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第35話 秘密兵器

「「「いらっしゃいませ、エレナお嬢様」」」


 工場いる人総出でエレナお嬢様のお出迎えをする。流石にこの時ばかりはモラムさんもガラナさんも頭を下げる。


「まあみんな、お出迎えありがとう!ふふっ、もう頭をあげていいわ。みんなのおかげで明日からここで作られたものが商品として販売されるわ。本当に1ヶ月間ご苦労さま。さあ、中に入って、今日はみんなで美味しいものを食べましょう」


 今日はリールさん以外の屋敷の人は全員来ている。さすがに屋敷を空っぽにするわけには行かないのでかわいそうだがリールさんはお留守番だ。


 工場の食堂は人が増えても問題ないように大きめに作ってあるのでスペースは十分にある。早めに来て作っておいた料理と屋敷から持ってきた飲み物で乾杯の準備をする。エレナお嬢様と子供達とカミナさんと俺は果実のジュース、大人の方々はアルゼさんが持ってきたお酒だ。


「それじゃあ堅苦しい挨拶は抜きにして、いよいよ明日からみんなが作ってくれた商品が販売されるわ。今は忙しいかもしれないけどすぐに人も増やして休みも増やすようにするわね。1ヶ月間本当にお疲れ様!乾杯!」


「「「乾杯!」」」


 持っているグラスを近くにいる人たちと軽くぶつける。こっちの世界の乾杯も元の世界と一緒のようだ。


「かぁ〜うめえ!」


「あぁ〜これだ!」


「ぷはぁ〜うますぎるだ!」


 相変わらずの3人は久しぶりに並々とコップに注がれたお酒を飲んで大満足な顔をしている。ちなみに今飲んでいる酒はここで作った蒸留酒だ。エレナお嬢様が3人に飲んでいいと許可をくれた。


 しかしよくあんな強そうなお酒をうまそうに一気に飲めるな。俺もいつかあの酒がうまいと思える日が来るのだろうか。


「ふふっ、みんな美味しそうに飲むわね。今日はいっぱい飲んでも大丈夫よ、でも一気に飲み過ぎると身体には悪いそうだから気をつけてね」

 

「「「エッ、エレナお嬢様!?」」」


 3人が座っている席にエレナお嬢様とアルゼさんがやってくる。事前にエレナお嬢様から聞いてはいたが、お祝い中は席をまわってみんなと話がしたいそうだ。


 エレナお嬢様も週に1回工場に様子を見に来たり差し入れを入れてくれたりしていたが、なかなかゆっくりと話す機会はなかったからな。


「ここ、この度は奴隷であるおら達にまでこんなうまい酒やうまい飯をくれて感謝しているだ。そそ、それに奴隷であるおら達に休憩どころか休みまでもくれるだべか。おら今以上に頑張るだ!」


「私はまだお酒が飲めないからみんなに正直な感想を言ってもらえて本当に助かっているわ。今でさえこんなに頑張ってくれているんだから、あんまり無茶はしちゃだめよ」


「はいだ!」


 うんうん、上司としてこういうコミュニケーションは大事だよね。


「おい、ガラナ」

 

「ああ、モラム、今しかねえな」


「あら、ガラナにモラム、どうしたの?」


 何やらモラムさんとガラナさんが話している。奴隷紋もあるし、今更エレナお嬢様をどうこうしようとは思ってないはずだけどなんだろう。絶対にないとは思うが少し身構えてしまう。


