第54話 変異種
結局武器や防具を新調してから一度もまともに使うことなく一月がたった。無事に新しい工場がオープンし、元の工場にも新しい人達が入った。
新しい工場のほうは正式な従業員を10数名近く雇い、その人達に新しい工場で働いてもらう奴隷達を新しく奴隷契約を行ってもらうこととなった。奴隷全員を俺が契約してしまうともし万が一俺に何かあった時には大変なことになるからな。
そして盗賊狩りの方もリールさんと続けている。常闇の烏を潰して少し隠密や戦闘に慣れてきてからは効率も上がり、それほど大規模ではないが、すでに3つの盗賊を潰している。
いずれは盗賊狩りのユウキと呼ばれる日も近いかもしれない。まあエレナお嬢様に正体がバレないように覆面をつけ始めたからそんなことはないとは思うが。そして今日も盗賊狩りと屋敷から外出する表向きの理由である魔物の狩りを行っていたのだが。
「あれ、なんか魔物の数が多くないですかね?」
まずは魔物の肉を確保すべく、キャンプ地の近くでサーチを何度か行ったところ、普段の3倍近くの魔物がサーチの魔法に引っかかった。
「そうなのかい?もしかしたら近くに巣があるのかもしれないね」
「なるほど。でもサイズも距離もバラバラなんですよね。まあ、たまたまだと思うので忘れてください」
まあそこまでたいした問題ではないだろう。きっと偶然近くにいっぱいいただけだ。
「……ふむ、可能性はあるのかな。ユウキくん、ちょっとこのあたりを散策してみよう。もちろん盗賊もだけど魔物の数にも少し気を配って見てほしい」
「わかりました」
そして2時間ほどあたりを回ってキャンプ地に戻ってきたが、どうやらいつも森と雰囲気が異なるらしい。
「いつもよりかなり多くの魔物を見かけました。しかも気性が荒い感じで何度か魔物同士で争ってましたね。これってこの森の魔物はいつもこんな感じなんですか?」
「僕が見た感じも同じだね。いつもより魔物が多く凶暴になっていたよ。これは急いで街に戻ってエレナお嬢様と冒険者ギルドに報告する必要があるね」
「やっぱり異常事態なんですか?」
「うん、ユウキくんは知らないかもしれないけどこの街の近くでは4〜5年に一度、魔物が大量発生してしまうんだ。しかも放っておくと更に大変なことになってしまうから急がないとね」
そのあと急いで街に戻り、エレナお嬢様とアルゼさんに森での出来事を報告した。
「そうか、おそらくそれは突然変異の魔物のせいであろう。まだ原因は判明していないが何年かに一度突然変異の魔物が生まれる。なぜかその魔物が発生すると付近の魔物の活動が活発になる。魔物の数が増えたり凶暴になるのもそのためだな」
なるほどどうやらこの世界では何年かに一度起こる現象らしい。
「その突然変異の魔物さえ仕留めれば、すぐに正常に戻るはずだが、問題はその魔物が発生してからどれくらいの時間がたっているかだな。数十年前は発覚が遅れ、更に変異種の魔物の討伐自体も大量発生した魔物に阻まれ、近隣の村や街にかなりの被害が出た。
とりあえずまずは本当に変異種が現れたのか付近の状況確認が必要だ。ユウキ、エレナお嬢様に書状をかいてもらうから冒険者ギルドに届けてくれ。私は国の者に届けてくる」
「わかりました!」
そういえば冒険者ギルドは初めてになるな。異世界といえば冒険者だが今まで全く縁がなかった。どちらかと言えば商業ギルドの方がお世話になっていたな。
そんなわけで冒険者ギルドの前にきた。この街に冒険者ギルドはいくつかあるが、本部はロレーナ様の領地にある。まあどこに本部を置くかは昔いろいろと揉めたようだ。
カラン、カラン
冒険者ギルドのドアを開けるとドアに取り付けられたベルが鳴り、中にいた者が一斉にこちらを見る。そこにはザ・異世界という風景が広がっていた。
身の丈以上の大きな大剣を持ったイヌの獣人、ローブに杖といった魔法使いの女冒険者、昼間っから酒を飲んでトランプで賭けをしているガラの悪そうな髭面の男達。やっぱり異世界といえば冒険者だよな。今度エレナお嬢様に許可を取って冒険者登録をしてみるのもいいかもしれない。
執事服を着ており依頼者と思われたのか定番イベントであるガラの悪い冒険者に絡まれるということはなく受付へ向かった。
「冒険者ギルドへようこそ!ご依頼でしょうか?」
サラサラとした金髪をなびかせ、にっこりとした笑顔で迎えてくれる若くて可愛い受付嬢。やっぱり異世界のギルドの受付嬢はこうでなくちゃな!こんな受付嬢に毎日迎えられるなら冒険者生活も悪くないのかもしれない。
「あのう、ご依頼でしょうか?」
おっと、あまりの可愛さにちょっとトリップしていたようだ。
「はい、アルガン家の使用人をしておりますユウキと申します。魔物の変異種が発生した可能性があるのでその調査を依頼しに来ました。こちらがアルガン家からの書状になります」
「変異種!?アルガン家の方ですね、今上の者を呼んできますのでこちらにお願いします」
変異種とアルガン家の使いということで元の世界でいう応接室のような部屋に案内された。元の世界と違うのは魔物の皮でできた椅子と魔物の剥製の飾り物があるというところか。
「おう、待たせたな。俺がこの街のギルドマスターをしているガードナーだ、よろしくな」
出てきたのはガチムチの筋肉を持った大男だった。白髪が結構あることから年齢的に50くらいはいってそうだが、肉体的には凄まじい。筋肉の鎧に覆われたという表現が一番しっくりくる。そして歴戦の闘いの証というように、あちこちに古傷がある。というか何故に上半身裸なんだよ!
