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第55話 討伐戦開始


「それじゃあみんな気をつけてね!」


「みなさん、いってらっしゃい!」


「いってらっしゃい、ユウキお兄ちゃん気をつけてね!」


「気をつけて行って来い」


 冒険者ギルドから連絡が来た2日後の朝、変異種の魔物の討伐隊として、エレナお嬢様、マイル、サリア、アルゼさんの見送りを受けて屋敷を出発した。街の外に出てすぐのところで集合することになっている。




 門を出て街の外に出るとすでにかなりの人数がいた。大半の人達は冒険者のようで多種多様な装備を身につけている。これだけこの街に冒険者がいたと言うのも驚きだ。


 そんな中に一組だけ、全身銀色の鎧一式を装備している一団があった。10人のグループだったから残り2人の領主の私兵なのかもしれない。護衛だからルーさんはいないのかもしれないし、あのお嬢様っぽくないからローラン様の私兵ではないかもしれないな。


「凄いですね、この街にこんなに冒険者がいたんですね」


「まだ少ない方だよ。これでもランク上位の冒険者だけだから全部だったらこの5倍はいるんじゃないかな」


「それでも前回よりも少ない気はしますねえ。でもまだ時間はあるからまだまだ来るかもです」


 まじかよ。この5倍もいるのか。やっぱりみんな夢のある冒険者という職業は人気があるらしい。まあ俺もエレナお嬢様に拾われなかったら冒険者になっていた可能性は高いしな。


「我々も普段は冒険者をやっていますからね。何か気になることがあったら聞いてください」


「といっても今回参加できるギリギリのCランクですがね。まあアルゼ様に拾ってもらった専属の冒険者とでも思ってください」


 今回同行している2人はやはり盗賊を討伐するときに来ていた人達のうちの2人だった。名前はべニールさんとライニさんだ。なるほど、普段は冒険者として活動していたんだな。


「べニールさん、今来ている中で有名な人とかいるんですか?」


「そうですね。とりあえず私が知っているところだとあそこにいる大剣持ちが『炎龍殺しの大剣ドレイン』、そっちの灰色のローブに青色の杖を持った女性が『蒼き賢者のラマー』、この2人が所属しているパーティが『暁の風』になります。


 あとはこっちのでかい弓を持っているエルフがソロでやっている『弓影なるビーズ』。この3人がこの辺りでは有名なAランク冒険者ですね」


 思ったよりも厨二全開な名前ばっかだな。異世界基準だとやっぱりこれがかっこいい名前なんだろうか。そしてやっぱりドラゴンキラーの称号みたいなのはあるのね。


「そして何よりこの街の冒険者ギルドマスターで元Sランク冒険者の『両鉄拳のガードナー』ですね。引退したとは言えこの街では一番強い冒険者です。まああの人がいれば変異種なんて楽勝でしょうね」


 一番強いのあのガチムチのおっさんかよ!そしてその二つ名は元の世界じゃ弱い代名詞なんだがこの世界では違うらしい。元気でやってるのかなフ○ボディさんは。


「ちなみにこの二つ名の由来は武器も使わずに己の拳のみで名だたる魔物を蹴散らしてきたことに由来しています」


 だと思ったよ!絶対あの人武器も防具もつけずに戦ってきたんだろ。


「なるほど、ありがとうございます」


 などとべニールさん達と話しているうちに新たに15人ほどの団体が来た。そしてその中心には見知った顔がいた。


「あら、あなた達は5人なの、少ないわね」


「……久しいな、ユウキ」


 ローラン様とルーさんだ。先月ケーキを持って行ってルーさんと組手をして以来だ。ローラン様は見送りに来たのか。意外と部下想いのところもあるんだな。


「これはローラン様、お久しぶりです。お忙しい中わざわざ皆さんの見送りにいらっしゃるとはお優しいですね。ルーさんもお久しぶりです。変異種の討伐、頑張りましょう!」


 とりあえず周りに人の目もいっぱいあるので執事らしく対応していく。


「あら、何を言っているのかしら。この度の変異種の討伐、妾も参加させていただきますわ」


「えっ、ルーさん本当何ですか?」


「……ああ。問題ない、お嬢様は我々が命を賭けて守る」


 やべえ、ルーさんマジかっこいいっす!無口なキャラがこういう騎士っぽい言葉を言うのが様になりすぎているな。獣人でしかも男だけど惚れちまいそうで困る。


「そちらもせいぜい気をつけることね!さあ、行くわよ」


 そう言いながら踵を返すローラン様。


「リールさん、領主様が直々に変異種の討伐に出てくることってあるんですか?それとも実はローラン様はめちゃくちゃ強いとかあります?」


「いや、僕の知る限り領主様がわざわざついてくることは初めてだね。討伐出発前に激励に来たことはあったかな。ローラン様は領地経営の腕があるのは有名だけど戦闘に関しては聞かないね。今見た限りでは強者の感じはしないけど」