「「俺たちを買ってくれて本当にありがとうございました」」


 大きな声をあげ頭を大きく下げる二人。


「あんたの命を狙った俺たち犯罪奴隷をわざわざ買ってくれて本当に感謝する」


「普通の犯罪奴隷なら死ぬまで働かさせられて使い潰されるだけだ。休憩も与えられて、こんなにうまい酒と飯まで食わせてもらえるなんて思ってもなかった」


「俺は奴隷の主人になるような奴にはろくなやつがいねえと思っていた。奴隷を物のように扱う主人ならマシな方だ。少なくとも俺は家畜以下の扱いしか受けてねえ。


 だがあんたは違った。俺たちをちゃんと名前で呼んでくれ、人間として扱ってくれた。それだけのことだが俺にとっては何よりもありがてえ」


 モラムさんの言うことはわかる。奴隷だからといって人として扱ってくれないことは何よりも苦しい。


「私の方こそごめんなさいね。領主として奴隷制奴隷自体を廃止にしたいのだけど、私にはまだ力がなくて……でも必ず奴隷制度は廃止してみせるわ!」


「……んなこと考えてたのか。だが、あんたが謝ることなんかねえ。少なくとも俺らはあんたに救われた」


「そうだぜ!こき使われてあとは死ぬだけの人生だったが、大好きな酒を作らせてもらっているし、まともな飯や睡眠ももらっている。これ以上の不満はねえぜ」


「……モラム、ガラナ。ありがとう、そう言ってくれると私も嬉しいわ!ふふっ、もし奴隷制度が廃止できたとしてもこのままここで働いてくれると助かるわね」


 そうだな、みんなのためにも何としても奴隷制度を廃止させたい。そしてそのあとも引き続きエレナお嬢様に仕えさせてもらえるとありがたい。


「俺もエレナお嬢様に感謝してるよ!奴隷商でボロボロだった俺たちを助けてくれたもん!いつもお腹すいて、お前らみたいなクズガキ買うんじゃなかったって言われてもう死んじゃいたいって思ってた。でも今はとっても楽しいもん!」


「私もエレナお嬢様に助けてもらったわ。私はそんなに可愛くないし、どうしてお前だけ売れないんだっていつも怒鳴られてたわ。でもここなら美味しいご飯も食べさせてもらってるし、みんなすごく優しいの!お母さんとお父さんに会えないのはとっても寂しいけど今すっごく楽しいもん!」


「……ルイス、ミレー、ありがとう。一月後に一度みんなの村に行くってお母さんとお父さんに会えるからもうちょっとだけ我慢してね」


 ルイスとミレーもマイルとサリアと同じように盗賊に攫われてきて奴隷になってしまっていた。マイルとサリアの村、ルイスの村とミレーの村はそれほど離れていないので一月後にそれぞれの村に行く予定だ。


 アルゼ様は不要だと言っていたが、個人的には少しの間だけでいいから両親に会わせてあげてほしい。ただ、おたくの娘さん奴隷商で売られていたから奴隷として買っちゃったよ、てへペロ。なんて両親に報告に言ったらぶっ飛ばされるに違いない。


 一応法律的には奴隷商から正式な手続きで買ったこちらに分があるが、親の気持ちを考えたら複雑だ。


 エレナお嬢様は奴隷商から買った金額を払ってもらえれば奴隷から解放し、そのまま従業員として残ってもらうよう話すと言ってはいたが、子供達の話を聞く限りそれほど裕福な家庭ではなく難しそうである。まあ両親との話は完璧執事のアルゼさんが何とかしてくれるだろ。


「わしも感謝しておる。このまま死にゆくだけの老ぼれが今までに食べたことのないうまい飯を食わせてもらって楽しく働けるなんてこんなに嬉しいことはない」


「わしもじゃ。怪我で足が動けなくなって金も稼げず奴隷になって全てを諦めていたところじゃった。わしを買ってくれたエレナ様にも足を治してくれたシェアル様にも本当に感謝しておる」


「もちろん私も感謝しているさね。子供や夫に死なれてお金もなくなって、一人寂しく死ぬところだったババにもこんなに可愛い孫みたいな子供達ができた。おまけに好きだった絵を描くこともやらせてもらってもらえて幸せさね」


「……ラッセルさん、ブロンテさん、カミナさん。こちらこそ手伝ってくれてありがとう。いつも長い時間働かせてしまってごめんなさい。私の方こそとても感謝してるわ」


 やばいな、涙腺が崩壊しそうだ。こういうドラマみたいなのはあかん。


 こちとら金八先生のドラマで1シーズンごとに一回は必ず泣くくらいにはこう言う話に弱い。泣かせに来てると分かっていても泣いてしまうぜ。特に第6シーズンとか反則だよな、あれで泣かない人はいないと思えるほどやばい。


 ゴンッ!!