「アルガン家で使用人をしておりますユウキと申します、よろしくお願いします」
とりあえず上半身が裸なことは置いておいて挨拶をする。
「にしても変異種がでたか。こいつがでたら時間との勝負だ。今日中に調査部隊を派遣するから数日後には結果が出るだろ。それまでに討伐部隊の編成をして結果が出次第討伐に向かう。
討伐部隊は冒険者の一定ランク以上の者が強制で参加、国からの部隊やあんたら領主の私兵が参加するだろうから変異種にもよるが人数は十分だろ。ま、調査の結果変異種の発生じゃなかったってのが一番いいけどな」
おっと、このギルドマスター見た目とは違って脳筋ではないようだ。やはり人は見た目で決めてはだめだな。
「とりあえずアルガン家には調査が終わり次第連絡をするから討伐部隊を組んで待っていてくれと伝えてくれ。他の領主達には冒険者ギルドから連絡をしておこう。よし、副ギルマスが決めた内容はこんなところだな。何か質問があったらうちの副ギルマスに聞いてくれて」
……前言撤回、どうやら副ギルドマスターさんが決めていたようだ。質問に関しても副ギルマスに丸投げ。
「わかりました、アルガン様にはそのようにお伝えします」
「おう、よろしくな。それじゃあ俺は討伐にむけて鍛えるとするか。ところでその腰につけてる武器は最近流行りだした刀って武器だろ。そんな最新の武器を持ってるってことはお前さんもなかなか戦えるんだよな。おしいな討伐前じゃなきゃちょっと死合してもよかったんだけどな」
「しませんよ!討伐が終わったとしてもしませんからね!」
何軽いノリで死合とか言ってんだ!?これだから脳筋は!
「怪我の心配なら無用だぞ。なにせうちには腕のいい治癒魔法を使える奴がいるからな」
何その理論!?怪我しても毒を持っても魔法で治せばそれでいいやとかうちの師匠達みたいだぞ!
「いえいえ、遠慮しておきます。そういうのはうちの訓練で間に合ってますので」
「そういえばアルガン家には老騎士のアルゼがいたな。あいつに鍛えられているならますます手合わせ願いたいところだったんだがしょうがない」
おや、もしかしたらこのギルマス、アルゼさんと知り合いなのかな。まあ聞いたら死合にとかなるかもしれないから聞かないけど。
「それじゃあ最後に、森の異常に気付いたのはあんたともう1人という話だったな。発見が遅れれば遅れるほど近隣の村やこの街にも被害が出る可能性が上がる。
この街のギルドマスターとして、いや一個人として非常に感謝している。あんたが討伐部隊に出なかったとしてもあとは俺たちに任せてくれ、必ず被害を最小限に抑えて見せる!もう1人の発見者にも伝えておいて欲しい」
そう言いながらギルマスであるガードナーさんは頭を下げて右手を差し出してくる。……全くたかが使用人にギルドマスターが頭を下げるなんてな。脳筋ではあるが悪い人ではないようだ。
「こちらこそよろしくお願いします。もう1人にも伝えておきます」
そういいながら右手を差し出しがっしりと握手した。ちなみに握力が物凄く強く、身体強化魔法を使いそうになった。全く、これだから脳筋は!