 だよなあ。あの人が戦えるとは思えない。まあルーさんもいるし、その分護衛も多いから大丈夫だろ。




 「それでは時間だ。これより変異種の魔物の討伐を行う!まずは今この場に集まってくれたことに感謝する。大半は冒険者ギルドの強制だがそれでもだ。みんなも知っている通り変異種討伐は時間との勝負だ。魔物が溢れ出せば近隣の村や街に被害が及ぶ。俺たちの大切な人達に危害が及ぶかもしれないことを忘れるな」


 全員が集まりギルドマスターのガードナーさんが出発前に全員を鼓舞する。そうだな、街にはエレナお嬢様も残っている。逃げるわけにはいかない。


「そのうえで自分の身を守れ!前回5年前の戦いでは残念ながら数名の死者が出た。お前らの後ろには大勢の仲間がいるしこの俺もいる。無理をする必要はない。これは冒険ではない、引くこともまた勇気だ!今年は絶対に1人の死者もだすな!いいな、わかったな!」


「「「おう!」」」


  さすがギルドマスターだ、俺も含めて討伐部隊の指揮がだいぶ上がっている。


「そして今年は特別にこの街の領主の一人であるフローレン=スミス=ローラン様がおいでだ。ローラン様お願いします」


 全員が臨戦体勢のところ、場違いなドレス姿でローラン様が現れた。冒険者達がざわざわとしだす。


「あれが噂のローラン様か!確かにお美しい!」


「初めて見たわ、確かに絶世の美女と呼ばれるだけはあるわね」


「俺は一度だけ遠くから見たことがあるぜ!ああ、可憐だ!」


 確かに見た目だけはかなりの美女だからな、ローラン様は。


「妾はこの街の領主の一人であるフローレン=スミス=ローランと申します。本日はこのような格好で申し訳ありません。街を守っていただく皆様の勇姿がどうしても見たくて無理を言って同行させてもらいましたわ。護衛を連れてきましたので、妾のことは気にしないで下さい。そしてどうかお怪我のないよう気をつけてください!」


「「「うおおおお!!」」」


 先程とは比べものにならないほどの歓声が上がる。俺はローラン様の中身を知ってるけど周りの人から見たら儚げな御令嬢が自分達の活躍を見てくれると言うのだからそりゃあ士気も上がる。


「行くぞ、野郎ども!!」


「「「おう!」」」


 そして魔物の変異種の討伐が始まった。






「大いなる風の槍よ、我が敵を貫き通せ!エアリアルランス」


「ガゥア!」


「ゴフゥ!」


 シェアル師匠が唱えた風魔法で複数の魔物が体を貫かれ力尽きる。すでに討伐開始から1時間が経過している。すでに倒した魔物の数は数え切れないほどだが、討伐部隊の死者は0、数名の軽傷者がでた程度だ。


 というのも今回の討伐戦では魔法使いの存在が大きすぎる。遠距離から広範囲で高火力の魔法を使用することにより安全に一度で数体の魔物を薙ぎ払っていく。牛型、犬型、猪型、鳥型など様々な魔物が出てきたが遠距離攻撃をしてくる魔物はいない。そのためこちらだけ一方的に遠距離から攻撃できるのだ。


 まずは魔法を使って遠距離から敵の数を減らし、そのあと近距離攻撃できるものが残りを一掃するという作戦だ。その中でもシェアル師匠の活躍ぶりは圧倒的だった。他の魔法使い達は休み休みに魔法を発動しているが、シェアル師匠は大規模な魔法をすでに20発近くは撃っている。


 そして普段のドジっ子ぶりからは想像もつかないような精度で魔法を魔物に当てていく。本当にこの人は魔法に関してのみはチート能力を持っているんじゃないかと疑うレベルだ。


 俺とリールさんなんて近づいてきた5体くらいしか倒してないぞ。圧倒的じゃないか我が軍は!


「魔物の数がだいぶ増えてきましたけど、変異種が近いってことですかね?」


「そうだね、森に入った時よりも明らかに魔物の数が増えているから間違いなく変異種に近付いてきてはいるだろうね」


 現在討伐部隊は同士討ちを避けるため、パーティごとに別れ横一列に並び、魔物の数が多い方向へ進んでいる。しかも初めのうちは単独の魔物に遭遇することが多かったが、同じ種類の魔物が徒党を組んで襲ってくることが増えてきた。


 そしてこれだけ圧倒的な魔法の力を見せつけて、仲間を倒されてきたにもかかわらず、引くことなくこちらを襲い続けてくる凶暴性を持っていた。確かにこんな魔物が増え続ければ村や街に被害が出ることは容易に想像できる。


「よし、襲撃も落ち着きこの辺りは見通しもいい。ここで15分ほど休息をとる。魔物の数も増えてきたし、そろそろ変異種と遭遇するだろう。各自しっかりと備えておくように!」