「「いてえ!」」


「……ふん、話は終わったようだな。だが、モラムにガラナ、何度も言っているがちゃんとエレナお嬢様と呼べ。次にあんたなどと言ったら今の二倍の力でいくぞ」


「わっ、わりいな旦那。失礼しましたエレナお嬢様」


「すまねえ旦那。気をつける」


 ここで空気を読まないアルゼさんのゲンコツがはいる。いや、逆に空気を読んでくれたのかもしれない。お祝いならもっと楽しい雰囲気がいいもんな。


「まったくアルゼったら。別に呼び方なんて何でもいいのに。さあみんなせっかくのお祝いなんだしお腹いっぱい食べてね。とっておきのデザートもあるからお腹は少しだけ空けといてね」


 そんな感じでみんなは食事を楽しみ始めた。これだけ美味しそうに食べてくれると作った身としても嬉しい。まあ予想はしていたけどいつもの3人組は料理そっちのけでアルゼさんと酒を飲んで熱く語っていた。もう好きにしてくれ。




「さあ、今日は最後にとっておきのデザートがあるわ。みんな集まって!」


 みんなを中央のテーブルに集める。そして四角い黒い箱を置く。箱の上にはブランド名である金色のアルガネルの文字とアルガン家の紋章を少しいじったブランドマークがある。


「これも明日からお店で販売される予定よ。これもお酒やリバーシや将棋みたいにユウキが考えてくれたの。本当にユウキはいろいろ知っていてすごいわ。みんなにも少しお裾分けね!これは『ケーキ』という甘いお菓子なの」


 そういいながら箱を開けるとそこには真っ白な生クリームの上に色とりどりのフルーツがのったケーキが入っていた。


 そう、これが今回の秘密兵器であるケーキだ。


 酵母液ができたことにより、こちらの世界のものには遠く及ばないがスポンジケーキを作ることができた。生クリームに適したミルクを探し出したっぷりの砂糖とフルーツを使ってできたのがこのフルーツケーキである。カカオらしきものはまだ見つかっていないがいずれはチョコレートケーキも作ってみたい。


「うわ〜すっごく綺麗!これお菓子なの?」


「上にのっているのは色々なフルーツかのう?それにしても美しいのう」


 そう、こちらの世界では料理の味や量にはこだわるが見た目にはあまりこだわっていないように思えた。そこでこのフルーツケーキだ。


 漆黒の箱を開けるとさまざまな色のカットしたフルーツを白いクリームの上にのせてデコレーションされた美しいケーキが姿を見せる。さらにケーキを切ると中から三層に分かれた中身が顔を出す。


「なんじゃこりゃ!とんでもなく甘えじゃねえか!」


「オラこんなにうまいもん食ったの初めてだべ!」


 そして味に関してもかなりの出来だ。こちらの世界では高価な砂糖や高価な果物をふんだんに使っている。素人の俺が作った試作品でさえ相当な美味さだったが、これは更に材料を厳選し、こちらの世界の菓子職人に作ってもらった物である。


 さすがにこれは素人で量産することは難しいため、菓子職人を雇い街の中心地に新しい店を借り、そこで生産している。それでも手作業であるため大量生産は難しいがようやく商品として販売できるレベルになった。


 正直に言ってたとえ他の商品が売れなかったとしてもこれだけは売れるとはっきり断言できる。娯楽や食の楽しさが求められているこの世界で、味も見た目も最高なこのケーキが売れないわけがない。


 高価な砂糖やフルーツをたくさん使用したため、お値段はかなり高くなってしまったが、元の世界のブランド物のように高ければ高いほど欲しがる金持ちな貴族様とかいっぱいいそうだしな。


「いやはや世の中にこんなに美味しいものがあるとはねえ」


「美味しいです〜ううっ、やっぱり毎日でも食べたいですねえ」


 試作品を食べてもらったときもシェアル師匠やサリナ、エレナお嬢様に大好評で毎日でも食べたいと言われたが、砂糖や生クリームなどカロリーの高いものを使っているから食べすぎると太るという警告はしておいた。


 さすがに3人とも年ごろな乙女であるだけに苦い顔をしながらやっぱり毎日はやめるといってたのには少し笑ってしまった。


 それにしてもなんだかいいなこういうの。主人と奴隷という立場だけどみんなで仲良く美味しいものを食べて飲んで笑いながらの団欒というものは。いつか奴隷制度が廃止されてこの光景が当たり前の世の中になることを祈ろう。


最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます^ ^


【評価】と【ブックマーク】を何卒よろしくお願いしますm(_ _)m


誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けると非常に嬉しいです( ^ω^ )

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