そしてそのたった2日後、早急に調査を終えた冒険者ギルドから屋敷に連絡がきた。その結果は変異種の存在を確認、2日後に討伐部隊を派遣するため、可能なら私兵の援助を求むという内容だった。その内容について屋敷で緊急会議をすることになった。
「それでは冒険者ギルドからの援助要請についてだが、当然アルガン家からも人数を出したいと思う」
「ねえ、じい。その援助要請は断れないものなの?領主が私に代わってまだ落ち着いていないことを理由にしたら駄目かしら?」
「いえ、断ることは可能だと思いますが、体裁的にはよろしくありません。というのも例年、各領主は10名ほどの私兵を討伐部隊に参加させて多少の戦果をあげております。今回も間違いなく他の2つの領主は私兵を参加させるでしょうし、そこにアルガン家の援助がないのはよろしくないかと」
なるほど、確かにそれはあまりよろしくない。ただでさえ最近は、アルガン家の領地が栄えて人や物が集まってきているのに、街を守るための人は出せないの?とか因縁をつけられかねない。
「とはいえ人数はそれほど出すことができないので、少数精鋭のシェアル、リール、ユウキの3名と援助2名の計5名を派遣することを提案いたします」
「援助2名というのはマイルとサリアのこと?」
「僕も魔法が使えるようになったし、みんなの手助けをしたいです!」
「はい、私もユウキお兄ちゃんの援助をします!」
今日の会議から2人も参加するようになった。確かに2人とも魔法も十分使えるようになり、戦闘力としては普通の大人以上はあることは間違いがさすがにまだ無理だろ。
「いえ、戦闘ができる部下2名に任せようと思っております。マイルもサリアも十分に戦闘はできると思うがまだ実戦経験はありませんので。今度、狩りに同行させるから2人とも今回は私と一緒に屋敷の守りを固めてくれ」
もしかしたら盗賊討伐の時に同行している馬車の人達かもしれない。
「……はい、わかりましたアルゼ様」
「えー、サリアもユウキお兄ちゃんと一緒に戦いたいのに!」
「普段でも数名から十名、ひどい時では百名近くの死者もでることがあるから我慢してくれ。前回変異種が出た時、アルガン家より私とシェアルと他の8名で参加したが、半数の者が負傷している。私も負傷したことがあるし、あまり変異種の発生による大量に増えた凶暴な魔物を舐めたらいかん」
「……わかりました、アルゼ様」
どうやらマイルもサリアも納得してくれたらしい。
「ではアルゼの提案で行こうと思うけどみんなは大丈夫?」
「はい、問題ございません」
「はっ、はい〜。たぶん大丈夫ですう」
「はい、大丈夫です」
俺を含めて3人の参加者は承諾する。
「ちなみにアルゼ様、変異種って何か特徴があるんですか?どのように戦えばいいとかあります?」
「ふむ、私もさまざまな変異種を見てきたが多種多様であったな。猪型や狼型、馬型の魔物と幅広い。ただ共通点がありどの変異種も大きくて禍々しい姿をしているから近づけば簡単にわかる。
強さも様々で簡単に討伐できたものもいれば非常に手こずった奴もいる。そして何より面倒なのが大量発生した魔物の多くが変異種を守る傾向があるから変異種に近付くのか大変だな。この点については周りのものと連携する必要がある」
なるほど、姿も強さも実際に見てみないとわからないということか。
「基本的には部下の2人が護衛をしつつ、シェアルの魔法で周りの魔物を一掃しながら進むのが良いだろう。ユウキとリールはシェアルを守り、あわよくば変異種も倒せればといったところか。以前の失敗でわかっているとは思うが間違っても火魔法だけは使うなよ」
「はっ、はいですう!」
なるほど確かにその戦法が一番良さそうかな。俺もリールさんも正面から大勢の敵と戦うよりは変異種を奇襲で狙う方がいいのかもしれない。そしてシェアル師匠よ、さすがに森で火魔法はあかんだろ。
「わかりました、ありがとうございます」
「今回はこの街の冒険者ギルドマスターも出るからそれほど心配するな。以前に変異種を何度も討伐している元Sランクの冒険者だ、あいつに勝てるものなどそうそうおるまい」
おう、あのギルマスやっぱり凄い強いんだな。それなのに一回の使用人相手に軽いノリで死合とかいうなよな。まあ味方のうちは頼もしい限りだ。
「シェアルもリールもユウキも無茶だけは絶対にしないでね!怪我をしそうになったら無理をせず引くのよ」
「はい、わかりました」
さて心配性の主人のためにちったあ頑張りますか!
最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます!
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誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けますと非常に嬉しいです( ^ω^ )