 ギルドマスターの号令により他のパーティも腰を下ろし休息を取り始める。ちなみにギルドマスターは横一列になったパーティの後ろに位置し、全体の指揮や危なくなったパーティのフォローにまわっている。


「お疲れ様です、みなさん。はい、水分補給と軽い食事です」


 ようやく一息つけるので腰を下ろしながら、リュックに入れていた飲み物とサンドウィッチをだす。このサンドウィッチはサリアとマイルが朝早く起きて作ってくれたものだ。


「うん、ありがとう。それにしても相変わらずシェアルの魔法はすごいね。僕らは必要ないんじゃないかって思えてくるよ」


「本当です!実戦で魔法を使っているシェアル師匠を初めて見ましたけど、まさかこんなにすごいなんて思ってもいませんでしたよ。間違いなく現在の討伐数はトップでしょうね」


 他のパーティの戦闘の様子も横目でちらちら追っていたが、明らかにシェアル師匠とは雲泥の差であった。この時点で人数が少なくて他の領主たちと比べて貢献度が低いなんてことを言われる心配はおそらくないだろう。


「いやですよう、リールさんにユウキくん。私は近距離戦は苦手ですからねえ。2人や護衛の人が私を守ってくれているから安心して戦えるのですよう」


 これだけ強くても自慢することなく謙遜するシェアル師匠。強いし優しいし、可愛くて胸も大きい。これでポンコツじゃなければなあ。あれ、ポンコツじゃなきゃこの人が一番理想のヒロインなんじゃないか?


「任せてください、必ずこの身に代えてもシェアル師匠を守ってみせますよ!」


「はわわ、無理だけはしちゃ駄目ですよう。でもありがとうね、ユウキくん」


 やべ、あまりにもクサすぎる台詞をはいてしまった。それにしてもちょっと照れているシェアル師匠は本当に可愛いかった。これでポンコツじゃなければなあ(2度目)。


「なかなかうまそうなものを食べているのう」


「これはこれはローラン様にルーさん。いっぱいあるので宜しければ少しいかがですか?」


 食べ物に釣られて食いしん坊お嬢様がやってきた。ちなみにローラン様のパーティはうちらのパーティの隣だったので戦闘光景はよく見れた。ローラン様の周りに5人が常に護衛し、他はうちらと同じように魔法の遠距離攻撃を加えてから近距離攻撃で叩くといった感じだ。ルーさんも俺と同じで近距離攻撃を担当していたようだ。


「お嬢様、こちらにも食事はありますのでこちらをお召し上がりください」


 別の護衛の人が止めようとする。まあ敵対しているわけではないが別陣営からの食べ物は受け取りづらいよな。こっちも半分以上は断られること前提の社交辞令である。


「ああ、こいつは馬鹿じゃがそこまで馬鹿なことをする馬鹿ではないから大丈夫じゃ」


「馬鹿馬鹿うるさい!そしたらこの卵サンドとカツサンド辺りがおすすめですよ」


 そういいながら毒見すらせずにサンドウィッチを口に運ぶローラン様。本当にこういうところは豪快だよな、このお嬢様。


「ほう、新しくできた柔らかいパンに茹でた卵とマヨネーズというソースをあえているのじゃな。素朴な味じゃが優しくてうまいのう!そしてこっちは同じく柔らかいパンにあげた肉と野菜に甘いタレがかかっておる。冷めた肉でもタレがかかっていることによって美味しく食べられるのう!」


 相変わらず神の舌でも持っているんじゃないかというレベルの分析力である。


「ふむ、なかなかうまかったな。手軽に作れてしかもいろんな中身を入れられるのはいいのう」


「他には魚のツナとマヨネーズを混ぜたもの、ハムとチーズを挟んだもの、変わり種でクリームとフルーツを挟んだフルーツサンドとかもありますね」


「なんと、フルーツサンドじゃと。ユウキ、今度ケーキを持ってくるときにそれも持ってくるのじゃ」


「はいはい、わかりましたよ。そんなちゃんとしたものじゃないかもしれないけど持っていきます」


「うむ、頼んだぞ!それじゃあのう、こんなところで死ぬんじゃないぞ!」


「ローラン様もお気をつけて。あっ、これルーさんも少し持ってってください」


「……感謝する」


 嵐のような一団が去っていった。周りにいたみんなはポカンとしてローラン様とのやりとりを見ていた。そういえばこんな感じでローラン様と話すのを見られていたのは初めてだな。なんだかんだで少しリラックスもできたしあのお嬢様に少し感謝しておこう。


最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます!

執筆の励みとなりますのでブックマークの登録や広告下にある☆☆☆☆☆での評価をいただけますと幸いです。

誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けますと非常に嬉しいです( ^ω^ )

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