという魔物というのも可哀想な話ではある。


「うーむ、とりあえず全員で首筋に攻撃をしてみるか。それが駄目なら周りの木を切り倒して燃やして火責めにしてみよう。


 それでも駄目なら1週間ほど時間はかかるが街の外にいる現役S級冒険者のあいつに依頼をするしかないな。あいつでも駄目なら完全にお手上げだ。諦めてこいつが消滅するまで活性した魔物に付き合うしかないか」


 まじかよ。さすがに1ヶ月も付き合ってられないぞ。それに前回は1ヶ月だったらしいが今回はそれ以上の可能性だってある。駄目だったらギルドマスターの言っているS級冒険者とやらに頼るしかなさそうだ。それにしてもこの世界の現役S級冒険者というものがどれほどの強さなのかは少し興味があるな。


「はっ、そんなもん待つ必要はねえよ!今ここで俺がこいつをブチ殺せばいいってことだろ!」


 声をあげて立ち上がった男は身の丈ほどもある大剣を持った冒険者だった。身につけている鎧は一目で他の冒険者とは一線を画するものということがわかる。そしてその鎧の下には歴戦の死闘を潜り抜けてきたと思わせる古傷がいくつも見える。この人は確か炎龍殺しのドレインと呼ばれていたA級冒険者さんだ。


「そうだな、考えていてもしょうがない。まずはやってみよう。頼んだぞ、ドレイン!」

 

「任せておけよ、ギルマス!悪いがあんたの出番はねえ!」


 どうやら唯一傷を付けることができた首筋に攻撃をしかけるようだ。おお!A級冒険者の力、とくと見せてもらおうじゃないか。


「俺はさっきまでは一番固い甲羅に攻撃を試していたからな。それにまだ本気は出していねえからよ、弱点の首筋に本気の一撃を入れりゃ楽勝だぜ。俺の相棒の敵じゃねえ!」


 なるほど、どうみても甲羅が一番硬そうだからな。それに俺も硬化魔法をかけたとはいえ、刀が折れる可能性があるから全力では攻撃できなかった。これはかなり期待できるんじゃないか。


 大剣を構え変異種の首筋に狙いをつけ精神を集中しているドレインさん。他の討伐隊は念のために少し離れて彼を見守っている。


「いくぜ!これがA級冒険者の力だああああ!」


 身の丈ほどもある大剣を変異種の首筋に振り下ろす。そしてその首筋に大剣の刃が……


 バキィ


 変異種の肉に食い込むことはなく、代わりに彼の大剣が根本からポッキリと折れてしまった。


「あ、相棒うううう!」


 折れた大剣がクルクルと宙を舞い、彼の後ろの地面に突き刺さる。だいぶ愛着のあった大剣なのか、相当高い大剣なのか、リアルなorzの体勢になってしまい全く動かないドレインさん。


 対する変異種は相変わらず無反応だ。一応首筋には先程よりも大きな傷ができていたから、さっきよりも効いてはいるのだろうが、ドレインさんの相棒を引き換えにしてもあの程度しかダメージを与えられないとはなんて硬さだ。


「うーむ、ドレインの大剣でもこの程度のダメージしか与えられんのか」


 ギルドマスター結構ドライなのね。ドレインさんはまだorzの体勢で立ち上がれないというのに冷静に現状を分析している。




「よし、次は私が行こう。久しぶりに本気でいくか。ふっふっふ、血がたぎるわい!」


 今度はギルドマスターがいくらしい。この街最強の元S級冒険者、この世界のS級冒険者の力はどれほどかわからないが、ぶっちゃけ彼が駄目なら完全にお手上げな気がするぞ。


「大気に溢れたる力よ我に纏いたまえ、フィジカルアップ」


 ギルドマスターが身体能力強化魔法をかける。そういえばドレインさんはA級冒険者というのに魔法を使っていなかったな。やはり魔法を使える冒険者は少ないというのは本当かもしれない。


「行くぞ!ガトリングマグナム!」


 技名ダサッ!


 この世界の翻訳機能どうなってるんだろう。だが技名はともかくその威力は凄まじい。


 ドガガガガッ!


 なんとあの巨体が衝撃でわずかだが動いている。その拳のスピードも速すぎてほとんど見えない。ってか、ぶっちゃけ身体能力強化魔法を使っただけの拳の連打だろ。アタタタタタタタタタとかオラオラオラオラオラとか聞こえてきそうな勢いだ。


「はああああああ!」


 土埃が舞い上がり戦況は見えない。押し切ったのか。


「やりましたかね?」


 ああ、このポンコツ師匠がフラグ立てちゃったからもう無理な気がする。


「くそ、駄目だったか」


 土埃が晴れるとまだ変異種は健在であった。ポンコツ師匠の余計なフラグのせいではないと信じたい。


 だがさすが元S級冒険者。変異種の巨体がずれた後があり、首筋がボコボコにへこんでいる。ドレインさんには悪いがA級冒険者とはレベルが違うということか。というかこれをこのまま続けたらいけるんじゃないか?


