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第56話 このポンコツ師匠が〜!


 休憩が終わり、魔物の討伐が再開された。こんな森の中にどれだけの魔物がいるんだと思えるほど多くの魔物が森の奥から更に出てきた。


「おいマジかよ!こっちだ、変異種がいたぞ!」


 討伐のさなか、左側から大声が上がる。どうやら本命の変異種がでたらしい。さて、変異種は初めて見るのだが一目でわかるというのはそれほど禍々しい気配でも出しているのだろうか?


「……冗談だろ?」


 確かに一目でわかった。ただし気配ではない。明らかに他の魔物とはサイズが違うのだ。変異種はサイズが違うと言っていたがここまで他の魔物と違うものなのか?


「でっ、でっかいですねえ。こんなに大きいのは初めて見ました」


「僕も流石にこのレベルの大きさの変異種は初めて見るね」


 どうやらシェアル師匠もリールさんも初めて見るサイズの変異種らしい。そりゃそうだよな、いくら変異種といってもこんなでかい奴がポンポン出てきたら確実に人類は滅亡するぞ。全員心臓を捧げないといけなくなる。


 俺が今まで見た中で一番大きかった魔物はクマ型の魔物で、元の世界のクマよりも大きく俺の身長の3倍近く、5m〜6mの大きさだった。そんなサイズのクマ型の魔物が襲ってくるんだから物凄く怖かった。


 この変異種はどうやらカメ型の魔物らしい。背中に硬そうでトゲトゲがついた甲羅を背負っている。そして何よりその大きさがやばい。そのクマ型に魔物の5倍近く、つまり30mレベルの大きさだ。


 学校の25mプールよりも大きい。一狩りいくゲームで例えるとラオシャ○ロンまではいかないまでもアカムト○ムかウカムル○ス級のレベルだ。あのゲームやったことのある人なら一度は思ったことがあると思うが、実際にあんな大きさのモンスターがいたら片手剣とか弓じゃあ絶対に倒せないと思う。


「総員、戦闘準備につけ!腕に自信のあるものは変異種に攻撃準備、まずは様子見だ、絶対にあせるなよ!他のものは周囲に展開、他の魔物どもをこちらに近寄らせるな!」


 さすが元S級冒険者のギルドマスター。みんながあっけに取られているところに的確な指示が入る。やはり場数を相当踏んできたのだろう、よくこんな大きな相手に冷静に構えられるものだ。よし、流石にこんな相手に刀で戦える気がしないので、周りの魔物を一掃しよう。


「周囲の魔物は我々に任せて変異種をお願いします」


「よろしくね、シェアル、ユウキくん、行こうか」


「あっ、はい」


 周囲の魔物はべニールさんとライニさんがなんとかしてくれるらしい。俺もあっちがよかったんだけど。




「しかし、どうしたものかな」


 変異種を討伐部隊の半分ほどの人数で取り囲む。ギルドマスターがどのように攻め始めるか悩んでいる。幸いなことにカメ型の変異種はこの場に座りこんで攻撃も移動もしようとしていない。強固そうな甲羅から手足と顔は出しているからこちらの動きは認識できているとは思うのだがなぜか動かないのだ。


「とりあえず頭に打撃と斬撃と魔法でそれぞれ攻撃を与えてみるか。さすがに攻撃を始めたら暴れ出すかもしれん。各自気を引き締めろ」


 さすがに攻撃をはじめたら動きだしそうだ。何が起こってもすぐに逃げられるようにしておこう。一人の冒険者が前に出る。


 一番攻撃力がありそうなのはギルドマスターだが、何かあった時のために備えている。脳筋のイメージはあるがこと戦闘に関してはかなり慎重なようだ。まあそうでなければ冒険者としては大成できないだろう。


「うおおおらぁ!」


 冒険者が変異種の脳天に棍棒のような武器を思いっきり振り下ろす。


 ガインッ!


 棍棒のような武器が弾かれた。変異種が暴れるということもなく、むしろ何事もなかったかのように平然としている。


「ちくしょう!」


「なんて硬さだ。打撃は通らんか。次は剣で切れるか試してみてくれ」


 別の冒険者が剣で斬りつけるが結果は同じだった。暴れることはなかったが変異種に傷をつけることができなかった。


「あとは魔法だな。誰か頼む」


 打撃も斬撃も駄目だとなるとあとは魔法か。ゲームみたいに弱点のようなものがあればいいんだけど。


「大いなる大地よ、ひとつに固まりて我が敵を穿て!ストーンバレット!」


 おお、どうやら土魔法のようだ。杖を持った男の目の前に岩の塊が出てきて少しずつ大きくなっていく。


「いけ!」


 岩の塊が変異種目掛けて飛んでいく。だがここで予想外の出来事が起きた。変異種が硬すぎて魔法が砕けるならまだわかる、だか岩の塊が変異種に当たる直前に見えない壁に弾かれるように反射した。


「はあ!?」


 そして弾かれた岩は魔法を撃ったものではなく別の方向へ飛んでいく。そしてその先には別の冒険者がいた。


 バキッ!


 別の冒険者に当たる直前にギルドマスターの拳が岩を打ち砕いた。やべえ、ギルドマスターさんカッコいい!よくあれに反応できたな。


「大丈夫か?」


「はっ、はい。ありがとうございます!」


「まさか魔法反射まで持っているとはな。さすがにこれは面倒だな」


 なにそれ硬い上に魔法反射とかチートすぎない?こんなんどうにもならないだろ。


「とりあえず反撃する気はなさそうなのが幸いか。もしかしたら絶対的な防御力を持つ代わりにまともに動けないのかもしれない」


「どうすんだいギルドマスター?」


「そうだな。うーむ、誰か何か良い案はないか?」


「ふむ、とりあえずいろんな部位に様々な攻撃を加え、弱点がないか探ってみるのはどうだろか?」


「魔法が無理でもこちらで起こした火で炙ってみるのはどうだ?」


「長期戦覚悟で餌を取るのを防いで餓死させるのはどうでしょう」


 敵の目の前で作戦会議するというのはなんとも言えないな。討伐部隊で作戦を話し合う。


「よし、とりあえず変異種は動く気配はない。各自様々な部位に攻撃を仕掛けてみるか。儂も久しぶり全力でいこう。しばらくしたらもう一度ここに集合し、状況を確認し、次の行動を決めよう、それでいいな」


「「「おう!」」」


 どうやらまずは各自攻撃することが決まったようだ。しかしこんなでかいやつに弱点なんかあるのかな。とりあえず目とか喉とか尻尾とかかな。




「それじゃあ早速魔法で攻撃してみますねえ!まずはこっちの右手に当ててみますう!」


 とりあえず討伐部隊で別れた後俺たちは変異種の右手側に来ていた。


「そうですね、まずは魔法反射が右手にもあるのか確認をしてからいろんな属性魔法を小さい魔法で試して……」


「赤く輝き荒ぶる炎よ、我が敵を燃やし尽くせ!ファイヤーボール」


 呪文を唱えたシェアル師匠の杖の前に火の玉が出現し、どんどんと大きくなり3m以上に巨大化する。


 ちょっ、まだ魔法反射の確認すらしてないのになんでそんなでかい魔法を撃とうとしてんだよ!しかもまだ反射された時のことを考えてない!それに火魔法を森で撃つなとアルゼさんに言われたばっかりだろ!


「シェアル師匠、ちょっと待って!」


「シェアル、一度魔法をキャンセルするんだ!」


「いけ!ファイヤーボール!」


 俺とリールさんが引き止めるも虚しく、シェアル師匠が魔法を放つ。ほぼ初級の魔法にも関わらず、魔法に関しては一流の使い手であるシェアル師匠が放った特大のファイヤーボールは相当な威力があると見える。


 しかし、そんな威力の魔法でさえも変異種の右手に当たる直前に見えない壁に阻まれるように魔法が反射される。そして反射された方向は俺たちの方向ではなく、隣にいた一団に向かっていく。


「ちょっと、なんでこっちに来てるのよ!」


 しかも運の悪いことにそこにいた一団は隣の領主であるローラン様であった。


「このポンコツ師匠が〜!」


 よりにもよって隣の領主様に傷でもつけたらエレナお嬢様の責任問題になることは間違いない。シェアル師匠が慌てて防御の魔法か何かを唱えようとしているが間に合うかわからない。


 既に俺は走り出していた。幸いシェアル師匠が魔法を撃った瞬間から念のために身体能力強化魔法と硬化魔法をかけていたためすぐに動き出すことができた。


 そしてさすがローラン様の護衛だけのことはある。不測の事態であるにも関わらず、すでにルーさんを含めた数名の護衛がローラン様を守るように立っていた。


 そして更にその前に割り込むように俺はファイヤーボールの前に立ち塞がる。ローラン様はもちろん護衛のルーさん達にも怪我ひとつさせるわけにはいかない。


「いやああああああ!」


 集中しろ!ファイヤーボールの中心を見極めろ!