「少し休憩したらまた試してみよう。今の手応えならば何度も繰り返しやればもしかしたらいけるかもしれん。ここまでやっても反撃はないし、他にも攻撃を試したいものはどんどんやってみろ。ただし攻撃魔法を使うものは反射する可能性が高いから必ず事前に周囲に伝えるようにしろよ!」


 変異種が傷ついたことにより少し希望が出てきた。討伐隊の士気もあがり、次々と変異種に攻撃を加えようと列を作っていき、各々が自信のある一撃を当てていく。


「リールさんは攻撃してみないんですか?」


「僕はみんなと違って一撃の破壊力を持つ攻撃力はないからね。どんなに頑張ってもあれは倒せそうにないね。ユウキくんやシェアルも挑戦してみたらどうだい?」


「わっ、私はやめておきますね」


 さすがにさっきの失敗でこりたのかシェアル師匠も挑戦しないそうだ。事前に周りに言っておけば大丈夫だとは思うけどな。いや、先程の特大のファイヤーボールでも駄目ということはやはり魔法は厳しいか。


「ユウキくんもせっかくなら挑戦してきたらどうだい?その剣の切れ味なら案外スパッといってしまうんじゃないかい?」


「そうですね、せっかくなら挑戦してみます。でもドレインさんみたいにならないように気をつけないと」


 そのドレインさんはというと、折れた大剣を目の前に体育座りをして動かない。……さすがに悲惨すぎてみんな声をかけられていない。


「そうだ、シェアル師匠。できたらシェアル師匠が俺に強化魔法とこの刀に硬化魔法をかけてくれませんか?そうですね、もし刀が刃こぼれ一つしなかったら、さっきの失敗はエレナお嬢様やアルゼ様には黙っておきますので」


「ほっ、本当ですかあ!?わかりました、私に任せておいてください!ユウキくんの刀には傷ひとつ付けさせませんよ!」


「さすが師匠頼りになります!お願いしますね、俺の刀を絶対に折れないようにガチガチにしてください」


「任せてください!私がユウキくんの刀をガチガチにしてあげますからね!」


 ……いや断じてセクハラとかじゃないからね。さっきのドレインさんの大剣がポッキリいっちゃったの見たら不安になってしまった。シェアル師匠の魔法の腕だけは信頼している。シェアル師匠が魔法をかけてくれれば俺も思いっきり刀を振り下ろせる。


 俺もだいぶ強化魔法と硬化魔法を使い込んできたが、まだまだシェアル師匠には敵わない。というか今は仲間なんだからドレインさんにもかけてあげれば良かった気もするが、ただまあ済んでしまったことは仕方がない。






 攻撃を加えている人達の列にシェアル師匠と2人で並ぶ。今のところはまだギルドマスター以上の傷を付けることができた人はいないようだ。少し待つと俺の番が来たようだ。


「それじゃあシェアル師匠、お願いします」


「はい、大気に溢れたる力よ我に纏いたまえ、フィジカルアップ!大地より生まれたる力よ、我に堅牢な守りを与えたまえ、プロテクト!」


 おお凄いな、やはり俺がやるよりもシェアル師匠の魔法の方が少し強力だ。俺もこの二つの魔法の練度はだいぶ上げてきたつもりだが、まだシェアル師匠には届かない。


 よし、これならこの刀もドレインさんの大剣のようにポッキリといくことはなさそうだ。正直に言うと倒せないのは仕方ないと思うけど、この刀だけは無事に守らないとな。数千万円もする高価な刀をたった一月で駄目にしたら鍛冶師のグルガーさんに申し訳なさすぎる。


 しかしいざ改めて変異種の前に立ってみると物凄くでかい。首周りが完全に俺の身長と同じくらいある。動かないからいいけど、こんなものが動いて襲ってきたらすぐに逃げ出す自信がある。


「ふぅぅぅぅ」


 さあ集中だ。元の世界でさすがに真剣は使ったことはないが、基本的には竹刀と同じはずだ。打ち下ろす際に真っ直ぐ、そして腕だけの力だけではなく体全体で真っ二つにする気持ちで打ち下ろす。面を打つつもりなんて甘い気持ちでは駄目だ、硬い岩でもぶった斬る気持ちで行こう。さああとはシェアル師匠(の魔法の腕だけ)を信じて思いっきりだ。




「いやああああああ!」




 ドレインさんがつけた首筋の傷を狙い、今持てる力の全てを刀に込めて変異種の首筋に打ち下ろす。今までこの刀でどんな魔物を切った時にも感じなかった手応えを初めて感じた。


 ザンッ!


 ……あれ、なんか普通に切れてしまった。


最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます!

執筆の励みとなりますのでブックマークの登録や広告下にある☆☆☆☆☆での評価をいただけますと幸いです。

誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けますと非常に嬉しいです( ^ω^ )

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