「せいやああああああ!」


 迫ってくるファイヤーボールを真正面から日本刀で叩き斬る。


 ザンッ!


 巨大なファイヤーボールが真っ二つに割れ、そして割れた二つのファイヤーボールが消失していく。どうやら練習と同じようにうまくいったようだ。




 グルガーさんにこの刀を作ってもらったときに、ミスリルを心鉄に使用しているから、魔法も切ることができるかもしれないと言われていた。すぐに俺はシェアル師匠に頼んで魔法を切ることができるかの実験を屋敷で行ってみた。その結果、なんとこの刀は魔法を切ることができたのだ。


 そして理由は全くわからないが、その魔法の中心を切ると即座に魔法が消滅することがわかった。中心から外れて切ると魔法を切れることは切れるのだが、両断した後の魔法は残ってしまう。練習の際は何度切り損なったファイヤーボールで火傷したかわからない。


「……魔法を切ったのか!?」


「こんなの初めて見たぜ!」


 ルーさんやローラン様の護衛の人達が驚いている。シェアル師匠やアルゼさんも知らないくらいだったから魔法が切れるという発想はないんだろうな。そして変異種に特に動きがないことを確認し、ルーさんや護衛の人達の間を通りローラン様の前に立つ。


「あっ、えっとその……凄かったのじゃ。じゃなくて、えっとその、助けてくれてあり……」


「この度はすみませんでしたあ!!」


 ローラン様の目の前で華麗なジャパニーズ式土下座を決める。


「事故とはいえローラン様に魔法が向かったことを深くお詫びします!この責任は我々、特に術者にありますので、どうかエレナお嬢様には責任が行かないようお願い申し上げます!」


 訳すとローラン様にファイヤーボールが向かったのはあくまで事故であって故意じゃないよ、罰するならシェアル師匠だけで俺らやエレナお嬢様には責任がないんだぜ、的なことになる。


「……はあ、もうよいわ。今度屋敷に来る時はいつもより多めにケーキを持ってくるがよい」


 ローラン様はなぜか少し考えた後、ため息をつきながらそんなことを言う。


「わかりました、必ず!」


 よかった、どうやらそれほど怒っていないようだ。ケーキくらいなら安いものだ。ルーさんや護衛の人達にも謝ってからシェアル師匠とリールさんのところへ戻る。


「危ないところだったね、ユウキくん。さすがにローラン様に怪我でもさせたら大問題になるところだったよ」


「ええ、本当に間に合ってよかったです」


「さすがユウキくんですねえ!魔法を切る練習にいっぱい付き合ってあげたかいがありました!これは私のおかげでもありますねえ、師匠として私も鼻が高いですう!」


「……エレナお嬢様とアルゼ様にはきちんと報告しておきますね」


「ごめんなさい〜!!お願いですから二人には内緒にしておいてください〜!バレたら屋敷を追い出されちゃう〜」


 まったく、このポンコツ師匠は。まあ魔法を切る練習に付き合ってくれたのも事実だから難しいところではある。とりあえず2人に報告するかは保留だな。



 その後はシェアル師匠が威力を抑えて色んな属性でいろいろな部位に魔法を試してみたが、これといって特に攻撃が効きそうな場所は見つからなかった。俺もこの刀なら切れるんじゃないかと軽く試してみたが駄目そうだった。あんまり思いっきりいくと武器の方が壊れてしまいそうであまり力は入れることができなかった。


最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます!

執筆の励みとなりますのでブックマークの登録や広告下にある☆☆☆☆☆での評価をいただけますと幸いです。

誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けますと非常に嬉しいです( ^ω^ )

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